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災害の度に「危険の不平等な再分配」…緩和する方策は?

登録:2020-03-07 02:06 修正:2020-03-07 08:00

新型コロナ感染者6千人突破 
高齢者や障害者など、脆弱階層の被害大きく 

非衛生的で採光や換気も不十分な 
劣悪な民間収容施設の環境が「宿主」 
1室当たりの収容人数基準を作り 
公共医療システムの拡充と脱施設の論議を 

緊急対応に押し出される周縁の脆弱層 
放置を防ぐ地域ケアのしくみが必要 
各脆弱階層別の支援策を含めた 
災害対処の詳細マニュアルを構築すべき 
「COVID-20、21にも襲われざるを得ない… 
強固なセーフティネットを構築するきっかけに」

慶尚北道の清道デナム病院の精神病棟に派遣された新型感染症中央臨床委員会が撮影し、先月26日にメディアに公開した同病棟内部の様子。新型感染症中央臨床委員会提供//ハンギョレ新聞社

 「今回の感染症流行で記憶すべき、ある側面がある。ウイルスは、私たちの体と社会の最も弱い部分にまず襲いかかる。3月4日午前現在、32人の死亡者のうち7人は閉鎖病棟の患者であり、残りもほとんどが病気持ちの貧しく孤独な老人だった」

 漢陽大学医学部のシン・ヨンジン教授が最近ハンギョレに寄稿したコラム「悪いウイルスはない」の一節だ。実際に障害者、高齢者、子どもや貧困層などの脆弱階層は、災害が発生すれば普通の人よりも厳しく困難な状況に直面する。災害の種類とは関係なく、古今東西そうだった。1995年に日本で起きた阪神大震災でも、低所得層密集地域であり、在日同胞や留学生なども多く居住していた神戸市長田区が最も多くの死者と負傷者を出した。

 今回の新型コロナウイルス(COVID-19)事態でも同じだ。感染者や死者に占める脆弱階層の割合が高いだけでなく、感染拡散を防ぐために「社会的に距離を取る」という方針によって、各種のケア・雇用事業などが中断され、脆弱階層の多数が困難を強いられている。誰もが知っている不都合な真実である「災害の前ではより脆弱となる脆弱階層」問題を解決する方法はないのだろうか。「危険の不平等な再分配」の実態と、これを緩和する方策を検討してみた。

■多人数生活施設に集中する被害者たち

 COVID-19の流行によって生活を脅かされることになった脆弱階層は、大きく二つに分けられる。ウイルス攻撃への対応力が落ち、直接的な感染の危険にさらされた健康弱者と、各種社会福祉関連プログラムの稼動が中断し、放置の危機に置かれることになった一般脆弱階層だ。もちろん、災害の直接的な被害者である前者の方が、より急を要するし深刻だ。これに関しては集団収容施設での集団感染という「韓国的現象」が目を引く。

 「問題のアルファでありオメガであるのは多人数施設だ。長期療養は4人1室が基準だが、一般高齢者や障害者、児童が寝食する多人数生活施設には基準がなく、障害者について最近『1室6人以内とするよう努力する』という基準ができたのがすべて。人権や生活の質を考慮して、先進国のように個室で行くべきだが、(COVID-19の流行を経ただけに)これからは健康と生存のためにも個室または2人1部屋体制へと変えていかなければならない」

 大邱大学社会福祉学科のヤン・ナンジュ教授の指摘だ。実際に入院患者100人あまりのほぼ全員が陽性判定を受け、7人が死亡した慶尚北道の清道デナム病院の実状は、国民に衝撃を与えた。5階の閉鎖病棟の収容者はベッドがなく、床にマットレスを敷いて生活していたが、マットレスは成人が横たわると足がはみ出るほど小さく、マットレス同士の幅も2~30センチに過ぎなかった。COVID-19による国内初の死者は、このような環境で20年以上生活していた収容者だった。

 国家人権委もデナム病院と漆谷(チルゴク)の「麦粒愛の家」で発生した障害者集団感染について、3日に「過度な長期入院やずさんな健康管理、採光と換気が不十分な施設環境、適切な運動施設の不足」などの問題点を指摘した。劣悪な居住環境がウイルス拡散の「宿主」の役割を果たしたわけだ。

 ヤン教授は、収容者に対する人権侵害と虐待で社会的波紋を呼んだ重度障害者・認知症高齢者収容施設の大邱希望院でのインタビューの経験についても語った。「年齢や障害の種類などを考慮せず、10数人を一部屋で生活させるようにしたため、収容者たちの間で軋轢が生じた。職員の帰宅後は、自分たちで序列を定めたりケンカしたりと無法地帯になった」という。また「費用の問題もあるだろうが、正しい方向に向かっていくよう韓国社会が合意を形成していくべき時」と付け加えた。

