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【現場の深層】公共寄宿舎・幸福住宅 険しい道…NIMBYに足を取られた住居福祉

登録:2013-06-13 20:48 修正:2013-06-14 06:50
「公共寄宿舎ですって? 住居価格が下落しちゃう!」
公共寄宿舎建設予定の九宜洞も
政府推進の「幸福住宅」モデル地区も
周辺アパート住民の反対の声強く
ソウル市が広津区(クァンジング)九宜洞(クイドン)遊水池(左下)の場所に、高い授業料に苦しんでいる大学生のための公共寄宿舎を作ろうとしている。 7日午後、近隣アパート(右上)の住民が眺望権侵害などを理由に掲げた垂れ幕が外壁に見える。 シン・ソヨン記者 viator@hani.co.kr

 延南洞の大学生専用賃貸住宅は
住民の反対が大きかったが建設後は共存の“芽”
ブックカフェ・文化講座運営し大きな呼応

 公共賃貸住宅建設、公共大学生寄宿舎建設が周辺住民の反発にぶつかっている。 庶民や高い授業料に苦しんでいる大学生を支援するという政府と地方自治体の試みが、住民の共感を引き出すことができるだろうか?

 パク・クネ政府が大統領任期中に公共賃貸住宅20万世帯を建設するとしてスタート初期から「幸福住宅」建設に取り掛かった。 パク・ウォンスン ソウル市長は昨年4月賃貸住宅8万世帯建設政策を打ち出し、拍車をかけている。 我が国の住居福祉水準が非常に低いからだ。 ところで公共賃貸住宅を嫌悪施設のように眺める視線は冷たい。 半額授業料を訴える大学生を支援する公共寄宿舎建築事業も、住居価格の下落を心配する住民の反発にぶつかった。

■ 公共賃貸住宅・公共寄宿舎は嫌だ?

「大学財団に免罪符を与える寄宿舎建設、ソウル市民の血税1200億使用反対」

先月23日、ソウル市広津区(クァンジング)九宜洞(クイドン)のHアパート(444世帯)の壁面に垂れ幕が掛かっていた。 アパートの向い側の漢江(ハンガン)の脇の遊水池(洪水時に雨水を臨時に貯蔵する所)の場所に公共寄宿舎を建てるのに反対しているのだ。 ソウル市は1万余㎡の遊水池を深く掘って水を入れることができるようにし、その上に20階建て700室規模の学生寄宿舎を建てようとしている。 ソウル市議会も遊水池拡充280億ウォン、寄宿舎新築380億ウォンなど予算660億ウォンを通過させた状態だ。

 アパート駐車場で会ったキム・某(61・女)氏は「遊水池は住民たちが散歩もする公園だ。 そのまま置いておくべきだ」と話した。 入居者代表会議の会長であるチョン・某氏は「寄宿舎までできれば、漢江のほとりのアパートでなく洞窟アパートになってしまう。 眺望権侵害で一世帯当り数億ウォンの被害をこうむる」と声を強めた。

 住民は築後30年になったアパートの再建築を望んでいる。 キム・某(40)氏は「再開発を後回しにして寄宿舎から作るというのは順番が逆だ。 ソウル市民が出した税金をなぜ地方出身の学生たちのために使おうとするのか」と言った。

 寄宿舎建設計画をソウル市がきちんと説明しなかったという不満も出ている。 ソウル市は住民代表何人かと懇談会をしたが、それさえも住民の抗議にあってまともに進行できなかったといわれる。

 政府が推進する幸福住宅事業も住民の反対が始まった。 国土交通部が幸福住宅モデル地区候補地として遊水池3ヶ所(ソウル市陽川区(ヤンチョング)木洞(モクトン)、松坡区(ソンパグ)の蚕室(チャムシル)および炭川(タンチョン))と鉄道敷地4ヶ所(ソウル市梧柳洞(オリュドン)駅、加佐(カジャ)駅、孔陵洞(コンヌンドン)の京春(キョンチュン)線廃線敷地、京畿道(キョンギド)安山市(アンサンシ)の古桟(コジャン)駅)の計7ヶ所(48万9000㎡)を指定するや、 木洞(モクトン)住民らは過密化、緑地減少を理由に挙げて反対署名運動に出た。

 広津区(クァンジング)九宜洞(クイドン)のHアパート住民の中には大学生寄宿舎建設に賛成する人たちもいた。 イ・某氏は「学費負担に苦しんでいる学生たちにとって良いことだ。 わずかの不安でも住居価格が下がるかと過敏反応を見せている」と話した。 付近で店を営んでいるアパート住民パク・某氏は「寄宿舎を建てて若い大学生が多くなれば町内商圏が生き返るだろう」と言った。

 大学生にとって住居問題は切実だ。 昨年の教育科学技術部(現、教育部)資料を見れば、ソウルで学校に通う大学生の寄宿舎受け入れ率は11.67%に過ぎない。 地域出身大学生10人の中で8~9人は間借りや下宿をしたり考試院などで過ごすわけだ。 ペ・ビョンウ ソウル市立大教授チームがソウル市立大・慶煕(キョンヒ)大学生たちをアンケート調査した結果、両親とともに暮らしていない大学生は月平均所得79万6700ウォン(両親支援金63万余ウォン含む)の中から40%に達する31万7700ウォンを住居費として支出した。 貸し切り保証金を抜いた金額だ。 それだけ公共寄宿舎拡充が至急だという話だ。

ソウル市麻浦区(マポグ)延南洞(ヨンナムドン)にソウル市傘下のSH公社が大学生のために作ったワンルーム住宅‘希望ハウジング’の姿。 建物1階のブックカフェ<散策>を訪れた住民は「初めは大学生賃貸住宅に反対する住民もいたが、カフェも利用できるし若い学生も行き来するので良い」と話した。 イ・ジョングン記者 root2@hani.co.kr

