多くの人は関心を示さなかったものの、北朝鮮が「対北朝鮮ビラ」などを問題視し、先月16日に開城にある南北共同連絡事務所を爆破した直後、朝鮮半島周辺では微妙な軍事的動きがありました。米日が北朝鮮を刺激する敏感な「戦略資産」を動員し、朝鮮半島周辺で合同軍事演習を行ったのです。
両国はどのような演習を行ったのでしょうか。米日軍事当局が公開した「報道資料」をもとに見てみましょう。自衛隊の航空幕僚監部(韓国の空軍参謀本部に相当)は先月末、核弾頭を搭載できる米空軍の戦略爆撃機B-52と護衛任務に就いた日本の戦闘機が、「日米共同対処能力及び部隊の戦術技量の向上を図る」ため、2回の演習を行ったと発表しました。最初の演習は、北朝鮮が南北共同連絡事務所を破壊した翌日の17日に行われました。2機のB-52が航空自衛隊の12機のF-15と4機のF-4、計16機の日本の戦闘機と「日本海及び沖縄周辺空域」を飛行しました。続いて6日後の23日には、米国の2機のB-52と米海軍の艦載機「E/A-18G」2機が、航空自衛隊の主力戦闘機「F-2」4機とともに太平洋上空を飛びました。
次は海軍です。日本の海上自衛隊は、米海軍の沿岸域戦闘艦(LCS)「ガブリエル・ギフォーズ」と、海上自衛隊の練習艦「かしま」と「しまゆき」が、23日に南シナ海で「戦術運動、通信訓練」を行ったと発表しました。
自衛隊の報道資料に書かれた無味乾燥な文章を読んだだけでは、この訓練がどのような意味を持つのかピンと来ないかもしれません。まず、B-52が東海(トンへ、日本海)を飛んだというのは、いかなる意味を持つのでしょうか。米国が同盟国に提供する「拡大抑止(核の傘)」を象徴するB-52は、1953年以来70年近く活躍している巨大な爆撃機です。米国は北朝鮮が朝鮮半島で軍事挑発を行うたびに、「成層圏の要塞」と呼ばれるこの機体を朝鮮半島上空に飛ばしてきました。挑発を続ければ、「核攻撃」を仕掛けることもあり得ると露骨に威嚇しているのです。
しかし、今回は朝鮮半島内部にまでは進入せず、その周辺の東海の周囲を飛行しました。米太平洋空軍司令部は「爆撃機を飛ばすのに金がかかりすぎる」というドナルド・トランプ大統領の不満に抗しきれず、今年4月にグアム島に配備されていた5機のB-52を本土に帰還させました。しかし、今回の事態が発生した直後の先月30日、そのうちの3機をアラスカのイールソン空軍基地に前進配備しました。この決定の戦略的意味は大きいと考えられます。米本土に持ち帰っていたB-52という戦略資産を、わずか2カ月半で再び朝鮮半島近くに引っ張って来たからです。
海軍の演習はいかなる意味を持つのでしょうか。ガブリエル・ギフォーズは、2011年1月に頭を貫通する銃撃を受け、奇跡的に生還した民主党所属の元女性下院議員にちなんで命名された艦船です。ステルス機能を備えたこの戦闘艦は、レーダーに映りにくいため、敵の海上近くで作戦を遂行することができます。中国軍のレーダーであまり捉えられていないとすると、元山(ウォンサン)や、咸興(ハムフン)などの北朝鮮東海岸を監視する北朝鮮軍のレーダーでも捉えられないのは明白です。それだけではありません。米インド太平洋軍司令部が先月29日と4日にそれぞれ公開した資料によると、それとは別に、米空母ロナルド・レーガンとニミッツがフィリピン海と南シナ海でそれぞれ演習を行っていたことが分かります。2隻の空母が参加した演習は非常に異例です。
