釜山の海雲台(ヘウンデ)海水浴場が見える海雲台区佑洞(ウドン)の旧東海南部線の海雲台駅。建物の後方には日帝強制占領期間に朝鮮の資源収奪を目的に作った旧鉄道跡がそっくり残っている。線路を横切る道に沿って行けば、海雲台海水浴場側の高層ビルの森とは対照的に、2~3階建ての小さな建物が密集した町が現われる。いわゆる「ヘリダンキル」だ。旧東海南部線の裏側にある2万平方メートル余りの町と商店街を合わせた名前だ。
当初この町は、線路に近いため住民以外はほとんど訪れる人もいなかった。線路に近づけないように積んだ壁でさえぎられた町でもあった。2013年12月に旧東海南部線の海雲台駅区間が閉鎖されたことにより、町が変わり始めた。壁が撤去され、線路が遊歩道として再整備された。線路を横切る通路もできた。ここを訪れる人が次第に増え、2015年からこの町では見られなかった若い感覚のカフェが開店し始めた。ソーシャルメディアを通じて「閑静で余裕のある風景と異色なグルメスポットのある所」といううわさが立った。2017年頃からは、人々がここを「ヘリダンキル」と呼ぶようになった。ソウル市龍山(ヨンサン)の名所である「キョンリダンキル(経理団道」(=陸軍中央経理団、現在の国軍財政管理団の前身があった)をもじった名前だ。釜山発展研究院が発表した「2018年釜山10大ヒット商品」にも選ばれた。旧東海南部線に隠れて取り残されていた町が、線路の閉鎖と再整備を通じて釜山の新名所に生まれ変わった。
ヘリダンキルに入ると、2階建ての家々が見える。家々の間には色とりどりの若い雰囲気の店が点在している。新しい店は50店舗以上あるが、ほとんどがカフェと食堂だ。アクセサリー店や衣料品店、病院もある。ほとんどの店は、住民の家を改造して作られている。2階建てのレストランやカフェもある。これらの店はすべて外壁の色を白や青など一つの色で塗られている。店には各自の個性が込められた装飾品や看板が付いている。室内装飾もすっきりしていて、こぢんまりとしている。町のあちこちに散在している店を見物するには、路地を縫って歩かなければならない。京畿道安山(アンサン)から来たSさん(21)は「海雲台の新名所、ハップル(ホット・プレイスの略語)ヘリダンキルを見にきた。ひと巡りしてから前もって決めてきた美味しい店に行くつもり」と話した。観光客のLさん(21)も「村そのものが単純で気持ちが安らぐ感じ。店もこぢんまりしていて多様さが良い。新鮮に感じる」と話した。
ここのまた別の特徴は、若い店主が営む店が多いということ。フランチャイズの商店がない。安い店賃のおかげで、多くの若者が創業した。ある不動産仲介業者は「ヘリダンキルでは13坪の店を保証金なしの月額賃料70万ウォン(約7万円)台で見つけられる。線路の向いの海雲台海水浴場側で同じ大きさの店を借りるには、保証金1億ウォン(約1千万円)に月500万ウォン(約50万円)はする」と話した。ユン・ジェヨン・ヘリダンキル発展協議会長は「多くの人が訪ねてきて町に活気が満ちている。だが、まだジェントリフィケーション(空間高級化、または追い立て)を心配する水準ではない。商店建物賃貸借保護法も強化されたし、住民も町の発展に気をよくして、ジェントリフィケーションの最小化に努めているため」と話した。さらに「都心のまん中に、ヘリダンキルのように余裕のある空間は珍しい。うまく育てれば、釜山を代表する異色の通りになると思う。結局、コンテンツがカギだ。住民、商人、官公庁が話し合っていかなければならない」と付け加えた。