本文に移動

人民革命党事件の被害者を“借金拷問”に…国情院、裁判所の調停勧告にも応じず

登録:2020-07-07 08:19 修正:2020-07-07 09:37
被害者イ・チャンボクさん、政府に請求異議訴訟 
二審で「両者間の調整」決定にも 
国情院「同意する合理的な根拠はない」 
国家賠償金の返還という従来の方針固守 
 
人民革命党事件を無罪に導いたキム・ヒョンテ弁護士 
「大統領府と法務部が手をこまねいており 
加害者が刀を振り回している」
「人民革命党(人革党)再建委員会事件」の被害者であるイ・チャンボクさん。2017年2月に発表された不動産競売開始決定により、京畿道楊平郡のイさんの自宅が競売にかけられ訴訟を起こしたが、国情院は裁判所の調停案を受け入れなかった=イ・ミョンソン記者//ハンギョレ新聞社

 1974年の「人民革命党(人革党)再建委員会事件」(1974年、中央情報部が民青学連を北朝鮮の司令を受けた地下組織として起訴した事件。2007年に再審で無罪判決)の被害者イ・チャンボクさん(82)が、再審による無罪判決後に仮支給された国家賠償金を返還する責任を一部軽減するよう、裁判所が調停案を出したが、国家情報院(国情院)がこれを断ったことが確認された。前の政権から、過去事件の被害者らが受け取った賠償金を最高裁(大法院)の判決に基づき不当利益金として還収してきた国情院が、いまだに従来の方針を固辞しているのだ。

 6日のハンギョレの取材を総合すると、先月25日にソウル高裁民事9部のソン・チョルウ部長判事は、イさんが政府を相手取って起こした請求異議訴訟の控訴審で、両側の調停で解決する決定を下した。裁判所はイさんが返還しなければならない賠償額のうち利子は免除し、元金4億9千万ウォンのうち2500万ウォンを先に払えば、国情院がすでに申請した競売を取り下げる条件を提示した。ソン部長判事は「(イさんが)生涯経験した苦痛と痛みは国家賠償制度だけで完全に治癒することはできない。にもかかわらず、政府が不当利得金判決に基づいた強制執行に乗り出せば、人生の黄昏期に入った原告に過酷な結果を招くことになるだろう」として、調停を勧告した。

 しかし、国情院は「一審で国がすべて勝訴しており、すでに他の債務者の任意返済と強制執行が一部完了している状況で、調停に同意する法的・合理的根拠がない」として、調停案を拒否した。調停が挫折した以上、判決が言い渡されれば、既存の最高裁の判例によってイさんが敗訴する可能性が高い。

 イさんが国情院の強制競売執行に異議を唱えて起こした訴訟は、2013年に国情院の「不当利得金返還」訴訟から始まった。再審で無罪の確定判決を受けた人革党事件の被害者たちは、損害賠償訴訟を提起して一、二審で勝訴し、イさんには賠償額である約16億3500万ウォン(約1億4700万円)の65%の10億9千万ウォン(約9800万円)が支給された。しかし、最高裁が2011年、「賠償金が過剰に策定された」とし、遅延損害金の発生時点を不法行為が発生した時点ではなく、損害賠償訴訟の弁論終結日に変更したため、イさんが受け取るべき34年分の利息が消えた。その結果、賠償額は約6億ウォンに減り、国情院が返還金を受け取るために彼の家を競売にかけたのだ。最高裁の判決後、債務を返済できなかった期間に年20%の利子がつき、国情院に対するイさんの“借金”は約13億ウォン(約1億1700万円)に膨らんだ。

 朴正煕(パク・チョンヒ)政権時代、罪のない市民を国家転覆陰謀勢力と決めつけて投獄した中央情報部の後身である国情院が、最高裁の判決を根拠に被害者たちの賠償金の還収に積極的に乗り出しているわけだ。文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足してから、今年3月には国家人権委員会も遺族ら救済案を設ける意見を大統領に示し、期待も高まった。しかし、今回の決定を見ると、政権が変わっても大統領府はもちろん、国家訴訟遂行者である法務部も加害当事者である国情院に弁済を押し付けているという指摘が出ている。

 人民革命党再建委員会の再審で無罪を導き出したキム・ヒョンテ弁護士は、「元金を返すというイさんの意思も受け入れなかった国情院は、事実上2次加害をしている。法務部は国家訴訟の最終責任を負う機関にもかかわらず、その役割を果たさず、大統領府も過去事問題を解決すべきなのに手をこまねいている状況で、国情院が刀を振り回している」と批判した。法務部は「(調停の)受け入れについては、該当機関(国情院)が検討中と把握しており、所価が10億ウォン未満であれば法務部の承認対象ではないため法務部からの回答は難しい」という立場を示した。

 現在、不動産競売や差し押さえ措置が取られる可能性のある人革党事件の被害者は、イさんを含めて11人ほどだ。これに先立ち、故チョン・マンジンさんの妻であるチュ・グクヒャンさんも裁判所から調停案を提示されたが、国情院が「調停を受け入れた場合、債権者としての権利に背くため、背任が成立する可能性がある」として控訴し、判決を待っている。

 イさんは、同日に行われた電話インタビューで、「(もう)年老いて、いつ死んでもおかしくない年齢になった。人生の終盤に住み慣れた家から追い出されることになれば、その心情は言葉では言い表せないだろう。国が(調停案を)受け入れないのはあまりにひどいのではないかと思う。ここまで人を追い詰めるのが国のやることなのか」と述べた。今月16日に同事件の控訴審判決が言い渡される。

チャン・イェジ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/952501.html韓国語原文入力:2020-07-06 21:33
訳H.J

関連記事