■ 共存の芽生えがあった“希望ハウジング”

ソウル市麻浦区(マポグ)延南洞(ヨンナムドン)の住宅街には若者たちの“巣”がある。 大学生のための5階建てワンルームの建物で、昨年ソウル市傘下SH公社が作った。 去る3月大学生29人が入居したが、競争率は5.9対1だった。 広さ13.44㎡のワンルーム利用料は保証金100万ウォンに基礎生活受給者の子弟は月13万余ウォン、非受給者の子弟は16万ウォンだ。 この巣はソウル市が公共寄宿舎建設と共に行なっている大学生専用賃貸住宅<希望ハウジング>事業の成果だ。

 江西区(カンソグ)内鉢山洞(ネバルサンドン)では「希望の巣 大学生公共寄宿舎」(延面積9283㎡)が新築中だ。 ソウル市が敷地を提供し、全羅南道の羅州(ナジュ)・順天(スンチョン)・光陽(クァンヤン)・高興(コフン)、忠清南道の泰安(テアン)、慶尚北道の慶山(キョンサン)・金泉(キムチョン)・聞慶(ムンギョン)・醴泉(イェチョン)の9市・郡が建築費を分担する方式だ。

 延南洞(ヨンナムドン)希望ハウジング事業も立地が一戸建てやマンションの多い住宅街の真中なだけに、初めは騒音被害などを憂慮した住民の反対が大きかったという。 だが、大学生が入居して3ケ月になろうとする先月23日、周辺の雰囲気は違って見えた。

 建物1階に作ったブックカフェ <散策>を訪れる住民が増えた。 ブックカフェで読書三昧の住民チョン・ソンイ(33)氏は「大学生用ワンルームができるという話に、率直に言って流れ者が増えるのではと心配した。 実際に公共ワンルームが建ってみたら、町内がきれいになったし、近いところにブックカフェもできたし、いいです」と言って笑った。 小さな娘を連れてブックカフェを訪れたチョ・ヘギョン(40)氏は「コーヒーが他より30~40%安いし、家の前にあるので普段着でも来られる。 2~3日に一度は子供を連れて立ち寄る」と話した。 ブックカフェの司書兼バリスタは「住民が口コミで途切れることなく訪ねてくる。 住民福祉の次元から住民対象の文化講座も運営している」と話した。 大学生29人が暮らす小さな規模だが、町内文化施設もできて住民と大学生は徐々に交わり始めているようだった。

チョン・テウ記者 windage3@hani.co.kr

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住民反発の解決法は

入居低所得層の自活および地域共同体事業を併行しなければ

 韓国の公共賃貸住宅の比重は5.3%で、経済協力開発機構(OECD)会員国中最下位圏であり会員国平均の11.5%の半分にも至らない。 オランダ(35%)、オーストリア(25%)、デンマーク(21%)、スウェーデン(20%)、英国(18%)、フランス(17%)とは比較にならない。

 ソウル市が公共庁舎を改築したり協同組合型賃貸住宅を導入するなど、様々な方案を出している。 予算が限られているので、公営駐車場や遊水池、端切れ地まで活用している。 簡易宿泊所居住者のために高架道路下にコンテナボックスを活用した1人世帯用“モジュラー住宅”も提供している。 広津区(クァンジング)九宜洞(クイドン)の遊水池に大学生公共寄宿舎設立を推進するのも、土地購入費の負担が途方もなく大きいためだ。

 ところで住民の反発で公共賃貸住宅事業は順調ではない。 ソウル江西区(カンソグ)加陽洞(カヤンドン)の賃貸アパート団地には、福祉館を再建築して1~5階を福祉館にし、6~15階に賃貸住宅80世帯を作る計画をたてたが、住民の反発で設計作業が中断された。 江西区は「江西区にはすでに賃貸住宅が多い。 地域スラム化が憂慮される」として反対した。 地域出身の国会議員と市会議員も手をこまねいている。

 同じ加陽洞(カヤンドン)の市有地駐車場に協同組合型賃貸住宅を作るという計画も「公立幼稚園を作ってほしい」という住民の要求にぶつかった。 陽川区(ヤンチョング)新亭(シンジョン)洞、道峰区(トボング)倉洞(チャンドン)、松坡区(ソンパグ)巨余洞(コヨドン)に建設しようとしていた長期貸し切り住宅供給計画も住民の反対に速度を出せずにいる。

 住民たちの拒否感には経験的な理由がある。 大規模賃貸住宅に低所得層が集まり、否定的な認識が生まれて忌避現象を呼び、住居価格および地価を下落させるということだ。 民主社会のための弁護士会のソ・チェラン弁護士は「賃貸住宅住民の自活とリハビリを後押しして生活の質を高めなければならない。 村共同体事業を賃貸住宅中心に行なうのも一つの方法だ」と話した。

 ピョン・チャンフム世宗(セジョン)大教授(行政学)は、住民や自治区との事前協議を強調した。 立地選定の時から住民と協議し、自治区にも賃貸住宅建設にともなう福祉予算負担加重を減らす装置が必要だということだ。 ビョン教授は「賃貸住宅規模が小さいほど地域住民と共存する可能性が高くなる」として大規模賃貸住宅建設に反対した。

 ソウル市が推進する村共同体事業と関連してキム・ウニ都市連帯事務局長は「賃貸住宅の住民と周辺住民の関係を復元することに行政の力点を置かなければならない」と力を込めて話した。

チョン・テウ記者

https://www.hani.co.kr/arti/society/area/591093.html 韓国語原文入力:2013/06/10 08:37
訳A.K(4535字)

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