 障害者などを集団居住施設で集団生活させる「施設体制」に対する問題提起も相次いでいる。自立生活ができず、家族も生活に責任を負えないために施設に居住する障害者は、現在3万人ほどと推定される。2008年に政府が批准した国連障害者権利条約では、障害者の自立生活や地域社会への参加などの権利を規定していて、国連障害者権利委員会は2014年に韓国政府に対し「脱施設戦略の樹立」などを勧告している。障害者を施設に長期収容するのではなく、施設から出て地域社会で非障害者と共に暮らせるようにしなければならないというものだ。

■保健医療の公共性強化も重要

 やむを得ず施設収容をしなければならない場合は、公共性を通じて補完しなければならないという指摘もなされている。集団感染が発生した施設はおおむね公共性が弱く、地域社会が介入する余地があまりないため、問題を大きくしていたという。

 実際にCOVID-19拡散の導火線となった清道デナム病院、先月末に20人あまりが集団感染した慶尚北道漆谷の障害者施設「麦粒愛の家」は、両者とも民間が運営する機関だ。4日に職員や収容されていた障害者など9人の連続感染が確認された大邱市北区(テグシ・プック)の障害者居住施設「ソンボ・リハビリ院」も同様だ。5日には慶尚北道奉化郡(ポンファグン)の老人医療福祉施設「プルン療養院」で49人の感染者が確認されている。

 一方、先月25日にはソウル市が運営する障害者治療施設「ソウル・リハビリ病院」(恩平区亀山洞(ウンピョング・クサンドン))は、作業療法士が陽性判定を受けたため機関閉鎖措置が取られたが、それ以上感染者は確認されなかった。ソウル市公共保健医療財団のキム・チャンボ代表理事は「実のところソウル市は緊張していたが、幸いそれ以上感染者は確認されなかった。後から知ったのだが、同病院では1月末から職員の健康状態の点検や感染者発生時の行動要領の熟知など、COVID-19対応のための様々な活動をしていた」と語った。マニュアル化された民主的で透明な機関運営だけでも、感染拡大をある程度防ぐことができるということだ。密集した生活をさせながらも手の消毒剤ひとつ置いていなかった清道デナム病院などの事例とは対照的だ。

各種の福祉館や児童センターなどの閉鎖で脆弱階層も被害を受けている。専門家は、放置可能性のある子どもやお年寄りなどを調査し支援する地域ケアのしくみを構築すべきと提案する。写真は昨年7月に給食が中断されたソウル市内の初等学校の給食室=資料写真//ハンギョレ新聞社

■「押し出された患者」ケアするマニュアルを

 「政府の対応がMERSの時とは比べ物にならないほど良くなったのは事実だ。リスクコミュニケーション・プロセスが確立されるとともに、選別診療-診断-治療、接触者調査-隔離などの手続きも比較的円滑に行われた」(市民健康センターのキム・ミョンヒ先任研究員)

 致死率や拡散の程度などに違いはあるが、2015年のMERS(中東呼吸器症候群)の経験は、政府の防疫システム運営をアップグレードする契機となった。しかし、残念な部分も少なくない。2015年のMERS事態の際にソウル市市民健康局長として市の防疫対策を統括したキム・チャンボ代表理事は「当時、国立中央医療院などの公共医療機関がまず動員され、既に治療中だった障害者、結核やエイズの患者などをみな追い出した。一部は他の病院に移ったが、一部は退院するしかなかった」とし「今回も公共の医療資源がまず動員され、同じ状況が繰り返されたことは残念」と指摘した。

 急を要する状況に対処するために、優先順位が後回しにされた別の社会的弱者が量産される事態が繰り返されたということだ。「非常事態に公共の医療資源が真っ先に動員されるのは当然だが、韓国は公共の医療資源が量的に大きく不足しており、こうした問題が発生する。(長期的に)公共医療体系を拡充すべきだ。また短期的には関心、警戒、注意、深刻の4段階の危機対応レベルの区分基準を明確にして、段階別にどのような資源をどれだけ動員し、脆弱階層対策をどうするかなどを盛り込んだ詳細な計画を立てるべき」と話した。

