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[ルポ]韓電の出す地域発展基金、住民たちの紛糾の種

登録:2015-03-15 09:07 修正:2015-03-15 09:10
問題多い地域発展基金
4日、全羅南道海南郡門内面鶴洞里で住民が花源~珍島間の送電線工事で村内に建てられた双子送電塔の前で越冬白菜を収穫している。 海南/アン・グァンオク記者//ハンギョレ新聞社

 4日午前11時、全羅南道海南(ヘナム)郡 門内(ムンネ)面 鶴洞(ハクトン)里。5人の住民が送電塔から30メートル離れた畑で越冬白菜を収穫していた。送電塔には「感電事故の危険があるため5メートル以上の安全距離を維持すること」という警告文がはためいていた。 昨年11月、既存の送電線路に一本追加され、村の入口にあるこの送電塔は双子になった。 白菜畑からは、この双子の鉄塔をはじめ16本の送電塔が見える。 尾根に隠れて上部だけが見えるものまで入れれば25本を超える。 この村の住民は昨年3月、韓国電力から「海南の9つの村のうち、残っているのは鶴洞里だけだ」と圧迫され、地域発展基金1億3000万ウォン(1円=9ウォン)を受け取って送電塔反対意思を放棄した。

 同日午後4時、同様な送電線が通る珍島(チンド)郡 郡内(クンネ)面 徳柄(トクピョン)里の村会館では、5人の住民が焼酎を飲んでいた。 前の日に妥結した韓電との交渉過程が話題に上がった。

 住民たちは、地域発展基金3億8000万ウォンを受け取って2年にわたる交渉を締めくくった。 交渉が長引いて基金が多少上乗せされたが、彼らは「これからが心配だ」と言った。 珍島の15の村のうち5つの村が団結して韓電からの支援を増やさせはしたものの、当初の目標は実現できなかったからだ。 住民たちはこれまで、町から200メートル離れた送電線路を地下に埋めるか、路線を変えることを要求してきたのだった。

 これらの村は、韓電が施行中の154kV(キロボルト)の花源(ファウォン)~珍島間の送電線路が通過する地域だ。この事業は1990年代半ばに設置された海南門内面~珍島郡郡内面の14.5キロ区間の2線路を4線路に増やす工事だ。地域に電力を安定的に供給し、済州島行きの海底送電線路の迂回網を構築するためのものだ。 今年10月までに24の村に送電塔37本を建てて、送電線路を設置する予定だ。 この工事には関連法律に基き、線路工事費160億ウォンと土地補償費9億ウォンがかかる。 この法定費用の他に、苦情を解消するための特殊補償費(地域発展基金)が別に策定された。

 住民たちの話を総合すると、韓電がこの工事のために24の村に渡した地域発展基金はおよそ30億ウォンに上る。 公式的な土地補償費9億ウォンより“裏金”として渡す特殊補償費の方が3倍以上かかっているわけだ。 地域発展基金は地域と時期によって明確な差が見られる。海南の9つの村は、村当り5000万~1億3000万ウォンで判を押した。 韓電は、少な過ぎると言ったある村には、青年会・老人会の観光費として2000万ウォン、敬老会館の電気製品購入費に1500万ウォン、計3500万ウォンを上乗せした。今年の旧正月前には60キロ(100斤)の豚を一頭ずつ、海南の村々に送った。

 交渉がなかなか進まなかった珍島の15の村は、5000万~3億8000万ウォンを受け取った。 このうち送電線路から近い4つの村は、海南側より相対的に高い2億5000万ウォン以上で合意した。 ある村は3億ウォン台半ばを巡ってまだ駆け引きをしている。 そのため珍島側は竣工7カ月前なのに、工事は全く始められていない。

 海南鶴洞里のチョン・ムウン氏(63)は「2億5000万ウォン以上もらった珍島の村とうちの村と、どっちが送電線路に近いか距離を測ってみようという話も出た。 悔しくても70、80代の老人ばかりだから、どうしようもない」とため息をついた。 珍島徳柄里の里長チョン・デソン氏(57)は「反対する時はそうではなかったが、交渉に入ったら、金を出す韓電側は“甲”、少しでも多く取ろうとする私たちは“乙”(訳注:“甲(カプ)”は社会的強者を、“乙(ウル)”は社会的弱者を指す)になってしまった。 資金と情報・人脈を掌握した韓電に太刀打ちするすべがなかった」と語る。

慶南(キョンナム)密陽市(ミリャンシ)の超高圧送電塔建設に反対する住民座込み場強制撤去が行われた2014年6月11日129番送電塔建設予定地がある府北面(プブックミョン)平畑(ピョンバッ)村の掘っ立て小屋で、神父・修道女たちと村の住民が腕を組んで横たわり、撤去に抗議している。 密陽/キム・ポンギュ先任記者、リュ・ウジョン記者 bong9@hani.co.kr

