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金正恩委員長、政権初日に父親の教示廃棄し「経済を再生せよ」

登録:2019-02-15 18:35 修正:2019-02-16 09:27
私たちが知らなかった北朝鮮(5) 
政府がけん引する市場化
 
 
金正日総書記の告別式当日に12・28談話 
「市場は資本主義の温床」という  
父親の教示を電撃的に廃棄し 
「我々式の経済管理法の創造」を指示
2018年6月13日、北朝鮮の沙里院で、ある農業者が田んぼに肥料を撒いている//ハンギョレ新聞社

 「市場は資本主義的要素の本拠地であり、温床だ」

 2008年6月18日、金正日(キム・ジョンイル)総書記が発表した「党・国家経済機関の責任者たちとの談話」の核心メッセージだ。金正日総書記のこの「6・18談話」により、7・1経済管理改善措置(2002年)と総合市場の公認(2003年)に後押しされて拡散した“市場化”に急ブレーキがかかった。これは“市場化”政策の立案者であるパク・ボンジュ首相の解任(2007年4月)や市場統制(2007年10月以降)など、“逆改革措置”を最高指導者の発言として公式化したものだ。

 「経済管理方法を我々式に改善していくための研究事業を進めなければなりません」

 2011年12月28日、金正日総書記の告別式直後、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(当時国防委員会第1委員長)が「党中央委員会責任者一同」を呼び集めて行なった発言だ。金正恩委員長が父親の葬儀を行うや否や切り出した話題が“経済”だ。「12・28談話」と呼ばれるものだが、発言には迷いがない。「何かしてみようと意見を出すと、色眼鏡で見られ、資本主義的な経済管理方法を借用していると横やりが入ります。横やりばかり増えるから、経済事業においては何の対策も立てられず…」。金委員長は「世の中で最も良いとされる経済管理方法をすべて参考にし、我々式の経済管理方法を創造しなければならない」と強調した。「外国の事例」に倣えという指示だ。そして「我々独自の経済管理方法を創造し適用すれば、他国のように改革という言葉を使う必要がない」と付け加えた。金委員長は「市場=資本主義の温床」という父親の“教示”を、父親の告別式の日に事実上廃棄した。そして、世の中で良いとされるものは何でも適用してみるよう促した。トウ小平の「黒猫白猫論」を連想させる。

 「我々式の経済管理方法を全面的に確立しなければなりません。社会主義企業責任管理制を直ちに実施すべきです」

 2016年5月6~7日に開かれた朝鮮労働党第7回党大会で、金正恩委員長が行った「事業総和報告」の一部だ。金委員長が父親の告別式当日に研究を指示した「我々式の経済管理方法」が、約4年4カ月たって最高権威を持った政策として公式宣言されたのだ。

北朝鮮のパク・ボンジュ首相が2018年4月25日に農業研究院を訪れ、施設を視察する様子を「朝鮮中央通信」が報じた//ハンギョレ新聞社

 4年4カ月間、党と内閣に研究・実行組織が構成され、企業所法や農場法、貿易法など、多数の法が改正されるなど、多くの変化があった。何よりも、“制度と計画”に“市場”の視点が加わった。「農場指標」と「企業所指標の拡大」が代表的な事例だ。協同農場は上部指針に基づく「生産計画」さえ満たせば、独自に選んで育てた作物(農場指標)を市場に売ることができる。各企業所も国家が下した生産計画さえ達成すれば、需要に合わせて商品を作り(企業所指標)、市場に売り出すことができる。市場をいかにうまく活用するかによって、「主体経済」の根幹である農場や工場、企業所の賃金・実績・評価が左右される。

 より多くの生産を刺激するため、農業部門では最小生産単位である分組を事実上家族単位に減らした「圃田担当制」を導入した。労働の報酬も、あまり価値のない北朝鮮の貨幣ではなく、作物で支給する方法に変えた。農民はその農産物を市場で売る。今年の新年の辞に登場した「多収穫農場」という言葉は、金委員長がこうした変化を“支持”するという明白な政治的シグナルだ。工場・企業所には「実質的な経営権」が与えられ、「制限のない報酬の支払い」を認め、賃金の上限が事実上撤廃された。

 「我々式の経済管理法」は「主体思想を具現した」という修飾語が象徴するように、公式的には資本主義市場経済を目指していない。例えば(一般農産物と異なり)食糧を市場で売買する行為は依然として違法であり、工場・企業所の単位では、需要に合わせて(市場)価格を定めて販売できるようになったものの、「国家的な価格の自由化」を徹底して排撃する。

 にもかかわらず、我々式の経済管理方法の核心目標である「生産の活性化」と「財政の拡充」を念頭に置いた政策は市場化を後押しする。ヤン・ムンス北韓大学院大学教授を含む多数の北朝鮮経済専門家らは、「現段階で、北朝鮮市場化の最大の動力は政府政策」だとし、「政府が市場化を主導・牽引している」と指摘した。市場を中心とした中・下層人民の自救的・自生的性格が強い“下からの市場化”に、“上からの市場化”が加わったわけだ。

 「市場化の最大の恩恵を受けるのは、最高指導者と権力層」だと指摘する専門家たちもいる。例えば、ホン・ミン統一研究院統一研究室長などの調査・分析によると、404の総合市場(2016年12月基準)で、北朝鮮当局が回収した「場税」(市場使用料)だけで、7千万ドルに達する。市場で商売をした経験のある脱北者は「場税は(自転車・荷物の)保管料に比べれば、何でもない」という。場税は1日に1度、自転車や荷物の保管料は時間単位で(地域人民委員会傘下の)市場管理所が徴収する。自転車や荷物の保管料と場税を加えれば、年間数億ドルにのぼる“財政収入”が発生する。総合市場だけでなく、工場・企業所の取引収益金や国家企業利得金、食堂・商店などサービス業の国家納付金、貿易会社の関税・国家納付金などが当局が“市場”から徴収する“(準)租税”だ。高麗カードやナレカードなどの電子マネーの使用による手数料(2~3%)も国家財政に入る。特に、国家独占によって生み出された携帯電話市場で得る財政が莫大だ。北朝鮮の携帯電話普及台数は、2008年の1600台から10年間で600万台前後に急増した。あらゆる“市場経済活動”は北朝鮮財政にとって、新たに見つけた金の成る木だ。

イ・ジェフン先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/881747.html韓国語原文入力:2019-02-1211:24
訳H.J

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