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[ニュース分析]暴走続けた北朝鮮が軍事行動計画を保留した理由とは?

登録:2020-06-25 06:58 修正:2020-06-25 09:54
北朝鮮、24日に韓国に向けた拡声器を撤去 
対韓国ビラ散布を見合わせる見込み 
チョン・セギュン首相、ビラ散布の現場点検で応える 
統一部長官の辞任・対北朝鮮ビラへの厳正な対処も影響 
ボルトン前補佐官の回顧録で、文大統領の真剣さが明らかに 
北朝鮮、軍事対立が経済への集中妨げると判断した可能性も
北朝鮮の金正恩国務委員長//ハンギョレ新聞社

 北朝鮮の官営メディア「労働新聞」が24日、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党中央軍事委員長兼国務委員長が「朝鮮人民軍総参謀部が提起した対南(対韓国)軍事行動計画を保留した」と1面トップで報じた。北朝鮮は21日から非武装地帯約30カ所に設置を始めた韓国向け拡声器施設も撤去した。北朝鮮が公言してきた「憤った人民の過去最大規模の無差別ビラ散布闘争」は、当分は実行されないものと見られる。対北朝鮮ビラを問題視したキム・ヨジョン朝鮮労働党中央委員会第1副部長の4日の談話以降、危機へと突き進んでいた緊張した南北関係は一旦“息抜き”に入る見通しだ。

 金正恩委員長は23日、テレビ会議の形で開かれた「労働党中央軍事委員会7期第5回予備会議を指導した」とし、「労働新聞」がこのように報じた。同紙は「党中央軍事委は最近の情勢を評価し、人民軍総参謀部が党中央軍事委7期第5回会議に提起した対南軍事行動計画を保留した」と報道した。2012年に金正恩委員長が就任して以来、「テレビ会議」と「予備会議」が開催されたのはいずれも初めて。

 これに先立ち、人民軍総参謀部は17日の「報道官発表」で、金剛山(クムガンサン)・開城(ケソン)工業地区への連隊級部隊の展開▽非武装地帯への民警警戒所(GP)の進出▽境界地域の軍事演習▽対南ビラ散布支援の「4つの軍事行動」を予告し、「早期に党中央軍事委の批准に提起する」と明らかにした。

 「労働新聞」の報道によると、同日の会議では、「党中央軍事委7期第5回会議に上程する主な軍事政策討議案を審議」▽「本会議に提出する報告、決定書の研究」▽「国の戦争抑止力をさらに強化するための国家的対策を反映した様々な文件を研究」が行なわれたという。ただし、その具体的な内容については同紙も触れなかった。

 1カ月前、党中央軍事委7期第4回拡大会議で「核戦争抑止力強化」(「労働新聞」5月24日付1面)を宣言したのに比べ、この日は「核」を外した「戦争抑止力強化」だけを言及した部分が目を引く。同紙によると、テレビ会議には「党中央軍事委副委員長のリ・ビョンチョル同志と一部の委員が出席した」という。金委員長のほかに唯一実名が挙がったイ・ビョンチョル副委員長は、労働党副委員長と軍需工業部長を兼職する核・ミサイル開発の主役だ。

 金委員長の「対南軍事行動計画の保留」決定を受け、「キム・ヨジョン第1副部長の4日付談話」以降、激しさを増してきた北朝鮮の強硬な対応が“息抜き”に入りそうだ。実際、同日付の「労働新聞」には、キム・ヨジョン第1副部長の4日の談話以降、7日付から毎日登場した「各界の反響」という形の韓国非難記事は1件も掲載されなかった。

今月24日午前、仁川市江華郡の平和展望台から眺めた北朝鮮の黄海北道開豊郡のある山の中腹に設置された対南拡声器が撤去された(下の写真)。上の写真は前日、同じ場所で観測された宣伝用拡声器の様子//ハンギョレ新聞社

 もちろん、金委員長が「対南軍事行動計画」を撤回したわけではなく「保留」しており、韓国に対する強硬な姿勢を崩したと見るにはまだ早い。これを意識したためか、統一部のヨ・サンギ報道官は同日の定例記者会見で、「労働新聞の報道を綿密に慎重に検討し、状況を見守る」と述べた。大統領府関係者も「今はいかなる言及にも慎重にならざるを得ない」と述べた。これと関連して、チョン・セギュン首相が同日午後、京畿道金浦市月串面(ウォルゴッミョン)の対北朝鮮ビラ散布地域を現場点検した事実が重要だ。金委員長の「軍事行動計画保留」の決定に文在寅(ムン・ジェイン)大統領も応えたわけだ。

 ただし、北朝鮮側は同日夜、キム・ヨンチョル党中央委副委員長名義の談話で、チョン・ギョンドゥ国防部長官が同日開かれた国会法制司法委員会で、北朝鮮の方針は「軍事行動の保留」ではなく「撤回」にすべきだと主張したことについて、「度を越した失言」だとし、「自重が危機克服のカギであることを認識すべきだ」と述べた。

 「南北間すべての直通連絡線の遮断」(9日)や「開城南北共同連絡事務所庁舎の爆破」(16日)などの韓国に対する北朝鮮の強硬姿勢とは一線を画し、金正恩委員長が「軍事行動計画保留」を決定した理由を、「労働新聞」は具体的に示さなかった。「党中央軍事委は最近の情勢を評価した」と言及しただけだ。「保留の撤回」の条件も明らかにしなかった。

 金委員長の決定の背景に何があるかを知るためには、文在寅大統領が6・15共同宣言20周年に際し2回行なった北朝鮮に関する発言を激しく非難した「キム・ヨジョン第1副部長の17日談話」以降、北朝鮮の韓国に対する態度・基調に影響を及ぼした可能性がある”新たな要因”を確認する必要がある。第一に、統一部長官の辞任だ。キム・ヨンチョル前長官は南北関係の悪化の責任を取って辞任し、「ここで止めなければならない」と訴えた。第二に、政府与党や京畿道が対北朝鮮ビラ散布について「禁止と処罰」に乗り出したことだ。大統領府と統一部は厳正な対処を重ねて確認し、共に民主党のキム・テニョン院内代表は「対北朝鮮ビラ散布禁止法」の立法に拍車をかけると公言した。京畿道のイ・ジェミョン知事は、境界地域を「危険区域」に指定し、ビラ散布者の出入りを禁止すると共に、ビラ散布をしてきた4団体に対し、警察に捜査を依頼した。このほかに、米国のジョン・ボルトン前大統領補佐官(国家安保担当)の回顧録が影響を及ぼした可能性もある。ボルトン氏の“暴露”が北朝鮮に対する文大統領の“真摯さ”を際立たせた側面もあるからだ。

 また、人民軍総参謀部が予告した「4つの軍事行動」が実行され、南北軍の対立が激化し「9・19軍事合意」が無力化・破棄される状況が、“経済”に集中すべき北朝鮮にとっては望ましくないという戦略的判断を金委員長が下した可能性もある。「経済戦線を基本戦線にした自力更生式正面突破戦」を呼び掛けてきた金委員長は、対北朝鮮ビラ事態の中で行われた労働党中央委7期第13回政治局会議(「労働新聞」7日付1面)でも、「C1化学工業やカリ肥料工業の創設、首都市民の生活保障」を力説するなど、経済・民生への取り組みに力を注いでいる。

イ・ジェフン先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.k)

https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/950748.html韓国語原文入力:20-06-250 2:13
訳H.J

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