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米国はなぜ福島原発汚染水の放出に強い懸念を示さないのか

登録:2021-04-19 06:48 修正:2021-04-19 07:53
米国のジョン・ケリー気候変動問題担当大統領特使が18日、ソウル市内のホテルで国内外メディアの記者懇談会に出席している=駐韓米国大使館提供//ハンギョレ新聞社

 「米国は、日本政府による福島原発汚染水の海洋放出が、深刻な環境破壊と健康に対する危険を引き起こすことがあり得るという韓国の懸念を共有するのか」(記者団)

 「重要なのはなによりも実行だ。米国は、日本政府が国際原子力機関(IAEA)と完全な協議を行い、IAEAが極めて厳格な(汚染水処理および放出の)手続きを用意したものと確信している」(米国のジョン・ケリー気候変動問題担当大統領特使)

 1泊2日の日程で韓国を訪問した米国のジョン・ケリー気候変動問題担当大統領特使は18日午前、ソウル市内のホテルで開かれた国内外メディアの記者懇談会で、記者団の“懸念”の質問に“確信”で答えた。日本政府が福島第一原発の汚染水放出の過程でIAEAと緊密に協力することを確信しているとし、米国が介入する意向はないと明らかにしたのだ。米国は、125万トン以上の放射性物質による汚染水が海に捨てられるということに対し、懸念はないのだろうか。

 ケリー特使はこの日「(この問題で)重要なのは、IAEAが(汚染水の処理および放出の)過程をモニタリングする際の日本の持続的な協力」だとしながら「原子力安全基準とIAEAの努力を支持する」と明らかにした。あわせて「放出の手続きは注意深く進められなければならないが」、日本がIAEAと今後も緊密に協力すると「確信」した。

 ケリー特使は、日本が韓国政府の要求した情報を提供することについて米国が役割を果たす意向はあるのかを問う質問にも「日本とIAEAの能力に対する確信」および「米国とIAEAの関係に対する確信」に言及することで返答を続けた。米国は、関心を持って進行の手続きを見守るが、公式の対応をとる計画はないことを明確にした。

 ケリー特使の「懸念」は、「汚染水の放出が米国国民の健康に及ぼす影響に対する懸念はないのか」という質問では現れた。彼は「当然、皆が懸念を持ってはいるが、そのためにIAEAが存在している」と述べた。続けて「私たちは施行の過程で公衆保健に対する脅威がないかを確認するために、他のすべての国家のように見守り、関与するだろう」と答えた。

 実は、ケリー特使の反応は予見されたものだった。これに先立ち、米国のアントニー・ブリンケン国務長官と国務省が、日本政府の汚染水放出の決定発表の直後に出した声明も同じ流れにある。

 米国側の立場は、14日(現地時間)に公開された米国食品医薬品局(FDA)の発表をみればもう少し明確になる。FDAは13日、日本政府の汚染水放出の決定を伝え、汚染水が「ALPS(多核種除去設備)で処理され、セシウムおよびストロンチウムのような有害な放射性核種を除去し、放射能が弱くさほど有害ではない同位元素であるトリチウム(三重水素)だけが残る」とし、トリチウムが「人間と動物の健康に及ぼす危険は極めて低く、いかなる健康への危険も、(汚染水の)海洋放出による希釈効果でよりいっそう最小化される」と付け加えた。あわせて「FDAは、福島の事故による放射性核種が、米国の食品供給に安全ではない水準で存在したり、公衆保健問題を引き起こすという証拠は持っておらず、この措置(汚染水放出)が、日本から輸入される食品および米国の海岸でとれる海産物をふくめ、米国内の食品には影響を及ぼさないと信じる」と明らかにしている。FDAは、国際報告書などに対する科学的検討と、日本および米国内に輸入された食品のサンプリングをもとにこのような結論に達したと伝えた。

 これに先立ちFDAは、2014年に環境庁(EPA)および海洋大気庁(NOAA)と共同発表した報告書で、すでに2011年の福島原発の事故後に「福島の事態に起因する放射性核種が、米国の食品供給において公衆保健問題を提起するほどの水準だという証拠はない」と結論付けたことがある。当時は「被ばく量基準を超過した日本産イカナゴなどは、日本の海岸の外には移動しない」ということや「米国に輸入された海産物に対する検査結果」など、米国に及ぼす影響に焦点を合わせており、福島原発汚染水の“安全性”を直接見積もる尺度として借用するのには無理があるという指摘も出ていた。しかしその後すぐに、米国原子力規制委員会(USNRC)も公開された資料をもとに「福島第一原発から海に流れていった低水準の放射能は、米国の保健または環境へのリスクを招く水準には遠く及ばない」と結論付けた。福島原発汚染水をめぐる米国政府の立場は、すでにこの時に決まっていたわけだ。

 FDAはその一方で、14日の対応発表で、放射性核種による汚染が含まれる可能性を理由に、福島をはじめ青森、千葉、群馬、茨城など14カ所の農水産物約100種類の輸入を禁止する「輸入禁止令99-33」(Import Alert 99-33)は「引き続き有効」と指摘した。この措置は、福島の事故直後の2011年3月から10年間継続されている。

 韓国政府は、日本が十分な情報提供をしておらず、福島原発汚染水の海洋放出が「安全であると国民に説得する根拠はない」という声を強めている。また、米国については、2014年の報告書などを根拠に、これまで福島原発汚染水の問題に強い関心を持っていなかったとみて、米国を含む周辺国を相手に汚染水放出問題をめぐる外交戦を予告している。実際、チョン・ウィヨン外交部長官は17日、ケリー特使との晩餐でこれに関して「(韓国)政府と国民の深刻な懸念」を伝え、「米国側が関心を持ち、協力してくれること」を求めた。米国の一次的な返答は、この日のケリー特使の懇談会で確認された。福島原発汚染水の放出まで2年しか残っていない韓国政府の「外交の時間」は順調ではない見込みだが、国連を始め中国、ロシア、台湾なども汚染水放出に反対しており、これらの間での共同対応の可否にも関心が集まる。

キム・ジウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/991526.html韓国語原文入力:2021-04-18 20:04
訳M.S

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