北朝鮮の相次ぐ挑発の中で、「平和こそが民生」と言っていた文在寅(ムン・ジェイン)政府の外交・安保政策の基調が根本から揺れている。電撃的なTHAAD(高高度ミサイル防衛)体系の配備で、従来の支持層の反発も高まっている。
文大統領は8日夜、THAADの「臨時配備」を完了したことについて「現状況で韓国政府にできる最善の措置だと判断した」とし、「国民の皆様の了解を求める」と明らかにした。文大統領は大統領選挙期間中、THAADの効用性に対して継続的に疑問を提起し、就任後には「国民の同意のないTHAAD配備の強行はない」とし、手続き的正当性を何度も強調した。だが、文大統領は7月29日、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)級「火星-14」型の2回目の試験発射直後、発射台の追加配備を電撃的に指示し、海外歴訪中の7日未明、これを強行した。大統領府関係者は「韓国と米国の同盟関係に関する圧力と協力という側面で進められたと見るべきだと思う」と話した。事実上、米国側の激しいTHAAD配備圧力によって政策基調を旋回したという点を認めたわけだ。しかし、文大統領は「最善の措置」という言葉を使っただけで、納得できる説明を出せずにいる。
6日、韓ロ首脳会談は漂流する外交・安保政策の乱脈ぶりを象徴的に示した。この日文大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に北朝鮮向け石油の供給中断に対するロシアの協力を求めた。だが、プーチン大統領は「感情に押されて北朝鮮を袋小路に追いつめてはいけない」と反論した。文大統領としては面前で「訓戒」を聞いたことになった。
ソン・ヨンム国防長官のだしぬけな「戦術核再配備」発言も、政府政策の方向の基調を揺さぶった。ソン長官は4日、国会国防委員会で「北朝鮮の核に対して確実に版を変えなければならない。その一つとして、(戦術核再配備も)検討しなければならない」と主張した。在韓米軍の戦術核を再配備すると、北朝鮮の非核化を主張する名分がなくなる。南と北が核を頭に載せて対峙するしかない。それでも大統領府側は「政府レベルで検討したことはない」という原論的な解明だけをしている。
専門家たちは、安保政策の漂流の原因を3つに診断する。第一に、危機の中で発足した政府が即自的な対応に没頭しているという点だ。破綻状態に陥っていた外交・安保状況を受け継いだ文大統領は、政権初期から相次ぐ北朝鮮の挑発で懸案への対応すら難しくなった。情勢の緊張感が高まるほど、政策代案の不在が目立ち、結局、前政府と同様に「挑発・制裁の悪循環」から一歩も抜け出せずにいる。
第二に、原則を基に長期的なビジョンによって執行しなければならない外交・安保政策に、国内政治的な考慮が多すぎるという点だ。政権発足直後から危機局面が深刻化し、韓米同盟を基に北朝鮮に強く対抗する姿を見せなければならないという国内政治的な要求も高まった。このような政治的考慮は、従来の支持層の離脱を煽る。外交・安保政策は短期的には国内世論の推移によって動揺するが、支持率の下落の中でともすれば政権の足を引っ張る恐れがある。
第三に、北朝鮮の相次ぐ挑発の中で「圧迫・対話の並行」基調は「制裁・圧迫一辺倒」になってしまった。大統領府の事情に詳しいある外交安保専門家は「いまTHAADを配備して、北朝鮮への石油供給を断つことでは北朝鮮の核・ミサイル危機は解決できない」と言い切った。文大統領の大統領選挙キャンプに関与した他の専門家は「北朝鮮が挑発する度に打ち返す形の対応ばかりしていると、何の解決策も見出すことはできない」とし、「長期的な観点から反転の突破口を見出さなければならない」と話した。