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脱北青年らが盧武鉉元大統領の墓地参拝

登録:2015-03-28 00:51 修正:2015-03-29 07:59
「極右フレームに便乗すれば脱北者の地位は低下する」
3月21日午前、慶尚南道金海市烽下村の盧武鉉元大統領の墓地を訪れた脱北青年団体ウィズユー会員たちが、盧元大統領が眠っているノロク岩の前に立ったまま頭を下げて黙祷している。//ハンギョレ新聞社

 21日午前、慶尚南道金海(キムへ)市烽下(ポンハ)村にある盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の墓地。生前に盧元大統領が好んで歌った歌「常緑樹」の旋律が静かに流れる中、11人の若者が墓地中央の献花台で順番に献花と焼香を行っていた。

 黒いスーツ姿が目立つ彼ら若者たちは、しばらくして献花台を通って盧武鉉元大統領が眠っているノロク岩に向かって進んだ。そして、1年に70万人に達するほかの参拝客同様、「大統領盧武鉉」と書かれているノロク岩の前で黙祷を捧げ、故人への礼を尽くした。盧元大統領が自らの身を投げたフクロウ岩が彼らの姿を後ろから静かに見守っていた。

 この平凡に見える若者たちの参拝は、彼らの所属団体を確認した瞬間、特別な意味が持つ。参拝をした11人の若者は、すべて「ウィズユー」(with-U)と呼ばれる脱北青年会会員だからだ。彼らの参拝は、脱北者団体が主導した初めての盧武鉉元大統領の墓地参拝なのである。

 「ウィズユー」の会員11人烽下村訪問
 脱北団体初の盧前大統領の墓地参拝
 「タブーではないタブー」破った動き

 韓国の正規教育受けて思考偏向から脱皮
 民主的原則・会員たちの力で運営
 政府登録の場合は制約...任意団体固守

 主体的行動の努力、脱北者全体の利益
 教育講座で歴代大統領たちへの参拝企画
参加会員たち、期待と懸念で高揚

 韓国社会に定着した脱北者の数が3万人に達し、多数の脱北者団体が活動しているが、脱北者団体の名前で盧武鉉元大統領の墓地を訪れたことはこれまで一度もなかった。もちろん、脱北者団体が集まって、盧元大統領の墓地に行かないようにと公然と決議したわけではない。しかし、脱北者の社会で、盧元大統領の墓地を団体の名前で訪れるのは、事実上一つのタブーになっているという。

 このようになったのには、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)政権の対北政策も大きく影響した。両保守政権の対北政策は北朝鮮との和解と平和、そして共同繁栄に焦点を置いた参与政府(盧武鉉政権)の対北朝鮮政策とはかけ離れていた。実際にはほとんどの脱北者団体が政府の支援などに大きく依存している状況で、彼らが公に盧武鉉元大統領の墓地を訪れるのは容易ではない。このような状況で脱北者が持っている「保守的なイメージ」は、保守政権下でさらに強化されてしまった。ウィズユーの今回の盧元大統領の墓地参拝は、脱北者社会の持つこのような「タブーではないタブー」を破ろうとする脱北青年の小さくても大きな一歩である。

 ウィズユーがタブーに挑戦できたのは、組織の会員と運営、そして組織の目標などがすべて既存の脱北者団体とは異なっているからだ。まず、ウィズユーの中核は仕事を持つ20〜30代の青年たちだ。彼らのほとんどは10代後半から20代前半に北朝鮮を離れ、韓国に定着した。その後、韓国の大学や大学院で教育を受けた。

 韓国で受けた正規教育は、彼らを保守的な思考だけに留まらせない大きな力となった。今年ウィズユー代表を務めているK氏(会社員)の場合も、「韓国に来た直後は盧武鉉元大統領など、韓国内の革新志向の政治家に対して抵抗があった」とし「しかし、韓国で大学院教育を受け、革新的な人たちの考えも理解できるようになった」と言う。

 第二に、ウィズユーは「会員自らの力で、民主的に」という原則の下で動く。彼らは大きなイベントを開く場合には、志を一つにする人々から支援も受けるが、日常的な集まりは必ず会費を集めて行う。昨年ウィズユー代表を務めた会社員のパク・ヨンチョル氏は、2013年に無縁脱北青少年を支援するためにウィズユーが行った「呼び水音楽会」を代表的な事例として挙げた。 「コンサートの練習のための集まりにかかった食費などは、すべて自分たちの会費で賄いました。そしてチケット販売で得た収益金は、全額無縁脱北者に渡しました」。 ウィズユーは代表も1年の任期で会員が持ち回りで担当している。

 第三に、ウィズユーは「あなたと一緒に(with-You)、統一のために(with-Unification)」を組織の目標としている。ウィズユーのUはまた、左と右の両方包み込むことを象徴化したものだという。

 このため、ウィズユーは保守か革新いずれか一方のみに偏らないように努力している。素晴らしい統一のためには、保守と革新両方の翼が必要であるのだから、脱北者団体だからといって革新の翼なしで保守寄りだけになってはいけないということだ。実際ウィズユーの会員たちは、保守的な視野と革新的な視野を両方とも持っているようだ。極左的あるいは極右的な思考を排除し、保守と革新の利点についての議論を通じて独自の考えを育んできたという。

