北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長がドナルド・トランプ米大統領に「早期に会おう」、「直接話をすれば、大きな成果を出せるだろう」というメッセージを伝えたのは、金委員長の積極的な局面転換の意思を示したものと見られる。予想を超える型破りな動きで局面転換を主導し、南北関係や朝米関係の改善、朝鮮半島情勢の安定、国際的孤立からの脱却、経済制裁の克服などを一気に狙う多目的な布石と言える。
金委員長のこのような態度は、文在寅(ムン・ジェイン)大統領の対話提案を無視した昨年とは、大きく異なるものだ。これには、国際社会の対北朝鮮制裁と圧迫の強化による国際的孤立の深刻化と経済状況の悪化で、北朝鮮にとっても突破口が切実になったことと、ちょうどその時に開かれた平昌(ピョンチャン)冬季五輪を局面転換の機会として積極的に活用した文大統領の努力が影響を及ぼしたものとみられる。また、昨年11月末「核武力の完成」宣言で表現された軍事的自信感も一役買ったという分析もある。北朝鮮は昨年9月の6回目の核実験と11月の「火星-15」型大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射で、「核抑止力」を備えるようになったと豪語した。
金委員長は、当初今年1月1日、新年の辞で朝米対話に重きを置かなかった。韓国に対しては冬季五輪への参加や代表団派遣、南北対話を提案し、和解の手を差し伸べたが、米国に対しては「米国本土全域が我々の核攻撃の射程圏内にあり、格のボタンが私の事務室の机の上にいつも置かれている」と威嚇し、敵対心を露わにした。韓米を切り離して対応する姿勢を示したのだ。
今回、金委員長が一転して朝米対話を進めたのは、文在寅政権の積極的な説得と仲裁が役割を果たしたものとみられる。文大統領は先月10日、金与正(キム・ヨジョン)労働党第1副部長と面会した際、「南北関係発展のためにも朝米の早期対話が必ず必要だ」と強調した。文大統領はまた、マイク・ペンス米副大統領にも朝米対話の必要性を説明した。これに対し、ペンス副大統領は先月12日に帰国する機内で「北朝鮮が望むなら我々も応じる用意がある」と述べ、対話の可能性を示唆した。さらに、金英哲(キム・ヨンチョル)労働党副委員長が先月25日に文大統領と面会し、「朝米対話をする十分な用意がある」と明らかにしたことで、文大統領の朝米対話に向けた仲裁努力が実を結んだ。ヤン・ムジン北韓大学院大学教授は「局面転換のスタートは金正恩委員長が切ったが、今後の日程と議題などは韓国政府に同調する形」だと話した。
にもかかわらず、金委員長が南北対話や朝米対話において、実務段階の意見調整もほとんどない状態で、首脳会談を提案する電撃的な「速度戦」と「高空戦(トップダウン)」に出たのは破格と言える。国政の最高責任者が直接前面に出ることで、核問題や制裁問題、朝米国交正常化問題など相互関心事を大きな枠組みで一括解決するための戦略と言える。大統領府関係者は「探索・予備対話を経ることなく、一括妥結しようという意味とみられる」と話した。チョ・ソンニョル国家安保戦略研究院首席研究委員は「北朝鮮が、『核武力の完成』の宣言で米国との全面的で対等な交渉をやっていけると思ったようだ」と指摘した。キム・ヨンヒョン東国大学教授は「北朝鮮が(対話に向けた)空間を最大限開き、大胆な交渉で核問題や体制の安全問題、朝米国交正常化などを調整しようとしている」と話した。
1994年の「ジュネーブ合意」や2005年の「9・19(6カ国協議)共同声明」など、実務者による合意が結局は失敗に終わった過去の経験も影響したものとみられる。合意のレベルと拘束力を最大に高める必要性を感じたということだ。過去の南北首脳会談が任期末に実現し、政権交代後に合意事項がきちんと守られなかった前例も教訓になったようだ。南北首脳会談と朝米首脳会談が早期に実現することで、関係改善の効果を最大限高めるべきと判断したものと見られる。