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イランが韓国タンカーの乗組員たちの解放に踏み切った理由とは

登録:2021-02-04 06:32 修正:2021-02-04 07:50
核合意への復帰を望むイランの現実的外交路線と 
問題解決に取り組んだ韓国の外交努力が重なり合った結果 
イラン革命防衛隊が1月4日(現地時間)、中東産油国の主な原油輸送路であるホルムズ海峡で、韓国籍船舶「韓国ケミ号」(1万7426トン)を拿捕する過程を撮影した映像を公開した=FARSニュース動画よりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 イランが先月4日、ペルシャ湾の環境汚染を理由に拿捕した韓国船舶の乗組員たちを、抑留から1カ月後に“電撃的に”解放することを決定したことで、その背景に関心が集まっている。覇権国の米国だけでなく、不倶戴天の敵であるイスラエル、ライバルのサウジアラビアなどと対峙しながら培ってきたイランの外交気質からして、予想よりも早く解放されたと言える。

 まず、今回の釈放はイラン側の決定によって電撃的に成立したものとみられる。こうした“緊張感”は2日夜10時ごろに公開された韓国外交部の報道資料からも確認できる。外交部は同資料でイランとの交渉を総括する「チェ・ジョンゴン第1次官が午後6時50分から約30分間、1カ月近く続いている韓国船舶および乗組員たちの速やかな抑留解除のため、イラン外務省のセイエド・ アッバス・アラグチ次官と電話で話し合った」と伝えた後、アラグチ次官が「船長を除く乗組員たちに対する抑留を優先解除することに決めたことを“通知した”」と明らかにした。外交部は、この電話から数時間経って報道資料を発表した。イランが実際に釈放の決断を下すかどうか、100%確信できなかったためだ。外交部は2日夜、ロイター通信を通じて関連事実が公開され、イラン外交部報道官がホームページを通じて釈放事実を公式化した後、夜10時ごろ報道資料を配布した。石橋を十分叩いてから渡ったというわけだ。

 イランはなぜこのような決定を下したのだろうか。

イランのセイエド・ アッバス・アラグチ外務次官とチェ・ジョンゴン外交部次官//ハンギョレ新聞社

 まず、公開された資料の内容を見てみよう。イラン外務省のサイード・ハティブザデ報道官は2日の発表で、イラン政府が今回の決定を下した理由について「韓国政府の要請とイラン司法の規定に基づき」海洋汚染を起こした「乗組員たちに対する人道的措置として、彼らがイランを去ることができるように許可した」と述べた。そしてアラグチ次官がチェ次官に、韓国が保管しているイラン資産70億ドルの凍結を「解除すべき必要性について強調した。両国はこの金融資産を解除する有効なメカニズムについて協議した。韓国側もこの凍結資金をできるだけ早く供給するために最善の努力を尽くすと述べた」という事実も公開した。外交部も報道資料で「チェ次官はイランの凍結資金に関し、韓国政府が独自に解決できる部分は速やかに実行し、米国側との協議が必要な問題に対しては対米協議を透明に進めていくことをイラン側に説明した」と明らかにした。両国の資料を総合すると、イランが凍結資金問題に関する「完全な解決策」が保証されない状況で、東アジアの伝統的友好国である韓国との関係を考慮し、乗組員たちの解放という先制措置を取ったことが分かる。事件発生後、外交部が取ってきた迅速な対応が凍りついたイラン側を溶かすことにある程度成功したわけだ。

抑留中の韓国船舶の乗組員たちの解放事実を発表するイラン外務省のサイード・ハティブザデ報道官。抑留された乗組員たちのうち韓国国籍は5人で、残りはミャンマーやベトナム、インドネシア国籍だ。船長の抑留は続く=イラン外務省ホームページよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 次は資料で公開されていない内容を見てみよう。

 イランの韓国船舶抑留事件が世界的に大きな関心を集めたのは“微妙なタイミング”のためだった。イランはドナルド・トランプ米政権が投げ捨てた「イラン核合意」への復帰を公言してきたジョー・バイデン新大統領の就任を目前にした時期に、今回の事件を起こした。拿捕前日の1月3日は、米国がドローン攻撃で「イランの英雄」と称えられるイラン革命防衛隊のガセム・ソレイマニ司令官の暗殺から1年になる日で、拿捕当日の4日にはイランがイラン核合意の制約を破り、濃縮度(兵器用の高濃縮ウランの濃縮度は90%以上)20%のウラン生産を再開した。今後の米国との関係設定で、イスラム革命防衛隊(IRGC)などイラン内の強硬派が勢力を伸ばす格好だった。韓国船舶の拿捕も革命防衛隊によって行われた。

 ところが、それからイランは慎重な態度を示している。米国と周辺国を挑発するよりは、イラン核合意を復活させようとする現実的なアプローチを取っている。これと関連し、イランのモハンマド・ジャヴァード・ザリーフ外相は1日(現地時間)、米国メディアのインタビューで、イランは米国と関係を再設定する準備ができているとして、米国に迅速な対応を求めた。これを受け、トランプ政権によるイラン核合意の破棄を批判してきた欧州連合(EU)は2日、米国とイランの核協定への復帰に向け、積極的な仲裁に乗り出した。「バイデン政権とどのような関係設定をするのか」という外交路線をめぐるイラン内部の激しい論争の末、ひとまず「穏健派」が勝利を収めた格好だ。しかし、ザリーフ外相が「米国に残された時間はあまりない」と述べたように、米国が急いで対応しなければ、イランが強硬姿勢に転じることも十分考えられる。

 このような国際情勢の緊迫した流れを踏まえると、今回の乗組員たちの解放も米国との関係改善という大きな脈絡で実現した可能性が高い。当初「穏健派」と分類されるイラン外務省は、抑留直後から「今回の抑留は凍結資金とは関係ない『海洋汚染に関する技術的見解』」という方針を維持してきた。イラン外務省がこのような公式方針を固守したため、早期解放が実現できた。結局、核合意への復帰という合理的な対外政策を選択したイランの戦略的選択と、事件後の韓国政府の努力が重なり合い、乗組員たちの解放という大きな外交成果につながったと言える。

キル・ユンヒョン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/diplomacy/981572.html韓国語原文入力:2021-02-03 14:10
訳H.J

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