平和だった共同体はずたずたに引き裂かれた。 家族のように過ごしてきた村と村の間、同じ村の隣人同士、さらには一つの家族の中ですら、葛藤は見解の違いを越えて憎しみに変わりつつあった。
慶南(キョンナム)密陽市(ミリャンシ)山外面(サンウェミョン)にあるコラン村とヤンリ村は一つの村も同然だった。 送電塔問題が持ち上がってそれぞれ反対派と賛成派に分かれる前までの話だ。 人々はここを「上の村」(コラン)と「下の村」(ヤンリ)と呼び、両方を一つに括って「クェゴク村」とも言った。
「ハルメ(ハルモニ、おばあさん)たちが集まって花札もやり、ユンノリもして、どんなに楽しかったか分かりません。 今はすっかり変わってしまいました。 ヤンリの人たちは金を稼ぎに畑に行ってしまい、私たちはデモしに行って。 村の会館もがらんとしてて。 お互い顔も合わせないようにして、村の雰囲気はひっそりとしています。」
去る5日に会ったチン・某(84・女)氏は、コラン村で過ごした一生を「本当に楽しかった」と記憶するだけに、もどかしさも強いようだった。
この村の住民パク・某氏は送電塔建設に反対すると言って、年齢すら明らかにすることを憚った。 自身があらわになるのを極度に恐れながらも、パク氏は「以前は一緒に観光バスに乗って遊びにも行ったのに、今年は(送電塔に賛成する)ヤンリの人たちだけが別に行った。 ヤンリにあるスーパーにも行かないし、タバコは町まで出て十箱入りを幾包みか買ったりする。 (ヤンリ村に住む)父の友人の方が亡くなったけれども通夜にも行かなかった」と語った。 また住民キム・某(67)氏は「上の村、下の村の人々ですか? お互い敵ですよ、敵」と言った。
送電塔建設賛成側であるヤンリ村の住民も同様だった。 名前を伏せた50代のある男性は「国で電気が足りないと大騒ぎしているのに、送電塔建てられないようにして電気供給ができないと思うと、反対する人々に腹が立ってたまらない」と言って“上の村”の人々に対する敵がい心を見せた。
密陽市(ミリャンシ)上東面(サンドンミョン)金山里(クムサンリ)にあるユサン村の住民は補償金協議をするかどうかで9月30日に投票を行なったが、反対20票、賛成17票で否決された。 ある住民は「いとこ同士でも賛否に分かれ、縁を切ってしまったとこさえある」と話した。
何が彼らをここまで互いに背を向けさせたのだろうか。<ミリャン765kV送電塔反対対策委員会>(ミリャン対策委)のイ・ゲサム事務局長は「最も重要な要因は、送電塔が立てられる場所や送電線が通る所と住居空間との距離だ」と言う。 イ事務局長は「ヤンリの人々は送電塔が立つ107番現場から相対的に遠いので心理的威圧感はずっと少ない。 他の村でも住民たちの賛否の立場はほとんど“現場との距離”で分かれる場合が多い」と説明した。
「政治家たちは国会で何を争っているんだ? 本当の戦いはここでやっているのに…」
この地域の近くには106・107・108番の3つの送電塔が立てられる予定だが、最も近い107番の現場とコラン村の距離は1kmに過ぎない。 昨年1月16日焼身自殺したイ・チウ(当時74才)氏が住んでいた山外面(サンウェミョン)ポラ村は多くの世帯が送電塔102番現場から1km以内に入っていて相対的に反対論が強い。
密陽(ミリャン)のこの8年間は個人間の葛藤を、政治の不在が無差別的に拡大させた事例だ。 特に地域の国会議員から自治体首長・自治体議員までを特定政党が独占している構造では、政策に対する合理的討論はなされにくいと指摘される。 去る18代大統領選挙でパク・クネ大統領に対する密陽地域の支持率は69.4%で、慶南(キョンナム)地域平均(63.1%)より高かった。 地方区(密陽(ミリャン)・昌寧(チャンニョン))の国会議員もやはりセヌリ党所属のチョ・ヘジン議員だ。 自治体議会も同じだ。 密陽市(ミリャンシ)議会はセヌリ党所属9人、セヌリ党指向の無所属議員2人、民主党所属1人から成っている。
チャン・ビョングク市会議員(無所属)は「今は具体的補償方案を考えるべきで、葛藤が今のように続いてはいけない。 外部勢力もこれをしきりに政治的に利用してはいけない」と言って強硬な態度を見せた。 彼は地域のある電気設備業者代表と建設会社の理事を務めている。
特定政党の独占構造に“政治不在”
この8年間 葛藤と憎しみばかり育て
住民“政治家たちによる調整”期待もしない
登山服姿の公務員 掘っ立て小屋前集結に