 緑色病院呼吸器内科のペク・ジェジュン課長も「閉鎖的で集団化した施設は伝染病リスクに弱く、(清道デナム病院のように)問題が発生すれば他の病院に移送することになる。このとき移送される障害者は一人では過ごせないので、支援人員や物資がさらに必要にならざるをえない」とし「このような(障害者などの)特性を考慮した防疫体系の樹立やマニュアルの作成が必要」と指摘した。きめ細かなマニュアル作業を通じて防疫の力量をアップグレードすることで、脆弱階層の保護対策もまた強化できるということだ。

 事態が沈静化した後も「目に見えずに」長く残るトラウマやストレスなどに対応するメンタルヘルス管理の重要性も指摘される。2014年に保健社会研究院は『災害発生時の脆弱階層の社会保障対策』と題する報告書で、個人または世帯単位の所得支援と社会サービスの拡大▽社会保険料減免の要件緩和や受益期間の拡大、などとともに、▽児童・障害者・高齢者などを対象としたメンタルヘルスと心理への支援サービス拡充▽災害発生時のメンタルヘルス支援のコントロールタワー構築▽メンタルヘルス支援のための専門人材の拡充、などを政府に勧告している。

■外郭脆弱階層への対応…地域社会の努力の結合を

 災害対応の過程で優先順位が下がりやすい脆弱階層の保護に関しては、地域社会の積極的な役割を求める声が大きかった。

 ペク・ジェジュン課長は「中国では保護者が陽性判定を受けて入院し、介護が必要な障害者が家に放置されて死亡する事態が発生したが、韓国でも十分起こりうること」とし「政府がすべてを行うことはできないだけに、こうしたケースでは地域社会団体が介護の空白を埋めるコミュニティケア(地域ケア)システムを強化する必要がある」と述べた。訪問サービスを受けられる長期療養等級を持っていたり、障害者活動支援サービスの対象者だったりするケースと違い、それよりも状況が良く、自ら福祉館などを訪れてプログラムを利用していた人が、死角地帯に残る可能性があるということだ。一人で過ごす時に必要な物資などを十分に調達しているかどうか確認できない可能性があるためだ。

 実際に、全国で最も多くの感染者が出ている大邱では最近、大邱社会サービス院と大邱市社会福祉士協会が共同で、緊急の介護支援者募集に乗り出したという。「社会的に距離を取る」との方針によって休館となった福祉館や地域児童センターなどに勤務していた人材を採用し、緊急ケアが必要な人を助ける措置を取ったのだ。

 ペク課長は「自ら孤立し、伝染病から自分を守れというのが『社会的に距離を取る』ということだが、ある人にとってはその孤立が危機へとつながる可能性がある」とし「基本的には『距離』を取りつつも、社会的弱者とは『社会的連帯』もしなければならない」と述べた。市民健康研究所のキム・ミョンヒ常任研究員(元乙支医科大学予防医学科教授)も「日常的にケアが必要な階層が家庭で放置されているかを確認するシステムを構築するとともに、必要ならば限定的にでも施設を再開することも検討すべき」と指摘した。

 キム常任研究員はさらに、情報へのアクセスが難しい移住民に対する地方自治体や労働庁を通じたコミュニケーション・チャンネルの構築▽事業所で安全や保健面で差別されている可能性のある非正規・不安定労働層への対策として、労働庁による差別行為取り締まり意志の公言▽結核やエイズなどの特定疾患の患者については、転院や退院の際の専門機関による助言の義務化など、脆弱階層の類型に合わせた政策作りが必要だと付け加えた。

COVID-19の流行は、普段見過ごしていた韓国社会の素顔を明らかにする契機となった。韓国は今回の危機をきっかけに、災害への備えや脆弱階層のケアシステムをアップグレードできるだろうか。写真は先月21日に清道デナム病院の前に救急車が待機している様子=資料写真//ハンギョレ新聞社

 前例のないCOVID-19の流行は、普段みなが蔑ろにしてきた韓国社会の素顔を確認する契機となっている。だとすれば、最も重要なのは、牛がいなくなった後からでも牛舎をきちんと直そうとする努力や姿勢ではないだろうか。シン・ヨンジン教授は「傷が見つかれば治療すればいい。今回明るみになった問題点に目を配り、強固なセーフティーネットを構築する、災い転じて福となすきっかけとすることが重要。今後もCOVID-20、COVID-21が次々と襲ってくるだろうから」と語った。キム・ミョンヒ常任研究員は「ある程度(緊急を要する状況が)過ぎ去ったら、市民社会の多様な当事者が集まって、伝染病流行への対応や準備過程などを評価し、こうした内容が政府の次の計画に反映されるようにすることが重要」と述べた。

ハンギョレ経済社会研究院 イ・スンヒョク首席研究員

(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/rights/931453.html韓国語原文入力:2020-03-06 15:03
訳D.K