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遺影も残せなかったある立ち退き住民の死

登録:2018-12-06 10:02 修正:2018-12-06 10:25
母親と住んでいた家を強制執行で追い出され空き家に泊まる 
先月30日、空き家からも追い出された後、自ら死を選ぶ 
「母には賃貸アパートを与えてほしい」遺書残し
今月4日、遺体で見つかった立ち退き住民のパク・ジュンギョンさんが残した遺書=貧民解放実践連帯提供//ハンギョレ新聞社

 ソウル麻浦区(マポグ)阿ヒョン洞(アヒョンドン)の再建築地域で、30代の男性が母親と一緒に借りていた一戸建てから追い出され、空き家と街頭をさまよい、ついに自ら命を絶った。「母には賃貸アパートを与えてください」という最後の願いを遺書に残した。

 ソウル麻浦区役所と麻浦警察署、貧民解放実践連帯などの説明を総合すると、ソウル阿ヒョン洞のある一戸建て住宅で10年間母親と一緒に暮らしていたパク・ジュンギョンさん(37)は、今年9月6日に暮らしていた家から強制執行で追い出された。その後、パクさんと母親は知人の家で生活したが、部屋が小さすぎて一緒に寝ることはできなかった。パクさんは夜になると撤去区域にある空き家を探して眠った。空き家には電気も水も来ていなかった。床は冷気を帯びていた。しかし、厳しい冬の風だけは避けられた。それだけでも幸いだった。寒すぎるときは時々サウナで体を暖めた。

 空き家の生活は長続きしなかった。パクさんが再建築地域に泊まっていることが分かった阿ヒョン2区域の再建築組合の関係者や撤去用役は先月30日、パクさんを家から引きずり出した。空き家から追い出された日、パクさんは母親に会って小遣い5万ウォン(5千円)をもらって一人で去った。パクさんと母親が最後に連絡したのは今月1日だった。パクさんと母親はこの日、「個人用品を家の前に預けておくから持っていって」などの携帯メールを最後にやり取りした。

 パクさんの痕跡が再び見つかったのは2日後だった。ソウル麻浦区望遠漢江公園の管理事務所職員は3日午前11時ごろ、パクさんが公園に置いていった靴や服、そして遺書を見つけ、警察に届け出た。通報を受けた漢江警察隊は4日午前11時35分頃、楊花大橋と城山大橋の間で、パクさんの遺体を発見した。彼の遺体はソウル永登浦区(ヨンドゥンポグ)のある病院に運ばれたが、家族には葬式の遺影に使う写真もなかった。パクさんの母親はパクさんの友だちに携帯電話で撮った息子の写真を尋ねてまわったが、結局見つけることができなかった。結局、パクさんの住民登録証に写っている写真が彼の遺影になった。

 住んでいた家からも、空き家からも追い出されて亡くなったパクさんの話が報じられた4日、「貧民解放実践連帯」と「龍山惨事真相究明委員会」は、ソウル麻浦区役所前で「麻浦阿ヒョン2区再建築地域撤去民死亡事件に対する緊急記者会見」を開いた。

 この日公開されたパクさんの遺書には「寒い冬に風呂にも入れず食べることも寝ることもできず、行く所もありません。3日間寒い冬を道端で過ごし、明日が来るのが怖くて自殺を選びます」と書かれていた。彼は「私はこのまま死んでも母は全撤連(全国撤去民連合)の会員と苦労しながら闘争中なので心配です」とし、「私はこのようになっても、母には賃貸アパートを与えて私と同じようにならないようにしてください」という最後の願いを残した。

 パクさんは死んでも最期まで母親の心配を振り払えなかった。彼は遺書に「日々痩せていき、しわが多くなる母を見て胸が痛みました。母の力になってあげなければならなかったのに、いつも荷物になって恥ずかしくて申し訳ありません。だめな息子が先立つことになり、また親不幸をします。母が安定した生活を送れることを願い、いつも感謝して愛していました。また、私が知ってる人も…」と書いた。

 母親も息子を忘れられなかった。「私の息子は一人息子、私の宝で私のすべてです」。この日記者会見に出たパクさんの母親は、涙ながらに言った。「私が30歳から1人で育てながら、私の活力の素であり力であり、私の夢でありすべてだったのに。賃貸アパートなんて必要ない。息子さえ生かしてあげられるなら」

 パクさんと母親が住んでいた家は、保証金200万ウォン(約20万円)に家賃が25万ウォン(約2万5千円)だった。2人は強制執行になることは知っていたが、他所に行く余裕はなかった。パクさんの母親はハンギョレに「10年間地域で暮らしてここが暮らしの基盤だった。他所に行けば住みづらく、引っ越しの費用もないのに一方的に追い出そうとばかりしたので、悔しくて立ち退くことができなかった」と話した。

 この日の記者会見でチョ・ヒジュ龍山惨事真相究明委員会代表は「龍山惨事10周年までひと月残した時点で発生した立ち退き住民の死は、依然として殺人開発がもたらした社会的他殺であり、国家暴力だ」と述べた。貧困社会連帯のイ・ウォンホ執行委員長は「許認可権者であり、管理、監督権者である麻浦区役所に殺人的な強制撤去を放置した1次的責任がある」と批判した。

 再建築事業が進められているソウル麻浦区の阿ヒョン2区域は、ソウル地下鉄2号線の梨大(イデ)駅と阿ヒョン駅の間に挟まれた駅周辺地域だ。約6万5500平方メートルの面積に2357世帯が住んでいた。しかし、2004年に阿ヒョンニュータウン地区の開発基本計画が承認され、住民たちの要求でニュータウン存置地域に指定された。7年が過ぎた11年には1419世帯規模の地上25階、地下5階建てのマンションが建設されることが決まった。2016年から移住が始まり、昨年8月以降、30回以上の強制執行が行われた。しかし、この過程で再建築組合は事業施行認可条件に含まれた「強制執行の事前通知原則」を数回守らなかった。また、通知時間より早い時間に強制執行したケースもあった。このため、再開発・再建築の過程で、居住者の住居権と人権保護のためソウル市が運営中の「人権保護団」が立ち退き過程を1度も見ることができなかった。ソウル市は先月2日、麻浦区に「事業施行者(組合)が、引き渡しの執行が行われる少なくとも2日前(48時間)に執行日時を該当する自治区に報告しなければならないという事業施行の認可条件を続けて履行せずにいる」とし、「引き渡し執行の際、継続的に人権保護団の活動に支障をきたす場合、工事(立ち退き)の中止など強力な行政措置を取り、その結果を通知してほしい」という公文書を送った。ソウル市関係者は「組合側が通知した時間より早く強制執行したため、人権保護団が現場をちゃんと見守れなかったことがあった。人権保護団が見守れなかった時に暴力行為があったという話を聞き、現在、警察に捜査依頼をしてある」と述べた。

 パク氏と母親が追い出された9月6日には「人権保護者」がいたが、強制執行自体を避けることはできなかった。空き家に泊まって追い出された先月30日には、「無断侵入者」だったので特に保護を受けられなかった。誰にも守ってもらえなかったパクさんは、遺影も残せないまま世を去らなければならなかった。

イ・ジョンギュ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/society_general/873228.html韓国語原文入力:2018-12-05 23:17
訳M.C

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