 ウィズユーは、このような原則を守るために「任意団体」を固守している。統一部に正式団体として登録しようという意見もあったが、保留した。ある会員は「統一部の登録団体になると、盧武鉉元大統領の墓地参拝のような活動を行うのは難しくなるかもしれない」とその理由を説明した。この会員は、「ウィズユー会員40人が2014年8月歌手イ・スンチョル氏と一緒に独島で『一人アリラン』の合唱に参加したが、これも会員たちが自発的に企画して進めた」と強調した。それだけ脱北者も統一に向かう道で付添人ではなく、主体となって判断して行動しようという意志が強い。

 ウィズユーの会員たちは、一方の理念に偏らず主体的に行動しようとするこのような努力が、3万人に達する脱北者全体の韓国での生活にも役立つだろうと考えている。事実、保守政権を経て、韓国社会で脱北者に対するイメージはさらに悪くなった。ウィズユーの会員たちは、その理由の一つとして、何よりも現在の脱北者社会の理念偏向が強まったように見える点を挙げる。

 これは、最近韓国社会で話題になっている脱北者たちを思い出すだけで、はっきりと浮かび上がる。生まれながら北朝鮮の「14号収容所」で住んでいたと偽証して、脱北者の話の信ぴょう性を低下させたシン・ドンヒョク氏はじめ、対北ビラ散布を強行しようとして国境地域住民と対立している脱北者団体、総合編成チャンネルに出演し、北朝鮮社会を誇張して嘲笑し侮辱する人たちまで、「極右フレーム」の中で活動する人々が、主にメディアに登場している。

 これにより、韓国社会では多くの脱北者の社会全体を「極右フレーム」に利用されたり、利用する人々として認識する傾向がますます強まっている。ウィズユーの会員たちは、このような状況では政府が定着金をいくらか上乗せしたとしても、脱北者が韓国社会でまともに生きていけないと思っている。 「極右フレーム」に便乗する一部の人々の声が大きくなるほど、韓国社会における脱北者の地位は低下するからだ。

 ウィズユーのある会員は、「些細な出来事でも、脱北者関連の事件はひときわ大きく報道される傾向がある」とし「これは韓国社会で脱北者に対する否定的な認識が強いため」だと診断した。ウィズユーは、脱北青年が左右の翼で飛んで行こうとする姿を見せることが、このような現象の克服にも役立つと考えている。

 実際に今回の盧武鉉元大統領の墓地訪問も「左右理念葛藤を克服し、バランスの取れた歴史観を持つ」ための脱北青少年向けの教育講座である「統一世代のための大韓民国の現代史講座」プログラムの一環として行われた。

 「現代史講座」は、韓国の現代史に大きな足跡を残した李承晩(イ・スンマン)、朴正煕(パク・チョンヒ)、金大中(キム・デジュン)、盧武鉉など元大統領のリーダーシップと人生の軌跡についての講義を聴く課程として企画された。イ代表は「元大統領に対する評価は様々だが、保守大統領でも革新大統領でも皆が大韓民国を導いた方々であるという認識に基づいてプログラムを組んだ」と言う。 「南と北をつなぐ架け橋になる私たちの脱北青年から、韓国社会の根深い弊害である理念論争を克服しほしい」という願いがこのプログラムに込められたのだ。

 ウィズユーは、このような趣旨に合わせて4人の元大統領の墓地を参拝するイベントを用意した。本格的な講座は7月頃始まるが、それに先立ち、大韓民国を導いた大統領の墓地に参拝するのが礼儀だと判断したという。これにより、7日には、すでに国立顕忠院を訪れ、李承晩、朴正煕、金大中元大統領の墓地を参拝した。そして21日、ソウルからバスで往復10時間以上の道を走って盧武鉉元大統領の墓地を訪れたのだ。

 K代表は現在、李承晩元大統領については、延世大学李承晩研究院長であるリュ・ソクチュン教授を、朴正煕元大統領については、朴正煕政権の初代経済第2首席秘書官を務めたシン・ドンシク韓国海史記述会長を、金大中元大統領については、金大中総裁秘書室長を務めたユ・ジェゴンCGNTV代表取締役を講師として招聘したと言う。イ代表は、盧武鉉元大統領の講義も盧元大統領を最も近くで見守った文在寅(ムン・ジェイン)新政治民主連合代表やアン・ヒジョン忠南道知事などを講師に招聘したいと話した。

 この日、盧武鉉元大統領の墓地参拝に参加したウィズユーの会員たちは、ソウルから烽下村まで往復800キロに及ぶ長い旅も全く疲れを見せなかったが、多少高揚した表情だった。その高揚は期待感と懸念が入り混じって作り上げられたように見えた。 「脱北者の誰も行かなかった道を歩むことによって、脱北者を2枚の翼で飛ぶようにするために少しは貢献できる」という期待感とともに「既存の脱北者団体に『赤がかった脱北青年団体』と蔑まれるかもしれない」という懸念が心の中に共存しているように見えた。

 しかし、彼らの高揚した表情は、もう一つの兆候を示してくれる。それは脱北者3万人に達するこの時代に、左右の翼で統一に向かって進みたいと願う脱北青年たちが本格的に登場しているという事実である。

文・写真キム・ボグン ハンギョレ平和研究所長(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015.03.23 20:03

https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/683568.html  訳H.J

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