情報警察はいかにして“リバイアサン”になったか
朴槿恵政権の好みの情報という“上命”に
国会や行政省庁、マスコミ各社、敬老堂などから
“手足”の役割果たす情報官が現場で情報収集
情報別に大統領に直接報告・首席室に伝達
上級情報警察、実績によって要職への昇進を重ねる
“休業”から40日ぶりに開かれた司法改革特委
「警察から情報機能を分離しよう」という案件に
警察庁長官「警察の手足を切り離すのか」と反発
「情報活動を通じて、何が危険をもたらし、国民の生命と財産を侵害するのか分かってこそ取り締まりと捜査ができる。それを不可能にするのは警察の手足を完全に遮断することだ。警察としてはとうてい受け入れられないとの意見を申し上げる」
今年4月29日、捜査権の調整など、司法改革法案をファストトラック(迅速処理対象案件)に載せたのを最後に、40日以上“休業”状態だった国会司法改革特別委員会全体会議が、10日に開かれた。会議に出席したミン・ガプリョン警察庁長官は、警察から情報機能を切り離し、「国家情報庁」を設置しようという自由韓国党の法案は、「警察の手足を切るようなもの」だとして、強く反発した。彼は「情報警察の改革策が不十分」という与党議員の指摘にも同意しなかった。政治的な査察や動向把握に変質する恐れのある「人事検証」と「政策情報」の収集について、ミン長官は「国家機関の中で実行できる省庁がなく、警察が法に基づいて行う正常な機能」だとし、引き続き維持する考えを示した。
過去の情報警察の違法行為を独自に捜査してきた警察は先月、「大統領府が指示した通りに従っただけ」とし、情報警察の中心人物を処罰対象から外した。検察は、再捜査を求めて事件を再び警察に送致した。その後、検察は朴槿恵政権時代に全国の情報警察組織を動員し、違法査察と選挙介入を行ったなどの容疑でカン・シンミョン元警察庁長官やヒョン・ギファン元大統領府政務首席秘書官を拘束起訴した。また「法の枠組み内」と言っていた違法情報活動の内密な作動方式も具体的に公開した。大統領府は政権の好みに合う情報生産を要求し、情報警察は激しい内部競争で昇進を交換するという構造が長期間固着していた事実が明らかになった。軍事独裁時代でもなく、公務員の露骨な政治介入はいかにして可能だったのか。政権の手足となる"情報リバイアサン”がなぜそのように作動するしかなかったのかを、検察の捜査と起訴内容などをもとに調べた。
■“VIP”の視線を捉える「A報告」
情報警察の力は“VIP”(大統領)の視線を捉えられる「直接報告」に基づくものだった。警察庁情報局で生産され、大統領府に伝達される報告は、大きく分けて三つだ。まず、「A報告」がある。「文バル(足)」で大統領府付属室を通じて大統領に直接報告される主要な報告書だ。「文バル」は「文書を足の付いた人を通じて送る」という警察の隠語だ。それだけ重要だという意味だ。A報告は一週間に一回程度行われるが、主に「民心の動向」という見出しが付けられている。特に、選挙シーズンに「湖南(全羅道)の雰囲気」、「慶尚北道の雰囲気」に関する詳細な分析が報告されたという。
大統領府の指示で作られる「大統領別報」もある。大統領が直接読むA報告は数ページに止まるが、大統領府治安秘書官室を経て政務首席室に報告される別報は量が多く、より具体的だ。2016年の総選挙当時、「大邱(テグ)政界の報告書」などが別報として作成されたという。
最後に大統領府の各首席室に送られる「政策情報」がある。「政策情報」は全国各地の情報警察と国会や行政省庁、マスコミ各社などに出入りする情報分室所属の情報官(IO)が収集した現場の情報が圧縮されている。朴槿恵政権当時、情報警察は政策情報の名目で反対派の政治家などを査察・牽制するため、地域書店や敬老堂(お年寄りが憩う福祉施設)などで情報を収集し、牽制案などを提案した。
■「高速昇進」した上級情報警察
政治的中立義務に反し、政権と“一体”となっていた上級情報警察は、要職への昇進を保障された。今回拘束されたカン・シンミョン元警察庁長官の昇進経路が代表的な事例だ。2007年に政治関連情報を収集・生産する中核ポストの警察庁情報2課長を務めたカン元庁長は、李明博(イ・ミョンバク)政権時代、大統領府の治安秘書官室行政官と警察庁情報局長を経て、朴槿惠政権の初代社会安全秘書官を務めた。さらに、ソウル警察庁長を経て、警察庁長官になった。検察の起訴内容には、2012年の警察庁情報局長時代と2016年の警察庁長官時代の選挙介入情報活動の指示などが含まれた。
2016年の総選挙当時、警察庁情報局長(チョン・チャンベ)、大統領府治安秘書官室主任行政官(パク・ギホ)も、朴槿恵政権時代、2年足らずの期間で総警→警務官→治安監に高速昇進した。彼らが“栄転”を繰り返していた時期は、情報警察が総選挙や地方選挙などで露骨な選挙介入文書などを作成した時期と一致する。
■“実績”の圧迫受ける下級情報警察
情報警察の大半をなし、“手足”"の役目を果たすのは下級情報官だ。全国におよそ3千人がいる。政府の基調に合った情報を生産しなければ認められない人事評価システムの中で、違法な情報収集活動もためらわない。
大統領または秘書室長が主宰する大統領府首席秘書官会議で出た「強調事項のお言葉」が、政務首席を通じて治安秘書官室に伝えられれば、これはまた警察庁情報局を通じて全国の情報警察に伝えられる。「大統領の国政哲学」が情報収集のガイドラインとなるわけだ。警察は「普段(大統領の)言葉や強調事項、行動などを注意深く検討し、国政基調に合う報告書を作成してこそ、国民の不便や不満を伝えることができる」と強調してきた。
“基調”に合った情報は“採択”されるが、そうでない情報は“キル”(廃棄)された。“政策情報”に採択された報告書が多い情報官は加点評価を受ける。実績は順位が付けられ、公開された。競争をあおったのだ。検察は「一部の情報警察は自らを『点数の奴隷』と嘆いた」と伝えた。