本文に移動

米国 潜水艦専門家‘天安(チョナン)艦 魚雷襲撃 確率 0.0000001%’

原文入力:2012/06/22 16:52(5807字)

←引き揚げられた天安艦艦首を平沢(ピョンテク)に運ぶため4月24日バージ船に載せている。 その翌日、合同調査団は天安艦の沈没原因が‘非接触式外部爆発’と発表した。 <ハンギョレ>資料写真

[土曜版] 在米科学者キム・グァンソプ、アン・スミョン氏の真実探し
化学工学学会では講演取り消し…米海軍は情報提供拒否

 米国パデュー大化学工学博士でアルミニウム触媒・腐食および爆薬の専門家であるキム・グァンソプ博士(72)は去る4月25~27日、済州(チェジュ)、西帰浦(ソギポ)で開かれた韓国化学工学会総会分科学術講演に招請された。 しかし学会は講演の直前になって‘政治的影響’を理由に突然キム博士に講演が取り消しになったと通知した。 キム博士が準備した論文の題名は‘天安艦沈没事件-吸着物と1番文字に基づく魚雷説を検証するためのバブルの温度計算’だった。

 また、電気・コンピュータ工学博士で魚雷など誘導兵器と対潜水艦戦の専門家であるアン・スミョン博士(69)は昨年6月から情報公開法(FOIA)により米海軍側に天安艦関連資料の公開を要請した。 しかし、米海軍は今月初めまで資料全体の中で我が民軍合同調査団(合調団)に参加した米海軍トーマス エクルス提督の報告書と多国籍情報支援分科報告書だけを渡した。 米海軍は去る12日、アン博士が要求した天安艦関連資料全体と関連して「存在の有無に関する確認も不可能だ」と通知してきた。 天安艦事件の真実に迫るためのキム・グァンソプ、アン・スミョン両博士の努力がそれぞれ韓国と米国で大きな暗礁にぶつかったわけだ。

 キム・グァンソプ博士は<ハンギョレ>との電話およびEメール インタビューを通じて「当時、講演発表文で天安艦合調団のアルミニウム吸着物質分析が誤っているという点と、1番魚雷の引揚場所が‘1番魚雷説’を証明できないという事実を指摘したところ、発表が取り消されたようだ」と話した。 彼は化学工学学会側から‘韓国の特殊な実情のために’講演を取り消さないわけにはいかなかったという謝罪を受けたと伝えた。 キム博士が受けた化学工学学会からのEメールを見れば 「化学工学学会は政治的に中立を守らねばならず、(キム博士の)論文は今年2度ある選挙に影響を及ぼす恐れがある」と書かれていた。 1962年に創立した韓国化学工学学会は会員5700人が活動する工学分野最大の学会に挙げられる。

 キム博士は「国防部側にもあらかじめ論文を送り、証明できない1番魚雷説を修正するよう提案したが、その時に化学工学学会での講演予定事実も知らせた」という事実も明らかにした。 しかし国防部はキム博士のこの修正提案を受け入れず、化学工学学会はキム博士の講演を取り消した。

 アン博士が米海軍に天安艦資料を公式要請したのは昨年6月だった。 米情報公開法によれば請願人が政府文書の公開を要請すれば、該当部署が20日以内に可能有無を通知することとされているが、アン博士は1年が過ぎた今月初めに資料の中の一部を渡されただけだ。 アン博士は「米政府は私が要求する文書を公開しないなら、それにともなう理由も明らかにしなければならない」と指摘した。

 両在米元老科学者の主張は韓-米両国軍が北韓を天安艦沈没事件の‘犯人’と名指しした以上、それを立証する責任もまた両国軍すなわち合調団にあるということだ。 合調団の調査結果には‘主張’だけがあり‘立証’はないというのが二人の共通した批判だ。

カン・テホ記者 kankan1@hani.co.kr

←ユン・トギョン民軍合同調査団長が20日午前、国防部大会議室で天安艦調査結果を発表している。 シン・ソヨン記者 viator@hani.co.kr



誘導兵器専門家アン・スミョン博士 "北韓犯行を立証する圧倒的証拠はない"

魚雷または機雷の可能性に関しエクルス提督が
下した結論は合調団報告書と微妙な温度差
魚雷は音響探知で標的を識別するが海中では
かなり難しく、島の周辺では騒音が多く一層不可能

 アン・スミョン博士は天安艦事件でヒラリー・クリントン米国国務長官が話した‘北韓の犯行を立証する圧倒的証拠’は存在しないと主張している。 アン博士は対潜水艦戦に関する限り国際的に公認された専門家だ。 彼が設立した会社アンテックは米国防総省との契約により1級秘密に分類された対潜水艦戦に関する1千件余りの技術的論文・報告書を作成してきた。 彼はこのような専門性に基き合調団の結論に疑問を提起した。 天安艦合同調査団は北韓の潜水艇によって天安艦が沈没したと結論を下したが、それがどうして可能だったのかに関する論証は一つもないということだ。

