ジヘ(仮名・18)とソンフン(仮名・22)夫婦は、お腹の赤ちゃんと共に安定した家庭を築くことを夢見ている。だが勇気を持とうとしても、韓国社会でこれから親になる若い夫婦の生活は行き詰まるばかりだ。まだ扶養能力を備えていない「青少年父母」を支援する制度がないからだ。ソンフンがそばにいる限り、ジヘは一人親家族福祉施設に入ることができない。ジヘの扶養義務者であるジヘの母親が世帯分離に同意しなければ、基礎生活(日本の生活保護にあたる)受給費ももらえない。
ところで、ジヘ夫婦のように助けが切実に必要な青少年父母が韓国ではないところで子どもを生んだとしたら、どうなっただろうか。ハンギョレは15日、美しい財団と韓国未婚の母支援ネットワークの支援を得て、外国の青少年父母の支援政策をくまなく探り、ジヘ夫婦が置かれた条件をこの政策に適用して、彼らの「違う人生」を描いてみた。
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産婦人科から青少年父母を助けるアイルランド
アイルランドに住むジヘは、検診のため立ち寄った産婦人科ですぐに「10代の父母のための機関」を紹介されることになる。機関所属のカウンセラーは、彼ら青少年父母に妊娠対処や中絶支援、管理などについて詳しく説明する。政府も乗り出す。まず、子どもを生み育てることに決めた人たちのための「当事者個別化支援」に入り、出産と養育に無理がないかを確認した後、状況別の代案を青少年父母に提示する。状況が深刻な場合、家族との関係も同時に管理する。もし青少年父母当事者が難民や未登録滞在者などの脆弱階層であれば、特別管理の対象になることもある。
アイルランドは国民の88%がカトリック教徒であるだけに保守的な国だ。しかし、韓国の「プマシ」(相互扶助)と似たような「メヘル」文化のもと、「コミュニティが子どもを守らなければならない」と考え、2000年代序盤から青少年父母に向けた政策を打ち出し始めた。アイルランド保健児童省に「10代の父母支援プログラム」(TPSP)という傘下機関を置くほどだ。すべての支援は、韓国とは異なり「一人親家庭」でなくても青少年父母であれば誰でも適用対象となる。TPSPの総括コーディネーターであるマーガレット・モリスは、ハンギョレとの書面インタビューで「中央政府の統計によると、10代の母親の30%が婚姻届をしたり、子どもの父親と一緒に住んでいるが、青少年父母はすべての未婚の母や未婚の父とまったく同じ財政的支援を受けられる。こうした政策は、危険にさらされやすい青少年父母の子どもたちのために作られたものだ」と話した。アイルランドでは、まだ高校生のジヘは政府から学費や交通費ももらえる。この国では、大部分の10代の母親が教育を受ける。ジヘが授業を受けている間、子どもは国が世話をする。体調などで学校に通うことができない状況の時は、教育部が対象の青少年父母に家庭授業を受けさせる。これは、学業を終えることができなかった人びとが学校を卒業した学生らに比べ、失業率が非常に高いアイルランドの現実のためだ。学歴や学閥によって差別が激しい韓国も、アイルランドの現実とあまり違いはない。アイルランド政府は、子どもを早く生んで育てなければならない青少年父母も同じスタートラインから社会生活を始める機会を与える。
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子どもがいるということのみが重要な先進国たち
アイルランドのほかにも、多くの欧州諸国が児童保護に焦点を合わせ、青少年父母を支援する。英国は2017年の一年間で4世帯のうち1世帯が一人親家庭で、このうち1%が青少年父母であるというくらい、10代の青少年の妊娠率が高い。英国の青少年父母は、子どもを生んで育てると決めれば、訪問看護サービス、養育費支援などを連携して受けられる。もし18歳のジヘが学校に通うことを望むなら、英国政府は1人の子ども当たり毎週160~175ポンド(約2万3千~2万5千円)の見守り費用を支給する。子どもが4歳になるまでジヘは子どもと一緒に学習・情緒発達のためのプログラムである「シュア・スタート」にも参加できる。
10代の青少年の妊娠率が最も低い国の一つであるオランダは、官民協力が特徴だ。青少年父母政策を受け持つ保健部と教育部は、地域社会の中に支援体系を構築している。地元の保健所でジヘは随時、養育環境や親として突き当たる困難を打ち明け、助けを求めることができる。地域の看護師、医師などが相談役を務める。低所得層が優先入居対象であるオランダの社会住宅制度で、ジヘのような青少年父母は支援対象となる。共用スペースと個人スペースを備えた社会住宅で、青少年父母たちは共同体生活と独立した住居生活を同時に享受することができる。
ドイツの場合は、包括的な家族政策の中で青少年父母を支援する。青少年父母だけを特定して支援するのではないため、社会的な烙印は生じない。ただし、住居の問題があれば家族形態によって母子または父子施設の提供を受けたり、子どもの面倒を見る共同住宅で暮らすことができる。ドイツ全域に300カ所以上ある母子施設では、自己啓発活動、父母訓練、相談プログラムなどを提供する。施設に入所していない場合、毎月164万ウォン(約15万5千円)程度の最低生計費が支給される。青少年父母が成人した後も社会扶助を受ける資格が生まれ、また別の住居支援を受けることができる。住居支援や最低生計費のほかにも、成人したジヘは子ども手当や暖房費などの支援を受けることができる。一人親の場合、毎月100ユーロ(約1万2千円)が追加で支給される。
教育の機会も奪われることはない。ドイツでは青少年が妊娠・出産などの理由で学校に通えなくなった場合、疾病事由と同様に出席を認める。出席日数不足などの理由で学業が中断されるのを防ぐためだ。青少年父母は社会的烙印なしに学校を卒業することができる。また、ドイツの中央政府は一人親の仕事・家庭の両立のために、進学や専門教育を受ける一人親を対象に子ども1人につき113ユーロ(約1万4千円)の子女養育費用を負担している。10歳以上の子どもを持つ場合にも85ユーロ(約1万円)が支給される。
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出生届直後に「事例管理必須対象」登録を
専門家らは、韓国では官民が青少年父母を共同で管理して支援できる「危機対応チャンネル」を設けることが優先されるべきだと指摘している。洞(区の下の行政単位)住民センターなどを中心にしたシステムを構築しようというものだ。新生児の出生届を出す時、親が10代であれば洞住民センターで「事例管理必須対象」に登録し、青少年父母に現在申請可能な支援サービスを案内したり、民間団体につなげるかたちだ。政府は報告されたデータをもとに「未成年父母データベース」を構築し、個別化事例管理に取り組むことができる。
最近、美しい財団・韓国未婚の母支援ネットワークと共に「青少年父母実態調査」を行ったイム・ゴウン研究員(ハンバッ大学基礎融合教育院)は、「外国では、青少年父母を婚姻しているか・同居しているかに関わらず、子育てをする“親”であると同時にまだ社会的保護が必要な“未成年”と見て統合的なアプローチをしている」とし、「現在は青少年父母が妊娠の事実を知ってから、支援を受けるためにセンターなどに自分で問い合わせなければならない状況であるため、青少年と密着して連携する拠点機関などが必要だ」と指摘した。