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韓国ヤクルトレディに見出す仕事の価値

登録:2015-01-06 07:55 修正:2015-01-10 13:58
「ヤクルトおばさん」たちがソウル広場で「愛のキムジャン分け合いイベント」を開いている。//ハンギョレ新聞社

1971年47人で開始し、現在1万3000人
冷蔵庫なかった時代、主婦活用し訪問販売
単なる製品の販売、配達担当者ではなく
地域社会で親戚の「おばさん」のような身近な存在

 韓国ヤクルトの訪問販売員「ヤクルトおばさん(ヤクルトレディ)」のキム・ジェスック氏(62)はソウル龍山(ヨンサン)電子商店街の主だ。 1989年に龍山電子商店街が姿を現し始めた頃、ほぼ何もないところから街の人々にヤクルトを販売してきた。一度販売エリアを割り当てると担当者が辞めるまでエリアを変えない韓国ヤクルトの方針のおかげで、26年間彼らと苦楽を共にした。

 「商店街に入店している人たちとは『べたべたしたエキス』のような絆がある。私の子供よりも年下の子たちが『おばさん』と呼んでハグしてきたりすると息子のようだし、商売がうまくいかず他に移ったけど、うまくいってまた戻って来た子たちに会うと、うれしくて抱きついたりもするよ」。先月16日、ソウル瑞草区(ソチョグ)の韓国ヤクルト本社で会ったキム氏は、”子たち”の話で笑顔が絶えなかった。職場で彼女は単なるおばさんではなく、親戚のおばさん(のような存在)だ。「商店街の人たちが忙しい時は『心配しないで、私がやってあげるから』と言って、代わりにコーヒーを買ってきてあげたり、配達や用事も代わりにしてあげたりするの。商店街の人たちはコーヒーミックスに『おばさんの』と書いて、わざわざ私の分を取っておいてくれますし。龍山駅から電子商店街に迷い込んだ“田舎からいらした方々”には道案内もします」。

「ヤクルトおばさん」ユニフォーム変遷史。//ハンギョレ新聞社

 発酵乳などの健康機能食品専門会社韓国ヤクルトがヤクルトおばさんを通じた訪問販売を初めて導入したのは会社の胎動期である1971年だった。 47人で始めたのが1990年には7342人に増え、2000年代にも着実に増加して2005年からは1万3000人規模を維持している。年間売上高1兆ウォン(1ウォンは約0.11円)ほど、発酵乳市場シェア1位(41%)だが、会社の売上高の95%以上が、全国津々浦々に布陣したヤクルトおばさんからのものだ。事業初期には冷蔵物流システムもなく、冷蔵庫も広く普及していなかったため、カートに載せて一軒一軒ヤクルトを「手から手へ」渡すことが効率的だった。既婚中年女性のための仕事がほとんどない状況でヤクルトおばさんの人気は高かった。 89年ヤクルトおばさんとして働き始めたキム・ジェスック氏は、「私も募集に志願してから1年も待ってやっと入れた」と回想した。

個人事業者の地位だが、競争の負担なく
平均月170万ウォンの収入に弾力的勤務
大型流通拡散時代に持続可能か
「高コスト」vs「まだ有効」見通し食い違い

 既婚女性の仕事としてヤクルトおばさんは「結構いい仕事」なのか?まず注目すべきは、ヤクルトおばさんが韓国ヤクルト「社員」ではなく「個人事業者」の資格で働いているという点だ。雇用された労働者ではないので、会社では4大保険加入、交通費、食事代、退職金の支給を行っていない。基本給もない。土曜日を除いて週6日に年次休暇も別に定められておらず、病気になったり席を離れた場合に備えた支援システムも体系的ではない。ただし、働いて怪我をした場合、会社から治療費を支給してもらえるし、退職金はないけど、利率が高い「積立金」制度が用意されている。

 「個人事業者だから確実に“定年”もなく、解雇することもできない」というのが会社側の説明だ。実際に78歳の最高齢ヤクルトおばさんもまだ活躍している。ヤクルトおばさんのような雇用形態を会社側は、「個人事業者」、労働界では「特殊雇用職労働者」と呼ぶ。保険募集人、浄水器管理士、学習雑誌の家庭教師のように、名目上は「個人事業者」だが、独自のオフィスも作業場もなく、事実上、他の事業者の事業に編入されて労働を提供する。専門家は、ヤクルトおばさんが「結構いい仕事」とは言えないが、他の中年女性の仕事に比べ「悪い仕事」とも言えないと指摘する。平均年齢44歳のヤクルトおばさんは一日平均6.8時間働いて月平均170万ウォン程度の収入を上げる。ヤクルト製品を1本買うと、値段の25%程度がヤクルトおばさんの収入だ。スーパーの手数料(18%ほど)よりも高い。韓国女性政策研究院が2013年実施した女性家族パネル調査によると、調査対象19〜64歳の女性世帯員1万1234人のうち、女性の賃金労働者の月平均収入は140万ウォンほどで、女性特殊雇用労働者の月平均収入は158万ウォンだった。

