京畿道(キョンギド)安山市(アンサンシ)に住むチェさん(43)が同市の雇用労働支庁を訪ねたのは5月12日。近所の「Jマート」で働いている夫人のキムさん(44)が最低賃金も受け取れず6年間も働いていることを知らせるためだ。今年の最低賃金は時給5210ウォン(約520円)だが、キムさんは4800ウォンしか受け取っていなかった。 チェさんは申告の時、「妻が今もその職場に通っているので、身元を明かさないでくれ」と頼んだ。
しかしチェさんと夫人の身元は、その翌日に知られてしまった。申告の翌日、労働支庁の勤労監督官が「当事者でもないのに、なぜ申告したのか」と尋ねてきた。しばらくしてJマートの理事と名乗る人から電話があり、「職員のキムさんのご主人ですか? 申告した話を聞いて情けなく思う」と言ってきた。勤労監督官がJマートに「最低賃金違反の申告をしてきたチェさんを知っているか」と尋ね、Jマート側は職員が入社時に出した住民登録謄本を確認し、チェさんが職員のキムさんの夫である事実を知ったのだ。
結局、夫人のキムさんは6月9日に勤務していたJマートを辞めざるをえなかった。Jマート側は「勧奨退職なら失業給付を受け取れる」と言って退職を迫り、キムさんが勤務していた野菜売場の勤務時間も減らした。突然、二人の同僚職員も賃金を減らされたためJマートでの仕事を辞めた。 キムさんは3年分の最低賃金との差額(賃金債権消滅時効が3年) 350万ウォンを受け取った代わりに職場を失ったのだ。
Jマート職員の妻の代わりに夫が申告
「身元を明かさないでくれ」要請したのに
安山支庁は電話でJマートに問い合わせ
夫の抗議で勤労監督に乗り出したが
形式的調査で法律違反は明らかにできず
「賃金台帳を作成」を求める是正命令のみ
身分が公開されたため不利益を被ったチェさんが強く抗議すると、支庁側はその場では謝罪した。 イ・トクヒ安山雇用労働支庁長は3日、『ハンギョレ』との電話インタビューで、「勤労監督官がチェさんを退職者と勘違いしてJマート側に名前を伝えてしまった」と釈明し、「こうした過失がなくても、いずれ申告者の身元が分かってしまうのが勤労監督の現実」と話した。だが、雇用労働部勤労改善政策課の関係者は、「情報提供の一種である勤労監督請願形式で処理すれば、申告者を明らかにせずに十分に勤労監督が可能だ」と話した。
呆れた事態はこれにとどまらない。「Jマートの最低賃金法違反について捜査しないのか」というチェさんの要求に、支庁はやむなく7月22日から勤労監督を行った。しかし、最低賃金法違反の疑いを明らかにすることはできなかった。 勤労基準法は5人以上の労働者を雇用する使用者に対し、労働者の履歴と労働時間、賃金額などを記録した賃金台帳の作成を義務づけている。安山雇用労働支庁関係者は、「在職者などに尋ねたが、Jマート側が賃金台帳を作成していないために法律違反の疑いを立証できなかった」と話した。しかし、支庁はJマートを辞めた職員3人に対し最低賃金が支払われていたか確認しておらず、調査は形式的なものだった。
その結果、Jマートは勤労基準法違反に関し「賃金台帳の作成」を求める是正命令を受けただけで、最低賃金法違反にともなう処罰を免れた。こうした不合理な事態が起きるのは、雇用部が企業に対して温情処分を繰り返してきたためだと指摘する声がある。法律は勤労基準法や最低賃金法を犯した場合、雇用主に過怠金や罰金を賦課できると定めているものの、雇用部は是正命令ばかり下してきた。
チョン・チョンフィ記者 symbio@hani.co.kr