昨年の大統領選挙当時、朴槿恵(パク・クネ)候補に関する疑惑を提起して公職選挙法違反(虚偽事実公表)容疑で起訴されたアン・トヒョン(52・又石(ウソク)大教授)詩人が、去る28日全州(チョンジュ)地方裁判所で開かれた国民参加裁判で、陪審員7人全員一致で無罪評決を受けた。 だが、担当裁判所の刑事2部(裁判長 ウン・テク)が‘見解の相違’として宣告を延期し論難が起きている。
この日アン氏の裁判は午前9時30分から夜11時40分まで、14時間を超えて被告人と検察側の熱を帯びた攻防の中で進行された。 ついに陪審員は全員一致で無罪評決を出したが、裁判所は「一部に対して見解を異にする。 陪審員評決を尊重するが、裁判官は憲法と法律、職業的良心に従って相衡点の有無を綿密に検討しなければならない」として宣告を11月7日午前10時に先送りした。 通常、国民参加裁判は裁判当日に宣告するのが慣行だ。
アン氏の弁護を務めたイ・グァンチョル弁護士は裁判が終わった後、フェイスブックに "アン・トヒョン詩人の国民参加裁判 陪審員評決全員一致無罪、判事が自身と見解を異にするとして宣告を延期しました。 まったく理解し難いですね。 これを国民に対するクーデターと言ったら、私は過激でしょうか?" と文を載せた。
だが、反対に陪審員の評決を非難する声も出ている。 29日に開かれた国会法制司法委員会のソウル高等法院などに対する国政監査で、イ・ジュヨン セヌリ党議員は「虚偽事実公表事件は難しい法律的争点が多い。 このような事件に陪審制が適切か疑問だ」と話した。
これに先立って24日には、同じく朴槿恵候補に関する疑惑を提起して公職選挙法違反容疑で起訴されたチュ・ジンウ(40) <時事IN>記者とキム・オジュン(45) <タンジ日報>総帥に対して、陪審員の多数が無罪意見を出し、ソウル中央地裁刑事27部(裁判長 キム・ファンス)もこれを受け入れ無罪判決を下した。 すると与党側は "人気迎合判決" と非難した。
国民参加裁判は、‘選出されない権力’である職業裁判官が専門担当してきた裁判の民主的正当性と透明性を高めるために2008年に導入された。 大統領選挙当時、朴槿恵候補に関する疑惑提起をして公職選挙法違反容疑で起訴された事件に対して、陪審員が相次いで無罪評決を下している中で、一角では陪審員評決を非難して政治的に敏感な事件は国民参加裁判を制限しようという主張まで出している。 だが、これは‘市民の司法参加’という制度の本質を理解できない誤った批判だという指摘が出ている。
国民参加裁判の導入を先頭に立って主張したある法曹人は、 「裁判官の固有領域だった裁判に一般市民が参加するのは、いわば権力に対する挑戦だった。 最近現れている陪審員評決に対する非難は、参加裁判のこのような属性に感づいた権力が市民権力を牽制することとも見ることができる」と話した。 国民参加裁判に対する制限主張は、陪審員評決の拘束力を高め参加裁判を拡大する側へ向かっている司法府の流れにも逆らうものだ。
イ・ギョンミ記者、全州/パク・イムグン記者 kmlee@hani.co.kr
---------------------------------------------------------------
裁判所、陪審員評決を覆すか…6年間‘反転判決’ 7.5%
アン・トヒョン事件に見た‘国民参加裁判’
■陪審員決定を覆しても良いのか
現行‘国民の刑事裁判参加に関する法律’には "陪審員の評決は裁判所を拘束しない" とされている。勧告的効力を持つだけだということだ。 だが、一線裁判では陪審員評決を‘尊重’している。
2009年ソウル馬場洞(マジャンドン)畜産物流通業社の職員ムン・某氏が、そば店従業員キム・某氏と口げんかの末に凶器で殴った容疑(殺人未遂)等で起訴された。 国民参加裁判で1審裁判所は陪審員7人が殺人未遂容疑に対して全員一致で無罪評決するや、これを受け入れた。 2審はこれとは異なり、殺人未遂容疑を有罪と判断した。 だが、最高裁は2011年3月「陪審員が証人尋問など事実審理の全過程に共に参加した後に全員一致意見として下した無罪評決が裁判所の心証に符合し、そのまま採択されたケースならば、控訴審で新たな証拠調べを通じて、それに明確に反する事情が現れない限りはむやみに覆すことはできず、(陪審員評決は)より一層尊重されなければならない」として、2審の判断を覆した。 最高裁が陪審員の判断を尊重したのだ。
