「企業利益は即ち雇用創出」なる政府の成長論、説得力失う
帰って来たのは“危険社会”の汚名のみ
セウォル号惨事の原因の一つに、李明博(イ・ミョンバク)政府の老朽旅客船の船齢制限に対する規制緩和が挙げられている。無分別な規制緩和がどれほど大きな社会的費用を支払わせるものかを示す事例だ。しかし、朴槿恵(パク・クネ)政府もまた、セウォル号惨事直前まで規制緩和を強力に推進していた。朴槿恵政府の掲げた名分は“雇用創出”と“全国民への恩恵”だが、現実には規制緩和は“企業利益増大”につながるだけで、全国民の利益にはつながらないという事実を見せてくれる。
去る3月20日、生中継された規制改革長官会議でヒョン・オソク経済副総理兼企画財政部長官は「主要分野別規制改革課題の推進方向」を発表した。この資料の冒頭には「推進目標:投資と雇用創出→全国民に恩恵」と明示されている。同日の会議を主宰した朴大統領も「私が何よりも規制改革に重点を置いているのは、それが即ち雇用創出だからだ」「規制改革は“経済革新と再跳躍”においてお金をかけずにできる唯一のカギだ」と強調した。
企業が政府に規制緩和のためのロビーをする場合にも“雇用創出”と“国益”を名分に掲げる。 三星(サムスン)電子は去る1月、ギャラクシーS5を医療機器から除外してほしいという内容の政策建議書を食品医薬品安全処の関係者に伝達した。<ハンギョレ>が入手した同文書(「モバイルの融・複合化関連政策建議」)を見ると「韓国情報通信技術産業のグローバル競争力向上と創造経済活性化のために、医療機器規制分野の政策的支援が切実である」と書かれている。政府は“創造経済”を「創意性を経済の核心価値に置いて新たな付加価値・雇用・成長動力を生み出す経済」と定義している。
雇用効果ははっきりしないのに“雇用創出”の名目、企業だけが腹を肥やす
雇用推定は“どんぶり勘定”
外国人投資促進法改正案可決による間接雇用効果につき
産業部は1千人、総理は1万4千人
“規制緩和→雇用創出”には根拠なし
政府は“雇用創出”を規制緩和の核心根拠として提げているが、規制緩和をすれば企業がどの程度の雇用を創出するかに関する根拠はない。 昨年6月、産業通商資源部は国会の産業通商資源委員会法案審査小委員会に提出した報告書で、外国人投資促進法改正案が可決された場合の創出される雇用推定値を、直接雇用100人、間接雇用1000人として提示した。 外国人投資促進法改正案とは、外国人投資者と合作企業を設立する場合には、ひ孫会社の持分を100%所有するようにした持株会社法規制を適用しないことを骨子とした法案だ。4ヶ月後の昨年10月、チョン・ホンウォン総理は対国民談話を通して「外国人投資促進法改正案が可決されれば、直接雇用200人、間接雇用1万4000人など、雇用が大幅に拡大される」と明らかにした。同じ政府内での推定値であるにもかかわらず、10倍以上の差が出たのだ。
規制緩和による雇用推定がどれほど“どんぶり勘定”で行なわれているかを示す一つの例だ。 雇用の推定は一般的に投資予想金額に韓国銀行が発表した産業別就業誘発係数を適用してなされるのだが、どんな係数を持ってくるかによってその結果は大きく変わる。政府も議論になることを意識して、規制緩和による雇用創出規模を明らかにすることを憚る。規制緩和問題を集中的に取り扱う政府の貿易投資振興会の会議資料には、投資拡大規模は明記されているが、雇用増大規模に対する言及はない。企画財政部のある関係者は「内部的には雇用の推定値を持っているが、信頼性が落ちて論議を呼ぶ恐れがあるため、対外的には発表していない」と明らかにした。
雇用効果ははっきりしないが、企業が得る恩恵は明確だ。ヒョン・オソク副総理の発表資料を見ると、“全国民への恩恵”という目標の後に続く細部推進課題は、すべて企業の隘路解消に焦点が当てられている。 “企業の隘路となる核心的規制”には立地規制、雇用規制、環境規制が挙げられている。 全てが緩和された場合、企業は費用を節約できるが、ややもすれば環境破壊などの社会的費用を払わなければならなかったり、労働者の利益を侵害したりする恐れのある規制だ。三星電子のギャラクシーS5規制緩和関連文書は「規制改善がなされれば、当社は総額27兆4000億ウォンの売上拡大が予想される」と明らかにしている。外国人投資促進法改正案の受恵者はSK総合化学、SKルブリカント(潤滑油)、GSカルテックスの3つの大企業である。政府が雇用創出という“手形”を受取って規制緩和という“現金”を渡しているわけだ。だがこの手形は、決済されずに終わる可能性が大きいという傍証が多い。
