北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が白頭山(ペクトゥサン)の天池に登り、「自力更生の不屈の精神力」を呼びかけると共に、「自力富強、自力繁栄路線」を繰り返し強調した。さらに「重大な問題を討議決定」する朝鮮労働党中央委員会第7期第5回全員会議を12月下旬に開くと明らかにした。2018年から二年間にわたり続けてきた対米交渉路線に変化をもたらす“重大な決定”を予告したわけだ。
米国が「新たな計算法」を提示せず、「制裁と圧迫」を固守するなら、「新たな道」を模索すると北朝鮮が予告した年末期限が迫る中、金正恩委員長が「新たな道」に進むのに必要な内部整備に拍車をかけているものと見られる。
金委員長は「朝鮮革命の発展と変化した国内外の情勢に合わせ、重大な問題を討議決定するため」、今月下旬に労働党中央委員会全員会議を開くと述べた。北朝鮮が選択する「新たな道」の内容は、この全員会議や2020年の新年の辞を通じて具体的に示されるものと予想されるが、最近の金委員長の言動からその内容を類推してみることもできる。
今月に入ってから金委員長の動きは大きく分けて二つの軸をなしている。一つめの軸は3日、白頭山の三池淵郡(サムジヨングン)の第2段階工事完成式と咸鏡北道鏡城郡(キョンソングン)の衆評野菜温室農場、養苗場操業式への出席で、民生分野の“成果”を宣伝することに焦点が当てられた。二つめの軸は、時期を明らかにしなかった「白頭山地区革命戦跡地」の訪問と天地登頂で、対米戦略を整えることに重点をおかれた。
この中で注目が集まるのは、金委員長の「白頭山構想」だ。朝鮮半島情勢の流れに重大な影響を与えるためだ。まず重要なのは「自力富強、自力繁栄路線」の再確認だ。もう一つは「白頭の革命伝統は朝鮮革命の唯一無二の伝統」だとし、「パルチザンの血に染まった歴史」を喚起した部分だ。金委員長は今回の白頭山訪問で、パク・ジョンチョン朝鮮人民軍総参謀長ら軍首脳部とともに、「軍馬に乗って白頭山大地を力強く走り、パルチザンの血に染まった歴史を熱く抱いた」と、「労働新聞」が報じた。内部的には今年の新年の辞で明らかにした「自力更生の旗印を高く掲げた社会主義建設」、対外的には「パルチザン精神」に基づき、武力誇示を交えた対米対応基調をほのめかしたものと見られる。
金委員長が「自力富強、自力繁栄路線」を「生命線として固く握りしめて」と強調したのは、「新たな道」を歩いても、昨年朝鮮労働党中央委第7期第3回全員会議で決定した「社会主義経済建設総力集中」という国家発展戦略路線を変えないことを示唆したものと言える。「経済・核建設並進路線」への回帰を予想する専門家もいるが、その可能性は低い。「経済・核並進」から「経済集中」へと戦略路線を変える際に掲げた理由が、「国家核武力の完成」と「世界的な核強国」であることから、並進路線に戻るのは辻褄が会わないからだ。さらに、並進路線への回帰は「国家経済発展5カ年戦略」(2016~2020年)を揺さぶる結果となり、金委員長の統治基盤を損ねる恐れがある。金委員長は最近、「自力富強、自力繁栄」が「不変の発展針路」だと強調してきた。
南北関係と北朝鮮核問題の外交経験が豊富な元高官らは、金委員長が適切な時期に「人工衛星の打ち上げ」で北東アジアの状況を揺さぶろうとする可能性があると見通している。「金委員長が核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射カードを使う可能性は相対的に低い。ただし、人工衛星打ち上げカードの使用は排除できない」と指摘する。核実験の際は中国とロシアの積極的な協力・支援を受けることが難しくなるためだ。人工衛星の打ち上げは、大陸間弾道ミサイルと基盤技術が同じであり、国連制裁の対象となるが、北朝鮮は「主権国の宇宙空間の平和的利用の権利を侵害する」と主張してきた。元高官は「金委員長の最近の行動は強力な対米示威だが、米国という国がこのようなやり方では動かないことに問題がある」とし、「危機指数が急速に高まっているのに、状況を変えるきっかけが見つからない」として、懸念を示した。