この演習は朝鮮半島と少し離れた南シナ海とフィリピン海で行われたため、ひとまず香港国家安全法の制定などの問題で米国と対立している中国を牽制するためのものと推定されます。しかし、朝鮮半島周辺に米空母のような戦略資産が展開されることに極度の脅威を感じる北朝鮮は、このような一連の動きを非常に慎重に見守っていたことは明らかです。これに対抗して中国は5日まで、自国を囲む三つの海、すなわち黄海、東シナ海、南シナ海で同時に軍事訓練を行ったことを明らかにしています。
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長には思い出したくない悪夢があります。北朝鮮が続けざまに大陸間弾道ミサイル(ICBM)級ミサイルを撃った2017年11月、東海では米日の殺伐とした合同軍事演習が行われました。この演習はロナルド・レーガン、セオドア・ルーズベルト、ニミッツなどの米空母3隻や、日本の準空母いせ、護衛艦いなずま、まきなみなどが参加する大規模なものでした。不安を感じた北朝鮮は11月20日の朝鮮中央通信の論評を通じ、「日本が合同軍事演習に熱を上げるのは、米国とともに新たな朝鮮戦争を引き起こそうとする戦争狂気」とし、「朝鮮半島で戦争の火の手があがれば、日本も絶対に無事ではいられない」との警告を発しています。
この演習は単なる演習だったのでしょうか。そうではありません。米国は北朝鮮の核の脅威が最高潮に達していたこの時、北朝鮮に限定的な先制攻撃を加えるという「鼻血作戦」を真剣に考えていました。米国は同年4月、シリアでこのような「鼻血作戦」を強行しています。これについては非常に興味深い証言が残っています。当時、自衛隊の統合幕僚長だった河野克俊は、引退後の昨年5月、朝日新聞とのインタビューで、「ジョセフ・ダンフォード米統合参謀本部議長と2~3日に1度、ハリー・ハリス太平洋軍司令官とも準備態勢について情報を交換した。米国が軍事行動を起こし、朝鮮半島に有事(戦争)が発生する可能性も考え、もしそうなれば自衛隊はどう動くか考えた」と語りました。米国が本当に軍事行動を起こす可能性があると見て、自衛隊はそれに備えた計画を立てたということです。もしそうなっていたら、2018年以降の「奇跡のような平和」は訪れていなかったかもしれません。
北朝鮮はこれまで、韓米同盟と米日同盟の様々な軍事的脅威に対応してこなければなりませんでした。朴槿恵(パク・クネ)政権は2015年にオバマ政権とともに、北朝鮮首脳部を除去する「斬首作戦」が含まれる「作戦計画5015」を作成していますし、日本は現在、自衛隊が北朝鮮のミサイル基地などの軍事拠点を直接攻撃する、いわゆる「敵基地攻撃能力」を確保するための法律の検討を進めています。それだけではありません。北朝鮮は2017年5月に、米中央情報局(CIA)と韓国の国家情報院が「わが共和国の最高首脳部(金正恩国務委員長)」を暗殺するためにテロ犯罪集団を「我々の内部に侵入」させたと主張しています。これは事実だったのか、金正恩委員長は2018年3月31日に北朝鮮を訪問したマイク・ポンペオ国務長官(当時はCIA長官)に、「あなたが私を殺そうとした人か」と唐突に問うてもいます。
北朝鮮の金正恩国務委員長は先月23日、労働党中央軍事委員会第7期第5次予備会議を開き、北朝鮮人民軍総参謀部が公言していた様々な軍事行動を「保留」させます。「この決定が米日の軍事的脅威のためなのか、韓国政府の真摯な対応のためなのか、はっきりとは分かりません。ただし、2018年以来、南北が築いてきたすべてのものを一気に吹き飛ばしてしまう危険極まりない衝突が、辛うじて回避されたことだけは確かです。平和は依然としてあまりにも遠く、私たちの目の前に広がるものは、依然として千尋の谷です。