イ・ソッキ議員と関連したいわゆる“内乱陰謀事件”が先月26日検察の起訴で本格的な法廷攻防を控えている。 「イ・ソッキ内乱陰謀事件」は国家情報院改革議論をほとんど失踪させるほど私たちの社会に大きな影響を及ぼしている。
だが、この時点で一度点検して見る必要がある。 私たちはこの事件について正確に判断しているだろうか。 分断という特殊な状況で、ひょっとして見逃している点はないだろうか。
私たちの内部では極く自然に思われることであっても、外部の視点で見たとき不自然と認識される部分が存在し得る。 私たちが特殊状況という論理で普遍的権利を無視する時に特にそうだ。 これによって私たちは、具体的な“木”を見て全てを見たと判断するが、肝心の全体である“森”を見ることができない場合もあり得る。
「イ・ソッキ内乱陰謀事件」と関連して、カナダのオタワ大経済学科名誉教授であり地球化研究センター設立者であるミシェル・ チョスドフスキー教授にEメールでインタビューした理由もまさにそこにある。 “外部の見解”が“イ・ソッキ事件”を理解するのに一定の助けになり得ると判断したからだ。
チョスドフスキー教授は国内にも『貧困の世界化』(図書出版当代・1998)、『戦争と世界化』(図書出版ミン・2002)、『第3次世界大戦シナリオ』(ハンウルアカデミー・2012)等の著書が翻訳紹介されている進歩学者だ。 彼は著書と講演等を通して米国と国際通貨基金(IMF)等、巨大国際権力の“帝国主義的属性”を一貫して批判してきた。
チョスドフスキー教授はイ・ソッキ事件関連の英文記事を注意深く調べていると明らかにした。 そうは言っても、私たちには見慣れた“木”に対する彼の理解は、韓国社会で生きている私たちより劣っている可能性はある。しかし、韓国と正反対の側に位置した国の尊敬される元老学者である彼が、かえって私たちが見逃しているかも知れない“森”を見ることができるかもしれない。
チョスドフスキー教授は「思想と表現の自由は現代民主社会を構成する絶対的基礎」であるいう前提のもとに、イ・ソッキ事件を政治的に利用するのは韓国社会が全体主義社会であることを示す証左だと強く批判した。
「反逆というなら、米軍に戦作権を渡すことが反逆」
-いわゆる「イ・ソッキ内乱陰謀事件」について知っていますか?
「関連の英文記事を注意深く調べている。 私はそれが議会内の政敵を対象にしたパク・クネ大統領の個人的な復讐だと考える。 国家安保問題を掲げているが言い訳に過ぎない。 このような側面から、パク・クネ政府を民主的な政府だとは表現できないと考える。 “民主という仮面をかぶった全体主義”だ。 根本的にそれは過去の政治、すなわち軍事独裁時代の政治を示している。」
-いわゆる「イ・ソッキ内乱陰謀事件」の性格をどう規定しますか?
「文脈を考慮せずに国会議員の言葉を選択抜粋し彼を反逆罪で告発するのは、政治的言述を理解できない局面へ追い込んでいくものだと考える。 私がイ・ソッキ議員の言葉を解釈するならば、3万7千人の米軍が韓国の地に駐留していて、韓国軍は米軍の命令下に置かれているという点を批判したのだ。
別の言い方をすれば、それは韓国の大統領と軍最高司令部の合法性に対する質問だ。 米軍の駐留は韓国の政策形成に直接的な影響を持つと考える。 米軍は(戦時に)韓国軍を指揮する。 これは明白な事実だ。 韓米相互防衛条約によれば米国の4星将軍が韓国軍の実質的な最高司令官を務めるようになっている。
反逆という言葉は、韓国人の利益に反して外国権力のために仕事をすることを意味すると考える。 このような定義に従うならば、私は本当に反逆をしたのはパク・クネ大統領だと考える。 なぜならパク大統領は国軍統帥権者としての責任も義務も果たしていないからだ。 したがって反逆をしたのはイ・ソッキ議員ではなくパク・クネ大統領だ。」
チョスドフスキー教授とインタビューした去る2日、ソウルでキム・クァンジン国防長官とチャック・ヘーゲル米国国防長官は第45次韓米安保協議会議(SCM)を開いて戦時作戦統制権(戦作権)転換の再延期を論議した。 これに伴い、当初2015年12月1日だった戦作権還収時点は、期限の定めのない未来に変わった。
イ・ソッキの発言に同意しようがすまいが
重要なことは「表現する権利」
保安法はその権利を侵害し
国民を自己検閲へと追い立てる
国家利益に反してこそ反逆なのに
イ・ソッキは米軍に反旗を翻し
韓国軍の自主性を主張したもの
にも拘らず彼を拘束したのは
恐怖政治であり過去の政治だ
「ヨーロッパはネオナチにさえ発言権を与えている」
-「イ・ソッキ事件」と関連してもう一つの重要な争点は“思想と表現の自由’と関連したものだ。 現代社会で思想と表現の自由はどこまで許されなければなければならないと考えますか?
「何よりも表現の自由は、現代民主主義社会の絶対的基礎だと考える。 私はすべての民主主義社会において、どんな形式にしろ指導者を批判する権利が構成員にあると考える。 私たちがイ・ソッキの観点に同意しようがしまいが、それは窮極的に重要な問題ではない。 重要なのは、彼は彼自身の見解がどんなものであれ、それを表現する権利があるという点だ。
私はまた、思想の自由もやはり現代社会の絶対的基礎だと考える。 ヨーロッパの場合を見てみよう。 ナチで辛い経験をしたヨーロッパの場合、そのような思想を制御したい欲望があり得る。 しかしヨーロッパ連合の現在の状況を見れば、ネオナチにさえも表現の自由を与えている。 彼らもヨーロッパ連合の中の政治的スペクトラムに含まれることを許される。 私たちは表現の自由を保護しなければならない。 しかし不幸なことだが、パク・クネ大統領が統治する韓国社会はそうではないようだ。」
-カナダや米国などでは思想の自由がどこまで許されていると見ますか?
