「病院に行かなきゃ」と子どもは言った。母親はそんな子どもに「待ってみよう」という言葉ばかり繰り返した。熱が上がった子どもはまた「病院に行こう」と催促したが、母親は首を振った。「とてもつらい? 病院、必要ない」と子どもをなだめるばかりだった。ペルーから来た母親は不法滞在者の身分だ。医療保険(健康保険)の恩恵を受けることができず、病院に行くことは考えられない。診療費が負担になるからだ。
不法滞在者の身分のベトナム人の親を持つ別の子どもは、虫歯が9つもあるが歯科に行ったことがない。「お金がたくさんかかるから」と父親は言った。「大きい病院で検診を受けさせたいが、保険がないので行けません」
これらの子どもは「未登録移住児童」だ。親が不法滞在者で出生申告が不可能。どこにも記録されていないため、医療保険の恩恵が受けられない。韓国で生まれ韓国で暮らしているが、出生登録ができず、なんの痕跡もなく暮らしている人たちだ。2010年の初・中等教育法施行令の改正で小学校と中学校には入学できるが、依然として具合が悪くても病院に行けない子どもが多い。
6日、ハンギョレが確保した京畿道外国人人権支援センターの「2019京畿道未登録移住児童の健康権支援に向けた実態調査」最終報告書によると、京畿道の未登録移住児童(満18歳以下)をもつ親は、2組のうち1組が子どもが具合が悪くても病院に連れて行けないことが分かった。「子どもが病気になっても病院に連れて行けなかった経験があるか」という質問に対し、全回答者340人のうち52.1%(177人)が「はい」と答えた。病気になっても病院・医院に行けなかった人の割合である「未充足医療率」が52.1%だということだ。これは、2016年に発表された政府の第7期国民健康栄養調査で明らかになった国内の満12~18歳の児童の未充足医療率5.6%に比べ、10倍近く高い水準だ。病気になっても病院に行けない国内の児童は100人のうち5人の割合だが、未登録移住児童は100人のうち52人に達するわけだ。歯が痛いと訴えた子どもをもつ保護者123人のうち40.7%(50人)も「子どもを病院に連れて行けなかった」と答えた。
子どもを病院に連れて行けなかった理由を問う項目(重複回答)には、回答者の39.3%が「病院費が高いため」を挙げており、「病院に(子どもを)連れていく人がいないため」という回答が18.2%で続いた。
人権支援センターは最近1年間、京畿道の不法滞在者340人を面接し実態調査を行った。地方自治体が未登録移住児童の健康権に対する実態調査をこのように大規模に行ったのはかなり異例のことだ。
「コリアンドリーム」を夢見て韓国を訪れた親は不法滞在者というレッテルを貼られたまま暮らしており、彼らの子どもはまともな医療の恩恵を受けられずにいる状況で、せめて児童だけでも保健医療サービスを支援すべきだという声が出ている。人権支援センターは報告書で「義務教育である小・中学校で生徒の在留資格と関係なく教育を受ける権利を保障し、学校安全共済会の支援対象に含め支援する事例を参考にして、未登録移住児童に国籍や在留資格を与える過程なしに、自主的に彼らを保健医療行政サービスに包摂する方策の検討が必要だ」と明らかにした。
もちろん反論も根強い。「子どもの健康権を保障すれば不法滞在者を量産することになる」という声が代表的だ。しかし、これに対し「『生存権的基本権』としてすべての児童の健康権を規定した国連児童権利条約以降、欧州など世界的に未登録滞在者とその家族(特に妊婦と児童)に国民(あるいは市民)に準ずる健康権を保障する傾向が広がっている」という指摘も強く提起されている。イ・タクコン弁護士は「米国カリフォルニアでは『健康権は基本権として皆に保障されなければならない』という『なすべき』だからということだけでなく、究極的に公共保健予算の負担を軽減し、移住児童らが健康に成長してこそ労働市場に正常に進入できるという点を挙げ、未登録滞在者にも医療サービスを提供している」とし、「韓国もすでに200万人を超える移住民が共に暮らしている社会という現実を考慮すると、これらの児童に対する適切な医療サービスの提供は『なすべきこと』である以上に政策的にも理にかなっている」と話した。