通貨危機(IMF)以来続いてきた
“企業への特恵による成長”で
企業は金持ちになり、国民は貧乏に
「規制緩和成長論、説得力を失った」
「規制緩和→投資促進→雇用創出、経済成長→全国民への恩恵」という政策基調に従ったのは、朴槿恵政府が初めてではない。韓国で規制緩和政策が本格的に推進されたのは1997年のIMF以降であり、以後、金大中(キム・デジュン)・盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府を経て、李明博(イ・ミョンバク)政府に至って一層露骨になった。韓国銀行の資料によれば、1975~1997年の国民総所得の年平均増加率は8.9%、家計所得の年平均増加率は8.1%、企業所得の増加率は8.2%だった。しかし、規制緩和政策が本格的に推進された2000~2010年の国民総所得増加率は3.4%、家計所得増加率は2.4%、企業所得増加率は16.4%だった。この期間、経済全体の成長率は大幅に下がり、家計所得はそれにも及ばない一方で、企業所得は急増したことが分かる。企業は金持ちになって、一般国民は貧しくなったわけだ。金融研究院のパク・チョンギュ研究委員が先月発行した報告書を見ると、2008年第1四半期以降2013年第3四半期まで、常用労働者の実質平均賃金は停滞状態にある。これは経済開発が始まって以来、初めての現象だ。
パク・チョンギュ研究委員は、「過去15年余りの間、経済活性化に向けて大企業が投資と雇用拡大のために必要だと主張していた各種のインセンティブを提供し、大企業の望む規制緩和に努力したが、投資及び雇用拡大の成果は現れなかった」と述べた。また、“企業の隘路解消”に合わせた規制改革は、環境、医療、教育等、本来公共性の強い分野にまで広がっている。現在政府が推進中の開発制限区域(グリーンベルト)解除要件の緩和、学校周辺のホテル許可、大型病院の子会社による営利事業許容等がその例だ。
政府が効果の上がらないこれらの政策を繰り返しているのは、「企業に依存した成長率引き上げ」という枠組みから抜け出せずにいるためだ。シン・ジョンワン聖公会大教授(経済学)は「政府が本当に投資の増大と雇用が切実ならば、企業が積み上げた金を税金として吸収して、公共投資に乗り出すこともできる」とし、「現政権はこのような方式は望ましくないと思っており、企業も抵抗するので、結局残るのは、企業の要望を受け容れることで投資の増進を期待する方法しかないわけだ」と述べた。 ユ・ジョンイル韓国開発研究院(KDI)政策大学院教授(経済学)の評価は更に冷ややかだ。彼は「規制緩和を通しての成長論は、韓国だけでなく米国、日本など他国でも説得力を失って久しい」とし、「市場万能主義に基盤を置く韓国財閥や官僚たちの“特権成長同盟”のためのイデオロギーに過ぎない」と述べた。
本当に政府が“全国民”に利益をもたらすことを望むならば、今こそ政策基調を変えなければならないと専門家らは指摘する。パク・チョンギュ研究委員は「十数年が経っても期待した成果が現れなければ、そのような戦略は韓国経済に合わないという評価を下し、新しい方法を探すのが正しい」として「大企業と中小企業の同伴成長を通して、企業部門から家計部門へ所得が拡散されるようにしなければならない」と述べた。ユ・ジョンイル教授は「セウォル号惨事をきっかけに、朴槿恵政府は今からでも経済民主化政策を推進しなければならない」とし、「労働者たちの実質賃金引き上げと福祉拡大だけが、真の経済活性化につながり得る」と指摘した。
世宗(セジョン)/キム・ギョンナク記者 sp96@hani.co.kr