糖尿病の70代の老人 涙の訴え
「ワシはこんな有様を見るために死線を越えて来たのか」
「住民の63%、送電塔反対」の結果に
一部言論 不純な外部勢力のせいにし
座り込み住民「ワシが外部勢力か?」
去る2日に工事が再開されて以来、毎日住民の座り込み現場を訪ねているムン・ジョンソン市会議員(民主党)は「送電塔建設の問題点をいくら提起しても、市議会はもちろん地方区国会議員や密陽市は全く動こうとしなかった。 密陽(ミリャン)の事態は結局パク・クネ政府、そしてその背後にいる建設資本と住民との戦いだ。 政治がこの問題を公論化・議題化してこの開発論理を断つべきなのに、そういうことが全く出来ていない。 結局は政治が問題だ」と語った。
住民も政界による“制度的調整”の可能性に希望をかけていないようだった。 記者が政治に関する質問を持ち出せば、多くは答えなかったり関係ない返事をしたりした。 丹場面(タンジャンミョン)パドゥリ村の住民チェ・某(53)氏は「政治家たちはいつも国会で争ってばかりいるじゃないか。 本当の戦いはここで我々だけでやっているのに」と話した。
送電塔工事は2008年8月の着工以来、10回余り再開と中断を繰り返してきた。 新古里(シンゴリ)原子力発電所から慶南(キョンナム)昌寧(チャンニョン)の北慶南(プッキョンナム)変電所まで続く送電塔161基の建設工事のうち、69基が立つ密陽(ミリャン)を除いて昌寧(チャンニョン)・梁山(ヤンサン)区間は全て完工した。 52基の送電塔建設を巡る葛藤が依然として続いている密陽は、他の地域と違って、昨年1月イ・チウ氏が焼身自殺する中で強い反対が続いている。
去る1日チョ・ファンイク韓電社長が工事再開を宣言するとともに、しばらく続いた小康状態に再び火が付いた。 2日から密陽(ミリャン)のあちこちの工事現場では警察と韓電職員、そして住民との間の物理的衝突が続いた。 この過程で5日までに計11人の住民が精根尽き果てたり打撲傷などの症状で入院し、6人は現在も入院中だ。
5日午前9時頃から丹場面(タンジャンミョン)米村里(ミチョンリ)の“765kV新古里・北慶南送電線路建設工事(第4工区)”現場に登山服姿の密陽市(ミリャンシ)公務員200人余りが集結した。 警察力を間に置いて2車線道路の向かい側には住民が臨時に作ったビニールハウス形態の掘っ立て小屋がある。
「この腐ったやつら、帰れ! 世の中にこんなことがどこにある!」
住民ウ・オテク(73)氏は登山服姿の公務員たちに向かって絶叫した。 糖尿病を患うウ氏は激しい感情を抑えられずに両手をぶるぶると震わせ、アメを一つ口の中に入れるとその場に立ったまま子供のようにわあわあ泣いた。 「ワシは手術を3回受けて死線を3回越した。こんな有様を見るためだったのか…」と。
話を伝え聞いた市民たちが順に現場に集結してこの日衝突は起こらなかったが、住民の絶望はそっくり残された。 「倭政(訳注:日本の植民地支配時代を指す)の時から密陽(ミリャン)で生きてきた」というキム・某(83)氏は「韓電も政府じゃないのか。 済州(チェジュ)の海軍基地もあんなに反対運動をしたが結局政府の思い通りにやったんだ・・・。 政府がやると言うのを、どうやって阻止できますか。 それでも昔のように何でもかんでも捕まえて殺して、というふうにはできないから、こうやって掘っ立て小屋にも出てくるんだ」と話した。
住民はマスコミも自分たちの味方ではないと感じている。 密陽対策委が9月26日に発表した調査結果を見れば、送電線が貫通する予定の4つの面(府北・上東・丹場・山外)の住民3476人中2207人(63%)が「送電塔建設に反対する」と答えている。 沸き立つ現場世論とは異なり、マスコミはこれまで密陽(ミリャン)の葛藤を「少数の住民と不純な外部勢力の合作品」程度に片付けてきた。
「新聞も放送も呆れてものが言えない。外部勢力だって言うじゃないか。 私が外部勢力か、私が?」 ある住民は胸を打って問い返した。 第4工区の掘っ立て小屋で座り込みしていたある住民(76・女)は手にしていた風呂敷で放送局のカメラを打ち下ろして叫んだ。 「うせろ、汚い奴ら! お前ら、何で写真撮るんだ? 何で撮るかって言っているんだ!」
密陽(ミリャン)/ソン・ホギュン、キム・ミヒャン、ソ・ヨンジ、イ・ジェウク記者 uknow@hani.co.kr
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