昨年の大統領選挙当時、朴槿恵(パク・クネ)候補が安重根義士遺墨の盗難に関与したという疑惑を提起して、公職選挙法違反容疑で起訴されたアン・トヒョン(52・又石(ウソク)大教授)詩人に対して、全州地方裁判所刑事2部(裁判長 ウン・テク)が国民参与裁判陪審員団の全員一致‘全部無罪’評決をひっくり返し‘一部有罪’を宣告した。 ただし裁判所は陪審員団の評決趣旨を尊重するとし罰金100万ウォンの宣告は猶予すると明らかにした。
裁判所の今回の判決は既存の最高裁判例と距離がある上に、国民参与裁判の趣旨を傷つける内容が少なくなく論難が予想される。
■ 大法院判例に外れた‘裁判官の職業的良心’?
裁判所はアン詩人の容疑の中で‘虚偽事実公表’に対しては "ツィッター文の真偽が不明で、法的には虚偽事実だが、虚偽という認識があったと見ることはできない" として無罪を宣告した。 しかし‘候補者誹謗’容疑に対しては "当時のアン詩人の地位と大統領選挙状況、時期などに照らして公益目的は名目上の動機に過ぎず、朴候補を落選させる目的で誹謗したことなので違法" と明らかにした。 ‘真実に事実として公共の利益に関する時は処罰しない’という候補者誹謗罪の但書規定には該当しないということだ。 アン詩人は大統領選挙当時、民主統合党 文在寅(ムン・ジェイン)大統領選候補市民キャンプ共同代表を務めた。
裁判所のこのような判断は最高裁判例など既存の法理とは距離があるとみられる。 最高裁は候補者誹謗罪に関連した多くの事件で "‘公共の利益に関する時’とは、必ずしも公共の利益が私的利益より優る動機となったわけではなくとも、両者が同時に存在し相当性があれば良い" という判例を維持してきた。 代表的な例として2002年大統領選挙当時 "盧武鉉の義父がパルチザン出身" "金正日が寵愛する盧武鉉" と誹謗して起訴されたハンナラ党幹部に対して、最高裁は "候補に対する評価を低下させようとする意図があったとしても(そのような言及に)有権者が適切に選挙権を行使するよう資料を提供しようとする公共の利益もまた認められる" として無罪と判断した。 最高裁判例はまた、この間 "公職選挙で言論の自由に対する制限は緩和されなければならない…疑惑提起が簡単に封鎖されてはいけない" と明らかにした。 疑惑提起の‘公益目的’を全く認めなかった今回の判決が既存判例を無視した解釈という指摘が出る所以だ。
裁判所はこのような有罪判断が‘裁判官の職業的良心’に従ったもので、 "裁判官の職業的良心は憲法や法律、慣習法、最高裁判例のような確立された法理、そして健全な社会常識によって形成される" と説明した。 判例に外れた判決の理由としては色々な面でぎこちない。
■ 国民参与裁判の趣旨 否認
裁判所は陪審員の無罪評決をひっくり返した理由を説明する中で、"今回の事件の場合、法律専門家でない一般人により構成された陪審員が法理的観点で有無罪を判断するのは容易でない" と明らかにした。 また、裁判所は "事案の性格上、陪審員の政治的立場や、地域の法感情、情緒にその判断が左右されうる余地が伺える" として、陪審員団の全員一致評決を蔑みもした。 同様の趣旨で国民参与裁判の結果を批判した一部の政治的主張を意識したものではないかという疑いを買うに十分だ。
ソウル地域のある部長判事は 「陪審員が情緒に左右される恐れがあるとしても長所が多いので参与裁判を導入したのに、あえてこのような表現を入れることは不適切に見える」と話した。 パク・ギョンシン高麗(コリョ)大法学専門大学院教授は「陪審員が地域感情に揺れる恐れがあれば、裁判所が参与裁判申請を受け入れなければ良い。 参与裁判を許可しておきながら評決結果によって地域感情を云々するならば参与裁判の意味を否定することだ」と批判した。
ヨ・ヒョンホ先任記者 yeopo@hani.co.kr