「ヤクルトおばさん」関連主要統計。//ハンギョレ新聞社

 勤務先も自宅から遠くない場合が多く、勤務時間が比較的柔軟であることは育児や家事に追われる既婚女性にとって無視できない利点だ。家事がある場合、午前中に配達業務さえ終わらせれば、帰宅しても規制する人がなく、定められた休暇はないが担当地域で長く働いてきたおかげで、緊密な関係を築いている消費者の了解を得て事前に2〜3日分を配達して置けば、「暇」も作れる。

 それに韓国ヤクルトの管理戦略は他の訪問販売に比べヤクルトおばさんの仕事をあまり競争がない安定的なものにした。化粧品や保険など他の業種の訪問販売を経てヤクルトおばさんになったパク・ソンフィ氏(44)は、「ヤクルトは営業エリアが徹底的に分かれているから助かる」と話した。単位営業所でも優秀販売者への賞与はあるが、営業成績を比較したグラフを壁に貼り付けるなど直接的に競争を誘導することはない。だから26年のキャリアを持つキム・ジェスック氏や13年のキャリアのシン・ヨンスク氏(50)、3年のキャリアのパク・ソンフィ氏の月収は170万〜210万ウォンの間で大差はない。管理する顧客も180〜200人程度であまり変わらない。シン氏は「ヤクルトおばさんであることを誇りに思っているので、どこでも隠したことがない」と自負した。

 キム・ヨンオク韓国女性政策研究院研究委員は、「ヤクルトおばさんは40年以上安定的に維持された女性の仕事という面で注目する価値がある。客観的に満足のいく仕事ではないが、現実的に経歴断絶女性がたどり着く他の仕事と比べて悪くない仕事だ。すっきりとした服装で、地域社会への貢献するイメージもある。一人暮らしの老人ケアなどのボランティア活動は無給だが、『ボランティアは余裕のある階層でやること』という社会的認識のせいで、かえってヤクルトおばさんの自負心を高めたはずだ。高度の戦略」だと説明した。

「ヤクルトおばさん」歴26年のキム・ジェスック氏。//ハンギョレ新聞社

 専門家たちはおばさんたちの会社への「忠誠心」が「一方通行」ではないと言う。韓国ヤクルトは、大型スーパーやコンビニなどの流通チャネルが氾濫する今も、流通チャネルをヤクルトおばさんにほぼ一本化している。また、売上高の割が5%以内である大型スーパーなどでも抱き合わせ販売や割引販売を行わず、ヤクルトおばさんたちへの「義理」を守っているからだ。西江大学校イム・チェウン教授(経営学)は、「他の販売代理店に商品を供給し始めるとと、訪問販売が萎縮され、流通チャネルの間で葛藤が起こる。訪問販売、ロードショップ、デパート、オンライン販売などを並行する化粧品メーカーの場合がまさにそうだ。チャネル間の競合が起こると、訪問販売者の忠誠心が離れていき、他のブランド製品の販売を始める。訪問販売は構築するのは難しいが、崩れるのは一瞬だ」と指摘した。

 大型流通業者の発達に伴い、相対的に費用がかかる訪問販売を維持できるのかについて懐疑的な見方も多い。消費者も、定期的に同じ製品を飲まなければならず「拘束力が高い」訪問販売よりは、小売店でいろいろなものを見比べてから一度に買う方を好む。保険のように詳細な商品説明とカスタマイズされた設計が必要な商品や化粧品のような訪問販売に適した高価、高付加価値製品と大型流通に適した低価格製品が共存する形であれば、訪問販売はまだ有効だが、発酵乳はそのどちらでもない。イム教授は「訪問販売は、管理は容易だが、人件費の割合が高く一人が販売できる量が限られているため、拡張性が低下する。といってむやみに販売員を増やすと、最小収入保障ができなくなり、販売員の忠誠心が落ちる。訪問販売と葛藤を起こさない新しい流通チャネルを発掘するのが韓国ヤクルトの課題である」と述べた。

 「人の手で行う仕事」の価値が高まると仮定し、ヤクルトの戦略がまだ有効だとする見解もある。チョン・ヨンスン檀国大学校教授(経営学)は「(ヤクルトは)外国では訪問販売で成功が不可能な商品を「お母さんの真心」としてマーケティングし、成功した特異な事例だ。アパートが多い地理的な利点もあった。店舗流通に比べ費用に対する収益が明確であり、不況期に伸縮的に運営できるという利点もある。これからサービス業種で雇用を創出しなければならない。先進国では人によるサービスの価値や販売員のノウハウが益々高評価されている。顧客分析をより徹底してノウハウを蓄積すると、不況期に有利である。ヤクルトは足がかりを確保したことになる」と述べた。

キム・ヒョジン記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr )

韓国語原文入力:2015/1/4 15:33

https://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/671995.html  訳 H.J