「米国でも今この瞬間、国家安保という名で根本的な権利が侵害されていると考える。 米国とカナダは民主主義の根本的モデルではない。 しかし人々は政府に反対したからといって日常的に逮捕されはしない。 米国とカナダの上院下院議員のうち、政府を批判したからといって誰も逮捕されはしない。」
「米国の50年間にわたる北に対する核の威嚇を看過してはならない」
-米国と北韓の関係については基本的にどのように見ていますか。 北-米間の未修交および緊張状態が韓半島の緊張を高めている側面がある。 北-米修交が成り立たないでいる根本的原因はどこにあると考えますか。 北の核のためなのか、米国の帝国主義的政策のせいか?
「米国は北韓を韓国戦争(朝鮮戦争)以来60年間威嚇してきた。 私は米国が日常的に韓国と北との緊張を高め、対話を妨害してきたと見る。 韓半島統一の過程においても米国はサボタージュ(怠業)をしてきた。 そして毎年米軍と韓国軍が共に北を目標に戦争ゲームをしてきた。
現在の核の脅威と関連して言うならば、米国が北を核兵器で50年以上威嚇してきたという点を指摘しなければならない。 米国の核能力と北の核能力の間には非対称が存在する。 軍縮運動連合(armscontrol.org)によれば、米国は2013年5月現在、5113個の核弾頭を有している。
米国が北を相手に核兵器を使うならば必然的に韓半島全域を荒廃化させるだろう。 非武装地帯はソウルから50kmの位置にあるからだ。」
-韓国には国家保安法がある。 この法によれば反国家団体と規定された北を肯定的に表現することまで犯罪行為となる。 国家保安法についてはどう思いますか?
「表現の自由に対する権利を侵害するものだ。 国家保安法により統治者は自らの望む方式で事案を解釈し、自らの意図に沿ってその法を活用する。 これは根本的に韓国の構成員が北に関する意見を自由に表現するのを許容しないことを意味する。 北については、ただ否定的なことだけを話すことが許される。 私はこの国家保安法が民主社会に相応しくない、明らかに時代に遅れた法だと考える。 韓国社会をそれこそ1950年代に戻らせるものだ。 韓国社会の構成員が北に関する自己の見解をそのまま表現することが必要な時代になった。 韓国社会において、北について肯定的または否定的に話すことが問題なのではない。 重要なのは、北の問題が議論され討論されなければならないという点だ。」
「保安法の萎縮効果、自己検閲社会を作る」
-国家保安法の存在が、韓国の保守陣営はもちろん進歩陣営さえも、イ・ソッキ議員の事件を保守的に解釈するようにさせている、という批判もある。
「そうなったのは萎縮効果(chilling effect)のためだ。 イ・ソッキ議員の拘束が国全体を恐怖と威嚇の雰囲気に作るのに利用された。 このような状況では、あなたも自己検閲の形で影響を受けることになる。 あなたは安全なラインに立たなければならない。 あなたはパク大統領に反対することを言ってはいけない。
このような効果を生むのが、すなわち萎縮効果だ。 私はこれが国家情報院の意図した効果だと考える。 イ・ソッキ議員関連者にだけでなく韓国社会のすべての進歩的要素に対して意図した効果だ。 そうすることで人々は嘘を真実と受け入れ、米軍の駐留を受け入れ、歴史に対する歪曲された観点を受け入れるようになる。
このような点を考慮すれば、国家保安法を活用する体制は真に全体主義的システムだ。 人々が考え、自らを表現し、彼らの指導者を批判することを阻んでいる。 そしてあなたはあなた自らを監視する。 それにより、あなたはいかなる種類の政治的弾圧に対しても目標物にならないようにするわけだ。 結局あなたは“政府の歌”を歌うことになる。 これが全体主義の本性だ。」
-イ・ソッキ議員事件と関連した表現の自由の問題で、韓国内部が複雑だ。 進歩陣営の対応だけ見ても△国家情報院が公開したイ・ソッキ議員などの発言自体が操作されたという主張△発言が操作されたと主張するならば、思想の自由に言及できないという主張△イ・ソッキ議員の発言が事実だとしても、思想の自由は保障されなければならないという主張などがある。
「『迫りくる戦争、真っ向から立ち向かおう』と言った彼の言葉が、韓国社会で文脈を離れて引用されていると見られる。 私はイ・ソッキ議員の言葉が、外国軍隊が駐留している韓半島の韓国人に警告を送ったものと推測する。
米軍駐留と自主性問題の相関性はアジア経済危機が高まった1997年にも経験した。 当時駐韓米国大使館は事実上米国政府の指示を受けて韓国の財務長官と韓国銀行総裁の解任を要求した。 当時韓国政府としては他に選択の余地がなかった。 駐韓米軍がいなかったとすればこうしたことは起きなかっただろう。
したがってイ・ソッキ議員が『私たちは政治的・軍事的に準備しなければならない』と言ったとすれば、彼は『私たちは私たちの武装力を持つ必要がある』という意味で話したと思う。 韓国の武装力に対する指揮権は韓国の国家首班にはないからだ。 したがって私は、韓国が米国から兵器を買うのは韓国人の税金で米国のために奉仕することだと見る。」
文・写真キム・ポグン ハンギョレ平和研究所長 tree21@hani.co.kr