最高裁の統計を見れば、2008年から去る9月まで陪審員の評決に裁判所が逆らったケースは国民参加裁判全体1091件の内82件(7.5%)だった。 82件の中には、陪審員が無罪と決めたものを裁判所が有罪に変えた事例が大多数(76件)であった。 陪審員が一般裁判官より有罪認定にさらに厳格だということが分かる。 最高裁関係者は「概して性犯罪で陪審員と裁判所の意見が多く分かれる。 陪審員が性犯罪で有罪を認める基準値が高い」と話した。
参加裁判と一般裁判を比較すると、無罪率と実刑率で参加裁判が共に高く現れる。 これは2008年に施行された参加裁判で、強盗・殺人・性暴行など刑が重い事件が主な対象になったし、全て有無罪を争う事案であるためだ。 一般裁判では被告人が容疑を認めるケースが多い反面、参加裁判では有無罪を争うために、自然に無罪率が高くなるわけだ。 無罪率が高いと言っても、陪審員が‘庇い評決’をすると見ることはできない。 実刑率が高い理由も刑が重い事件が主な対象であるためだ。
国民参加裁判は昨年7月から刑事合意部のすべての事件で対象が拡大した。 キム・オジュン・チュ・ジンウ氏事件やアン・トヒョン詩人の事件など社会的世間の注目を集める事件も市民の裁判参加が可能になった。 ある高等法院部長判事は "まだ制度が定着しなかった状況なので陪審制に対する批判は予想されたのだ。 だが、現行制度では陪審員決定を裁判所が拒否することもできるだけに判決のすべての責任を陪審員に回してはいけない" と話した。 現在も国民参加裁判進行が適切でないと認められれば排除決定をすることができる。
■ "政治的事件こそ参加裁判の対象"
キム・オジュン、チュ・ジンウ氏事件とアン・トヒョン詩人事件で、陪審員が相次いで無罪評決を下すと、与党と一部保守言論は「政治的懸案は参加裁判をしてはならない」と主張している。 しかし選挙事件であるほど、むしろ参加裁判が必要だという見解がある。 ソ・ボハク参与連帯司法監視センター所長は「判事・検事など官僚は法秩序の安定を追求するために、権力の影響を受けざるを得ない立場だ。 選挙法違反者は‘勝者の裁判’になる恐れがある。 最近の一連の事件は、もし大統領選挙で野党候補が当選したとすれば起訴されなかったかも知れない。 このような事件であるほど、市民の監視が必要だ」と話した。 オーストリアでは政治的事件こそ参加裁判をするよう義務化している。
文在寅(ムン・ジェイン)民主党大統領候補の支持者が多数であった全北(チョンブク)地域でムン議員の選挙運動をしたアン詩人の裁判をすることが正しいのかという問題提起もある。 米国では小さな村で凶悪犯罪が起きて、容疑者に対する地域民の偏見が強い場合には裁判の場所を他地域に移したりもしている。 最高裁司法参加委員会審議官であるカン・ジョンソン判事は「国土が狭い我が国では現実性がない。陪審員選定は検察・被告人双方がすべて同意してはじめて可能だ。 検察・裁判所が熾烈に陪審員の選定をして法理攻防を行わなければならない。 陪審制の趣旨は市民の常識を反映しようということだ。 結論が気に入らないからと制度自体を否認してはならない」と話した。
先月ソウル中央地裁を訪問した米国陪審制の権威者であるValerie P. Hans(62)コーネル大ロースクール教授は‘世論裁判’憂慮に対して「参加裁判の長所は色々な人の良心が反映され、流動的に変わることができるということだ。 そのような過程を経れば片側に偏るよりは均衡点を見つけるだろう」と話した。
■ 参加裁判の拡大が答
陪審員が有無罪を決め、判事は刑量だけを決める米国の陪審制と、市民と裁判官が共に裁判所を構成し有無罪と刑量まで決めるドイツの参審制など長い伝統を持つ外国の陪審制度に比べれば、我が国の参加裁判はまだよちよち歩きの段階だ。 最高裁は国民参加裁判の定着のために拡大施行を試みている。
法務部が立法予告した‘国民の刑事裁判参加に関する法律’改正案は "裁判所は被告人の有無罪を判断する時、陪審員の評決結果を尊重しなければならない"として "憲法や法律、最高裁判例に違反する場合や論理法則に違反する理由がある場合"にのみ陪審員評決に従えないことがあるとしている。 事実上、陪審員評決の拘束力を付与したわけだ。 また、これまでは被告人が申し込んだ場合にのみ参加裁判が可能だったが、改正案が通過すれば、検事の申請や裁判所の決定でも参加裁判を開けるようにした。 財閥・政治家の事件も陪審員裁判が可能になる。 現行の単純多数決方式から陪審員の4分の3以上の賛成に評決定足数も強化される。
カン・ジョンソン判事は「社会的に重要な事件は、より一層国民参加裁判で行わなければならない。 それでこそ誤った判断に対する憂慮がなくなる。 市民参加を制限しようということは参加裁判は止めようという話と同じだ」と話した。 イ・ギョンミ記者 kmlee@hani.co.kr