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[記者手帳]韓国の福島原発汚染水への対応と大統領の言葉、外相の苦悩

登録:2021-04-21 06:55 修正:2021-04-21 07:27
現場から 福島原発汚染水への対応の混乱を見守る
文在寅大統領が14日、新任の相星孝一・駐韓日本大使(左側)の信任状を受けとった後、記念写真を撮っている=大統領府提供//ハンギョレ新聞社

 福島第一原発の汚染水を希釈し海に流すという日本政府の13日の決定が出た後、韓国社会はもう一度大騒ぎになった。実際の放出は2年後に行われるというが、被害を懸念する漁業従事者のため息は深く、中国などの周辺国と協力し日本の無責任な決定を阻止しなければならないという声が響きわたる。「すべてのものを捧げて汚染水を防ぐ」という大学生30人は20日午後1時、日本大使館前で断髪し、同日開催された国会外交統一委員会での懸案質疑で司会を務めた共に民主党のキム・ヨンホ幹事は、日本政府の決定を最初から「法を犯す行為」だと断定した。

 この巨大な反発の流れに大きな影響を与えたのは、おそらく14日に公開された文在寅(ムン・ジェイン)大統領の発言だったであろう。文大統領はこの日、信任状を提出しに大統領府を訪問した相星孝一・駐韓日本大使に「地理的に最も近く海を共有する韓国の懸念はきわめて大きい」と述べ、それに先立つ大統領府内部の会議では、関係省庁に対し「国際海洋法裁判所に、日本の原発汚染水の海洋放出の決定に対し、暫定措置とあわせ提訴する案を積極的に検討」するよう指示した。

 外交政策的にみる場合、文大統領のこの日の二つの発言の間には深淵のような隔たりがある。汚染水放出という無責任な決定を下した隣国に「強い遺憾」の意はいくらでも示すことはできるが、その国家の決定をひっくり返すために国際海洋法裁判所などに提訴を「積極的に検討」すれば、外交的な対立は避けられなくなる。日本は韓国の遺憾表明は受け入れるだろうが、自分たちの国家の意志を打ち破ろうとする“国際法的な試み”には激しく応戦するに違いない。さらに日本は現在、国際原子力機関(IAEA)と米国という巨大な友軍を確保している状態だ。韓国より図体が大きい日本を相手に戦うには、有利な戦場を選ばなければならない。勝算が高くはない戦いに乗りだすには慎重でなければならない。韓日軍事情報保護協定(GSOMIA)の中断を派手に叫んでからわずか3カ月で取りやめ、国民を失望させたのはほんの2年前だ。

 そのような判断のためだったのだろうか。チョン・ウィヨン外交部長官は19日の対政府質問で、十分な科学的根拠を提示するなど韓国政府が日本に要求する三つの条件が満たされ、汚染水放出が「IAEAの基準に合う適合性手続きに従って行われるなら、あえて反対することはない」と述べた。 多くの複雑な条件を付けたが、「あえて反対することはない」とし、日本の放出を容認する態度を示したのだ。韓国政府が達成しなければならない外交的な目標を、「放出阻止」ではなく、正確な情報公開と緻密な事後モニタリングにより、実際の国民の健康に大きな影響が生じないよう管理することに設定したのだと解釈できる。政府当局者は本紙に対し「日本が情報交換をせず秘密裏に放出することには問題を提起できるが、汚染水放出が国際法違反であることは明確だという専門家は多くはなかった」と述べた。

 文大統領が指示した「暫定措置」を引き出すには、日本の措置により発生する「重大な損傷を防止するための緊急の必要性を(韓国政府が)立証しなければならない」(チョン長官の20日の発言)とされる。菅義偉首相は13日に今回の決定を公開し、問題となる汚染水内のトリチウム(三重水素)の濃度を日本基準の40分の1にした後に流すと述べた。もし、韓国が日本の主張をひっくり返せるという確信がないのであれば、法的な戦いをむやみに始めてはならない。

 外交部も同様の判断を下したようにみえる。外交部の本音は、20日の国会外交通商委員会に提出した表紙を含め8ページからなる資料『福島原子力発電所の汚染水の海洋放出決定の現況報告』を通じてうかがい知ることができる。わずか6日前に大統領が取り上げて下した指示を、冒頭ではなく最後のページの末尾に「国際紛争解決手続きへの回付など、司法的な対応も検討」すると抽象的に言及するのに留めた。チョン長官はそのような資料を作成した理由を問う外交部第1次官出身のチョ・テヨン議員の質問に「海洋法裁判所をただちに取り上げて論じるのは時期尚早だと判断した。大統領がおっしゃったのは、そのような方向まで検討するようにということだ。外交部はそこまで行くための段階的な措置を経なければならない」と述べた。

 それならば、大統領に「海洋法裁判所への提訴」のアイデアを提供したのは誰だったのか。大統領の発言がわずか6日で事実上ひっくり返る光景には当惑させられる。今回の事態をめぐる混乱を1日も早く収拾し、国民の健康権を脅かす日本の汚染水放出に対する「透明な情報公開」がなされるよう、最大限の外交努力を注いでくれることを祈る。

キル・ユンヒョン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/991820.html韓国語原文入力:2021-04-21 02:44
訳M.S

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