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[ファクトチェック]南北軍事合意で武装解除された?「安保不安」を助長する詭弁

登録:2018-11-27 00:25 修正:2018-11-27 07:51
「軍事合意の歪曲」検討してみると 
元国防長官、合同参謀本部幹部まで乗り出して攻撃 
「安保惨事、武装解除、降伏文書」激しく非難 
「北朝鮮の偽装平和に翻弄され、共産化の危機」極端な主張まで 
軍事専門家ら、事実と異なるか誇張・歪曲と反論

 「安保惨事、武装解除、降伏文書、軍事IMF(通貨危機)、国家的自殺…」

 「9・19南北軍事合意書」を攻撃する人々の声が激しさを増している。軍事合意書が韓国軍の安保力を根本から揺るがしただけでなく、ソウルを北朝鮮の奇襲攻撃に露出させるなど、軍事的災いを招いたと非難している。「北朝鮮の偽装平和攻勢に翻弄され、大韓民国が共産化の危機に直面した」という極端な主張まで広まっている。

 このような主張をする人々には、国防長官や合同参謀本部幹部を務めた人物がかなり含まれている。一時は韓国軍を指揮した彼らの主張を聞いていると、不安感を抱かざるを得ない。しかし、彼らの主張を詳しく検討してみると、誇張と歪曲が少なくない。いくつかの主張は軍事専門家という名を悪用した「偽り」に近い。

今月5日、南北共同漢江河口水路の調査が始まった中、江華喬桐島北端の漢江河口で、ユン・チャンフィ共同調査団長が北側調査団と挨拶を交わしている。軍当局や海運当局関係者、水路調査専門家などが参加した共同調査団は、南北それぞれ10人で構成された=写真共同取材団//ハンギョレ新聞社

■漢江河口を共同利用すると、北朝鮮軍の奇襲渡河を許す結果となる?

 シン・ウォンシク元合同参謀次長は「漢江(臨津江)河口が共同利用水域になれば、北朝鮮軍特殊部隊がいつでも漢江を渡ってソウルを侵攻できる」と主張する。金浦(キンポ)半島が第2次世界大戦当時、ドイツ軍がフランスを奇襲攻撃した「アルデンヌ」になる可能性があるということだ。ドイツ軍の機甲部隊が到底通過できないと信じて、防備を疎かにしたフランス軍の前轍を韓国軍が踏んでいるという主張だ。

 しかし、軍事専門家らは北朝鮮軍の特殊部隊の奇襲攻撃は事実上不可能だと指摘する。国防研究院のキム・ソンゴル研究委員は「ドイツ軍によるアルデンヌ奇襲攻撃は、気象悪化と夜の闇にまぎれて部分的に成功したもの」だとしたうえで、「韓国軍の偵察機に搭載されたレーダーは、北朝鮮軍の移動を天候にかかわらず探知できる」と反論する。さらに、金浦半島には海兵隊が強力な阻止線を構築している。

 軍事的にも漢江河口の渡河作戦は決して簡単ではない。朝鮮戦争当時も、北朝鮮軍精鋭6師団が同地域を渡るのに3日以上も足止めされた。秒速1.0~1.5メートルの速い流速や干潮の時に現れる広い干潟など、自然の障害物が渡河を妨げたのだ。これらの障害物を乗り越えるためには、大規模な装備が必要だが、そうすれば韓国軍の監視網にかかりやすい。

今月20日午後3時ごろ、非武装地帯の中部戦線で、北朝鮮の監視警戒所が爆破されている=国防部提供//ハンギョレ新聞社

■非武装地帯の監視警戒所がなくなると、北朝鮮軍がトンネル掘削を再開できる?

 監視警戒所(GP)が消えると、北朝鮮軍が非武装地帯まで密かに軍事力を接近させて奇襲攻撃する可能性があり、秘密裏にトンネルの掘削も再開できるという主張もある。これは監視警戒所の撤去で、韓国軍の前方に穴が開いたという主張につながる。

 軍事専門家らは、監視警戒所に対する理解不足によるものだと口をそろえる。合同参謀関係者は「このような主張は、監視警戒所が北朝鮮軍の奇襲攻撃を防ぐ砦であることを前提にしているが、実際に監視警戒所で監視できない非武装地帯の方がはるかに広い」とし、「監視警戒所の観測で奇襲攻撃を見抜くほどなら、既に北朝鮮軍の先制砲兵射撃が開始した可能性がかなり高い」と指摘した。彼は「山頂にある監視警戒所でトンネル掘削工事を探知することは、元々不可能だ」と一蹴した。

 軍事専門家たちはむしろ、監視警戒所の撤収が北朝鮮軍の警戒線を非武装地帯の外に押し出す効果があると指摘する。北朝鮮軍は人力中心の警戒作戦を展開しているため、監視警戒所を撤収すれば、境界線は後退せざるをえないということだ。国防研究院のアン・グァンス軍事発展研究センター長は「韓国軍は以前から科学化した警戒体系を構築して運用している」とし、「監視警戒所の役割は中長期的に縮小される対象」だと話した。

 非武装地帯の監視警戒所の撤収を批判する人々は、南北が試験的に10カ所ずつ(1カ所ずつ保存)を撤去することは、公平性に欠けると主張する。北朝鮮の監視警戒所は160カ所にのぼる一方、韓国軍の監視警戒所は60カ所にとどまるため、算術的に韓国軍に不利だということだ。しかし、このような主張をしている人たちは、北朝鮮が監視警戒所160カ所すべてを撤去することで合意した事実は言及していない。

韓米合同上陸訓練の様子=浦項/キム・ボンギュ先任記者//ハンギョレ新聞社

■訓練できない軍隊は烏合の衆、北朝鮮と戦えば百戦百敗は必至?

 イ・サンフン元国防長官は、相手に対する一切の敵対行為の中止を決定した軍事合意書によって、韓国軍が「烏合の衆」になったと主張する。地上や海上、空中をはじめとするすべての空間で、大規模な軍事演習を中止したことで、韓国軍が事実上武装解除されたということだ。

 このような主張に対し、軍事専門家らは過度な非難だと反論する。砲兵射撃訓練や連隊級以上の野外機動訓練を中止した地上には、砲兵標的地及び射撃陣地が2カ所ずつあるが、代替物を活用すれば訓練に与える影響は微々たるものと指摘する。合同参謀関係者は「すでにこの地域では連隊級機動訓練をほとんど行っていない」とし、「連隊級機動訓練は緩衝区域の南側で主に実施する」と明らかにした。

 海上砲射撃および海上機動演習の中止については、韓国軍よりも北朝鮮の制約が大きいという分析もある。アン・センター長は「当該地域に配置された北朝鮮軍の戦力の規模は韓国軍の3~5倍であるため、南側への脅威減少の効果がより大きい」とし、「有事の際には自動艦砲体系を搭載した韓国艦艇の対応能力の方がより優れている」と指摘する。固定翼航空機の実弾射撃訓練の禁止については「韓国軍は飛行禁止区域の外郭でも効果的に対応できる」とし、「航空機搭載の空対空、空対地精密誘導兵器が不足している北朝鮮がむしろ不利だといえる」と話した。

ユ・ガンムン先任記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/871861.html?_fr=st1韓国語原文入力:2018-11-26 21:07
訳H.J

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