 密陽(ミリャン)事態で地域発展基金の威力
 工事反対懐柔のために露骨に活用
 海南門内面~珍島郡内面間の14.5キロ拡張
 24の村に30億ウォン…土地補償費の3倍
 地域により反発の大きな村にはさらに上乗せ
 韓電・住民の軋轢が村同士・住民同士の対立に
 “甲の横暴”の手段に悪用される憂慮、法制化の声

 セマングム送電線路(345kV)建設事業が進行中の全羅北道群山(クンサン)市でも似たような状況だ。 送電線と近い群山市米星(ミソン)洞の住民パク・ヨンチル氏(77)は「半月前、韓電職員が近隣の村にやって来て発展基金の話をして回るので、言い争いになったことがある。 韓電の住民誘引策と関連して、未確認のさまざまな話が聞こえてくるので混乱している」と話した。 別の住民は「韓国電力は『今賛成すれば、発展基金をより多く受け取れるが、後から賛成しても発展基金額は少なくなる』と言って、金で工事反対住民を懐柔している」と主張した。

 群山市沃溝 (オック) 邑送電塔反対対策委員会のチャン・ヒョンチャン委員長(68)は「鉄塔に近い所は、電磁波のせいで人が住めなくなる。 生活の基盤を失うことになるのに、発展基金が何の役に立つか。 沃溝邑で生産したコメはソウルなどに給食用として出荷し輸出もしている。 送電線路を田畑のある所じゃなくてセマングム側に迂回させればいいのに、なぜこのような沃土をなくそうとするのか理解できない」と話した。

 韓電はこのような工事反対の声をもみ消すための武器として、地域発展基金を活用している。 これは全国的に注目された慶尚南道密陽でも強力な威力を発揮した。 村に撒かれた発展基金はいつも韓電対住民の軋轢、村と村、住民と住民の摩擦に変えてしまう魔法になった。 密陽765kV送電塔反対対策委員会のイ・ゲサム事務局長は「地域発展基金は事実上、反対する住民を買収するものだ。 発展基金が登場すれば村は一瞬で受取るか否か、どう分けるか、などを巡って分裂してしまう。 密陽でも逆機能が如実に現れた」と語った。

 

 さらに、韓電の地域発展基金は、原発やゴミ埋立地・下水処理場などの環境基盤施設の周辺地域への支援金とは違って、法律的な根拠がなく、事業者である韓電が恣意的に執行できる道が開かれている。 韓電は93年から内規の「送・変電設備建設周辺地域の特別支援に関する規定」に基いて、特殊補償費を使ってきた。 韓電は市場型公企業として、目的の事業にかかる予算を別途の法令の根拠なしに執行できるという態度を取っている。 韓電が支援する特殊補償費は通常年に100億ウォン台だったが、密陽事態の影響で住民の警戒心が高まり2013年232億ウォン、2014年236億ウォンに増えた。

 しかし、これを現場で「泣く子には餅をもう一つ」スタイルで運営するため、雑音が絶えない。 反発が強ければ上乗せし、なければ無視するなど、どんぶり勘定で対応するために、765kVの路線より電圧が低い154kVの路線地域の方が多く受け取ったり、離隔距離や鉄塔の数など客観的条件が悪いにもかかわらず補償額が少ないといったケースがいくらでもある。

 また韓電は、金額が決まったら「追加の苦情は提起せず、工事を一切妨害しない」という合意書を要求する。 農道破損、騒音や粉塵誘発、電磁波発生など、送電線路建設に伴う被害に対して住民に当然補償しなければならないのに、まるで恩恵を施すように“降伏文書”を強要する。

 このような問題が生じているにもかかわらず、産業通商資源部は特殊補償費については手を拱いている。 産業通商資源部の電力産業課側は「地域発展基金について問題意識を感じてはいるが、不法ではなく、事業者の自律領域だと考える」という反応を見せた。

 政府が無策傍観する中で、全羅南道麗水(ヨス)、蔚山市蔚州(ウルチュ)、慶尚北道清道(チョンド)郡、忠清南道唐津(タンジン)、済州朝天(チョチョン)など全国約10カ所で、依然として送電線路をめぐる韓電と住民が対立中だ。 あちこちで地域発展基金が“甲の横暴”の手段に悪用される余地が大きいだけに、法制化を急ぐべきだという声が出ている。

 キム・ジェナム正義党議員は「韓電の恣意的な支援は村の間の公平性問題を巡る軋轢と村共同体の分裂を招く可能性が高い。 正確な法的根拠と被害範囲調査、住民間の合意を通して地域発展基金を出すようにすべきだ」と指摘した。

 韓電側は「通常、建設費の0.15%を現場での苦情対策費に使うが、周辺の村に支援する特殊補償費は別途に執行する。 密陽以来、住民の権利意識が高まり、建設工事が難しくなって支援額も増えたのは事実だ」と明らかにした。

海南・珍島・群山/アン・グァンオク、パク・イムグン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/society/area/681365.html 韓国語原文入力:2015/03/09 11:45
訳A.K

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