彼女は光化門(クァンファムン)広場で踊った。他の女性たちの手を取って円を作った。広場の騒音の真ん中で、ゆっくりと穏やかに動き続けた。平和を祈願する動作だ。20日、米国大使館前で南北平和と終戦を求める記者会見を終えたところだった。人生の大半を街頭で送った85歳のこの女性は、同日も街頭で女性の権利を、女性が作る平和の重要性を訴えた。2002年の最初の訪問の時や2011年の時と同じく、今回もサングラスに皮のライダースジャケット、黒いズボン姿だった。
9・19南北共同宣言記念として京畿道が主催した「2019DMZフォーラム」の基調演説者として招かれ、4年ぶりに再び訪韓した彼女は、世界的な女性運動家であり言論人のグロリア・スタイネム氏。同日午後、ソウル寿松洞(スソンドン)のあるホテルで彼女に会った。
「2019DMZフォーラム」基調演説に続き
20日、米大使館前で「朝鮮半島終戦」会見
2015年に続きハンギョレ単独インタビュー
「MeToo、脱コルセット…韓国の変化は鼓舞的」
「性平等社会は『不可能な夢』ではない」
「逆差別を主張する前に男性も頑張らなければ」
「とても素晴らしく、鼓舞的な現象です」
デジタル性犯罪の公論化、堕胎罪廃止、「MeToo」運動から「脱コルセット」(社会が強要する女性性に抵抗すること)運動まで、2015年以降の韓国社会の固定観念を覆しているフェミニストたちの活躍に対するスタイネム氏の最初の反応だった。「韓国だけでなく世界的な流れだ」と付け加えた彼女は、「私のような人がこれからもっとたくさん現れてほしい」と笑った。ちょうど彼女は同日、ソウル明洞(ミョンドン)のYWCA連合会の講堂で、韓国のヤング・フェミニストたちとの会合を控えていた。
性平等はまさに民主主義の問題だ。スタイネム氏は「女性は完全な民主主義の中で生きてこられなかった。女性が自分の体や発言を自ら支配する権利を持てなかったからだ」と断言した。社会的に大きくなった女性の声が政治、経済など制度圏の変化につながらないのもやはり「民主主義の不足」のためだ。
「民主主義は、家でも社会でも平等な時に可能なこと。本当に平等な社会のためには、まず男性も女性と同じくらい育児に参加しなければなりません。女性が完全な存在になるために教育を受け仕事を持つようになったように、男性は家に帰ってきて子どもを育てながら忍耐や共感力を育てなければなりません。これは『女性の資質』ではなく『人間』としての基本的な資質でしょう。男性も『完全体』になるためにはこのような努力が必要です」
彼女はこのような姿が「不可能な夢ではない」と言った。家父長制が確立される以前の歴史を振り返らなければならないということだ。「遊牧社会では男性が家で子どもの面倒を見、家事分担をしてきました。米国を見ても、欧州の家父長主義者が上陸する前の原住民の社会は母性中心でした。韓国の歴史はよくわかりませんが、済州島もそうじゃないでしょうか。母系中心だったと聞いてます」
最近、フェミニズムに対する反発で男性たちからの「逆差別」という主張も激しくなっていると言うと、彼女は「(男性が)優位にあり、特権を持つ社会文化に慣れているからだ」と診断した。「同じ条件で女性のほうがよい試験成績や成果を出すというのは、各自の能力によるものであって、差別や逆差別の問題ではないでしょう。男性がもっと頑張らなければならないという意味です。このような反発を乗り越える方法は、結局女性たち各自の知恵にかかっていると思います。私が正解を出す立場ではありませんから」
彼女はジェンダーや人種という概念はすべて人為的に作られたものであることを強調した。最近の急進フェミニズムの波の中で、性的マイノリティを排除しようとする動きに対し、「私たちは皆、自分のアイデンティティを決定できる権利がある」と断固として言った。「私は二つのアイデンティティだけで生きる社会になればいいと思います。一つは『私のアイデンティティ』、もう一つは『人間としてのアイデンティティ』です」
「変化がなかなか起こらないとき、疲れたことはなかったか」と聞いた。「それがまさに運動が必要な理由」だと彼女は答えた。世界中の女性たちの話を聞き、これを記録して生涯を生きてきた彼女は、「ともに運動する人」の大切さを語った。彼女は「希望と価値を共有する一種の『選ばれた家族』のようなもの」と語った。「一人では変化は不可能だ」。 女性は「階層(rank)ではなく連係(link)が重要だ」という、彼女が常に強調してきたメッセージと同じ脈絡だった。
「良い年の取り方」も気になった。彼女は「出産の可能性のために女性の老化はより多くの差別を受けてきた」と指摘し、すぐににっこりと笑った。「でも、私たちは子宮だけでなく脳も持っているじゃない? 若い女性により多くの価値を与えるシステムを拒否しなきゃ」
「私の最後の願いは言葉通り道を開くことだ。これまで道は圧倒的に男たちの領域だった。男たちは冒険を象徴し、女たちはかまどと家庭を象徴していた」(回顧録 『道の上の人生』より)
「これまで人生を支えてきた信念は何か」という質問に、スタイネム氏はこう答えた。「人生は冒険です」。彼女らしい答だった。