北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が25日、北朝鮮軍の銃撃により、韓国の漁業指導員が死亡した事件について、「思いもよらない不始末が発生し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と南の同胞たちに大きな失望感を与えたことを非常に申し訳なく思っている」という内容の通知文を韓国政府に送ってきた。
ソ・フン大統領府国家安保室長は同日のブリーフィングで「25日午前、北朝鮮側が通知文を送ってきた」とし、「北朝鮮労働党中央委名義の通信で、北朝鮮は『22日夕方、黄海南道康リョン郡沿岸で正体不明の者が我が(北朝鮮)領海深くに不法侵入し、我が軍によって射殺(推定)される事件が発生した」と明らかにしたと伝えた。
北朝鮮側はしかし、遺体を燃やしたという韓国政府の発表については、「焼却したのは海に浮くための器具(北朝鮮は「浮遊物」と表現)だった」として、遺体を燃やした事実はないと否定した。北朝鮮側は通知文でこうした事実を伝え、「南北関係に明らかに芳しくない影響を及ぼす出来事が我が水域で発生したことに対し、貴側に申し訳ない気持ちを伝える」と謝罪した。
さらに、ソ・フン室長は、最近1カ月以内に文在寅大統領と金正恩委員長が親書を交わしたと述べた。
[以下は北朝鮮側が送ってきた通知文の全文]
大統領府 御中
貴側が報道した通り、22日夕方、黄海南道康リョン郡金洞里(クムドンリ)沿岸水域で正体不明の者1人が我が領海深く不法侵入し、我が軍の軍人たちによって射殺(推定)される事件が発生しました。
事件の経緯を調査したところによると、この水域で警備を担当する軍部隊が漁労作業中の我が水産事業所の副業船から正体不明の男性1人を発見したという通報を受けて出動し、康リョン半島沖の我々側沿岸に浮遊物に乗って不法侵入した人に80メートルまで接近して身元の確認を要求しましたが、初めの1、2回、大韓民国の誰々とごまかすように言っただけで、それからは何も答えなかったといいます。
取り締まりの命令に口をつぐんで応じないため、我が軍の兵士たちがさらに近づき、2発の空弾を撃ったことに驚いて伏せるなど、正体不明の者が逃走を図るような状況になったそうです。一部の軍人たちの陳述によると、伏せる際、何かをかぶろうとする行動を取るのも見たといいます。
我が軍の軍人たちは艇長の判断のもと、海上警戒勤務規定が承認した行動準則に基づき、不法侵入者に向かって約10発の射撃を行い、この時の距離は40~50メートルだったそうです。
射撃後、何の動きも音もなかったため、約10メートルまで接近して確認・捜索しましたが、正体不明の侵入者は浮遊物の上におらず、大量の血痕が確認されたそうです。我が軍の軍人たちは、不法侵入者が射殺されたと判断し、侵入者が乗っていた浮遊物は、国家非常防疫規定に基づき、海上現地で焼却したそうです。
これまで当指導部に報告された事件の顛末に関する調査結果は以上です。
我々は貴側軍部が何を根拠に、我々に不法侵入者の取り締まりと取り締まり過程に対する釈明を求めることもなく、一方的な憶測で「蛮行」、「応分の代償」などの不敬で対決色の強い表現を使っているのか、遺憾の意を表せざるを得ません。
我が指導部は、起きてはならないことが発生したとし、このような不祥事が再発しないように海上警戒監視と勤務を強化すると共に、取り締まりの過程で些細なミスや大きな誤解を招くことがないように、今後、海上での取り締まりの全過程を収録する体系を立てるよう指示しました。
我々は、北南間の関係に明らかに芳しくない影響を及ぼす出来事が我が水域で発生したことに対し、申し訳なく思っています。我が指導部はこのような残念な事件により、最近わずかながら積み上げてきた北南間の信頼と尊重の関係が崩れないよう、緊張して覚醒し、必要な安全対策を講じることを繰り返し強調しました。
国務委員長金正恩同志は、ただでさえ悪性ウイルス病魔の脅威に苦しんでいる南の同胞たちを助けるどころか、我が水域で思いもよらない不始末が発生し、文在寅大統領と南の同胞たちに大きな失望感を与えたことについて、非常に申し訳なく思っていることを伝えるよう、指示しました。
今回起きた事件に対するそちらの正確なご理解をお願いします。
朝鮮労働党中央委員会統一戦線部
2020年9月25日