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市場化の風に乗って…平壌にタクシーやサービ車走る

登録:2019-04-25 08:46 修正:2019-04-26 08:25
私たちが知らなかった北朝鮮 10) 交通・運輸 

電車・バスよりはるかに高いタクシー 
2016年1500台から6000台に 
10~30人乗りの個人バスも盛業 
「資本主義的個人」の出現を予告 
 
遠距離交通網の中枢である列車は 
あまりにも遅く、商品も載せられない 
個人投資の長距離市外バス  
コンテナ車両に需要が殺到 
「交通『ブラウン運動』のように拡散」

昨年5月31日、ロシアのタス通信が撮影した平壌市内のタクシー=平壌/タス・聯合ニュース

 「人民が古い大衆交通手段に不便を感じている一方、街にはタクシーがだんだん増えるのを見るたびにいつも気が重かったが……」

 金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は昨年8月、平壌(ピョンヤン)無軌道電車工場やバス修理工場、松山(ソンサン)軌道電車事業所を現地指導する際、こう述べたという(「労働新聞」2018年8月4日付1、2面)。「労働新聞」が伝えた金委員長の発言は、異例といえるほど率直なものだ。

 国営の平壌無軌道電車料金は、北朝鮮の金で5ウォンだ。5ウォンは「道に捨ててもいいほどのはした金」だ(平壌出身の20代の脱北者)。一方、事実上私営のタクシーは、初乗り運賃が2ドルだ。500メートルごとに49セント(0.49ドル)が追加される。1ドルは公式の為替レートでは北朝鮮の金で100~110ウォン程度だが、市場の為替レートは8千ウォン前後だ。タクシーの初乗り運賃があれば、無軌道電車を3200回は乗ることができる。目眩がするほどの格差だ。金委員長が新しく作った軌道電車を見て、「今日は空の星でも取ったかのようにわくわくする」と述べたのも、そのためだ。

 金委員長の喜びをよそに、「友人たちは歩いて足が痛くなると、タクシーに乗った」と平壌出身の20代の脱北者は大したことでもないように振り返った。彼は平壌にいる時、携帯電話を3台所有し、商売でかなり稼いでいた頭のいい青年だ。しかし、北朝鮮の都市部以外に居住するほとんどの人民にとって、タクシーという乗り物は、自分たちと何の関係もない別世界の話だ。

 平壌の大衆交通需要は10路線78キロメートルに達する無軌道電車網を根幹に、軌道電車4路線(平壌駅から万景台、楽浪~紋繍、平壌駅~西平壌、松新~大同橋)、地下鉄2路線(千里馬線と革新線)、市内バス33~36路線が支えている。300万人を超える平壌市民の交通需要に応えるにはかなり不十分だ。このような国営交通手段は、料金は安いものの、「列がすごく長い。だから少し金がある人たちは個人バスに乗る」(平壌出身の20代の男性)。「サービ車」(サービス車の略語)または「稼ぎバス」と呼ばれる個人運営の10~30人乗り小型バスだ。通勤時間だけ、無軌道電車と同じコースを運行するが、料金ははるかに高い。機関や企業所の名前を借りてバスを運行する実所有者の一部は、運転手や車長を直接雇用し、ガソリン補充や修理も自分で行う。「中小資本家」に近い。北朝鮮で個人事業のために人を雇うのは不法である。にもかかわらず、ここ数年間、このような事例が増えている。

北朝鮮の金正恩国務委員長が平壌無軌道電車工場とバス修理工場を視察し、新型無軌道電車などを観察したと「朝鮮中央通信」が昨年8月4日付で報道した/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 現在平壌では最大6千台前後のタクシーが運行されているものと推定される(キム・ヨンチョル統一部長官、3月26日の国会人事聴聞会での答弁)。2000年代後半、数十台から出発し、2016年3月に1500台(中国「新華網」)だったことに比べると、急激に増えている。「黎明」(内閣所属)や「KKG」(軍部所属)、「高麗航空」(高麗航空社運営)などのブランドをつけたタクシー会社が5~6社にのぼる。平壌のタクシーの運営主体は表向きには内閣や軍部、国営企業などだ。実際、自分の金でタクシーを買って会社所属に登録した後、直接運転して、納入金を除いた残りを稼ぐ個人もいるという。南側の「(車両)持ち込みタクシー」と類似している。

 北朝鮮は当初、自宅と職場の距離を最大限に狭める「職住近接」の原則によって空間を区分けし、社会を組織した。それだけに交通需要が少なかった。なお、鉄道を主軸にバスが補助する「主鉄縦道」の原則に基づき、交通政策を展開してきた。バスは当初30キロメートル以内の区間を運行していたが、1980年代以降、200~300キロメートル距離の都市間の運行も一部行うようになった。2010年代には平城(ピョンソン)~清津(チョンジン)間の700キロメートルの長距離路線を運行する市外バスも登場した。出入りが制限されている平壌の関門都市であり、流通の中心地である平城市の市外バスターミナルでは、全国主要都市を結ぶ50前後の路線が運営されている。事実上全国交通網であり、この市外バス路線の実際の運営者は、金持ちの個人だ。形式上、人民保安省傘下の「雲林運送合弁会社」も、平壌や新義州(シンウィジュ)、咸興(ハムン)など全国の主要都市をつなぐ長距離バス路線を運営しているが、国家の承認の下、北京運輸会社と北朝鮮の個人資本投資により設立・運営されている。

 「職住近接」と「主鉄縦道」という社会組織原理を根本から揺るがす力は、「苦難の行軍」時期の副産物である急速な市場化だ。遠距離交通網の核心である列車は、安価で大量運送が可能だが、致命的な弱点がある。列車は遅すぎる。清津のスナム市場では、平城の玉田市場まで10トンコンテナ車で物品を運ぶのに運送費が1000ドルもかかるにもかかわらず需要が集中するのもそのためだ。このような車も大概は個人が実際の所有者だが、名目上は機関に所属している。

 市場化は「家と職場だけを行き来していた人民の振り子運動式の交通需要を、四方八方に広げるブラウン運動に質的転換を起こした」(アン・ビョンミン交通研究院先任研究委員)。ブラウン運動は液体と機体の中の微小粒子の不規則運動で、煙や水に落としたインクの拡散を連想すればよい。何よりも、より早くどこでも行ける運送手段に対する需要の拡散は、北朝鮮ではなじみのない“時は金なり”という「資本主義的観念」の拡散とあいまっている。特に、タクシー利用者の出現と拡散は、「一心団結」を生命線としてきた集体社会である北朝鮮に、新主体すなわち“個人”の出現を予告する。

イ・ジェフン先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/891236.html韓国語原文入力:2019-04-24 19:22
訳H.J

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