 彼はこのような疑問と判断を<北韓潜水艦が韓国天安艦を沈没させたのか:歴史的・非科学的・非良心的>という報告書(小冊子および電子ブック(eブック)形態で2月に出版。 www.ahnpub.comで購入可能)にまとめた。 そしてこれとは別に1年余り前の2011年6月から弁護士を通じて米情報公開法を根拠に米海軍の関連資料公開を要求してきた。

海上条件上、機雷が駄目なら魚雷も駄目

 アン博士が昨年6月、米海軍当局に公開を要請した文書は天安艦民軍合同調査団に参加したトーマス エクルス提督が率いた米国代表団の活動をほとんど網羅している。 これに対して米海軍の情報公開担当部署は去る5月初め、初めてエクルス提督の報告書を、そして6月11日にはまた別の多国籍情報支援チームの報告書だけを送ってきた。また、アン博士は2011年5月以来、エクルス提督の補佐官を通じて面談またはEメール意見交換を要請した。 しかしエクルス側はあれこれ理由を挙げて応じていない。 米軍当局のこのような非協調的な態度は何か‘困った真実’があるためだとの疑問を生まざるをえない。

 初めて公開されたこのエクルス報告書に対して、アン博士が提起する疑問は 「エクルス提督が下した結論(要約)が天安艦合調団の中間報告書(最終報告書も同一)の結論と異なる」ということだ。 合調団報告書は「天安艦は北韓の潜水艦が撃ったCHT-02Dという魚雷によって沈没した」と断定した。 これに反し、エクルスの報告書は 「魚雷が有力(most likely a torpedo)」。「可能性としては非常に低いが繋留機雷(Possibly,but very unlikely,a moored mine)」と明らかにしているということだ。 アン博士によれば「エクルスは自身が署名した合調団報告書とは異なり、ここでは機雷の可能性を排除していない」と話した。

 パワーポイント14スライド分量のこのエクルス報告書は、2010年5月27日に作成(天安艦中間報告書が出てきて三日後)したものだ。 報告書はエクルス提督の慎重で客観的な姿勢を始終一貫示している。 優先報告書の題名を‘Loss of ROKS CHEONAN’(韓国、天安の損失)とし、Sinking(沈没)または襲撃(Attacked),Incident(事件)という表現は使っていない。 またCHT-02D魚雷に言及しながらも、北韓魚雷とは名指しせず‘知らされた(known)’と表現しており、沈没地点もまた特定せずに‘ペクリョン島近隣’とだけ明らかにしている。 回収された魚雷の残骸に対する情報評価および分析と関連した部分も他の部分が英語で作成されたのに反して、あえてハングルで書かれた韓国側資料の内容をそのまま転載し説明している。 しかし(注釈で)報告書(brief)はペクリョン島近隣で喪失された天安艦の原因を糾明するのに使われた基礎的な方法を説明するところにあるという点を明らかにしている。 そうした点でこの報告書が天安艦が北韓CHT-02D魚雷により沈没したという結論をあえて入れたり強調する必要はないわけだ。 その上、この報告書が合調団の結論を否定するものではない。

 それでもアン博士がエクルス提督が機雷の可能性を排除していないことに意味があるのはそれなりの理由がある。 まず合調団最終報告書(79ページ)を見れば 「繋留機雷運用時、3~5ノット(Kts)の速い流速、4m以上の潮の干満差、47mの水深などは大きな障害要素として作用し、また、事件当日天安艦が不規則航路を維持しながら事件発生以前まで同一地点を10回以上航海したのに異常がなかった」とされている。また、報告書(191ページ)はペクリョン島海域の場合、証拠物を探すのが難しかったとして「霧が多く視界が100~2,000yds(91m~1,828m)程度で、平均3~5ktsの強い潮流が流れ、水深が40~50mと多くの制限があった」と明らかにした。 このような状況で繋留機雷ではないということだ。 しかしアン博士によればペクリョン島近隣の海上条件から見て機雷でないとすればそれは魚雷にも該当するということだ。 また、逆に魚雷だと言えばなぜ機雷ではないのかという問題を提起することだ。

 実際、ユン・トギョン合同調査団長は2010年5月26日<朝鮮日報>とのインタビューで「魚雷の残骸を発見できなかったとすれば発表内容は違っていただろうか」と尋ねると「機雷の可能性を完ぺきには排除できなかっただろう」と話した。 「最新機雷は魚雷とほとんど同じ機能をするため」ということだ。 しかしユン団長は機雷の可能性を排除した理由を‘そのような状況で(北韓)軍人が機雷は使わない’と話した。

 しかしまた別の機雷が存在すると言うなら話は違う。 合調団の報告書(88ページ)は77年国防科学研究所と第一精密工業などが陸上操縦機雷(MK-6爆雷)を設置し、その後に漁民の要求で2008年に○○発を回収したとだけ明らかにしている。 まだ機雷が残っていることを認めたのだ。 その上、報告書(87ページ)には「陸上操縦機雷を設置した第一精密工業の技術者は機雷爆発の可能性があると主張したが、国防科学研究所爆発物専門家らがそのような可能性は低いと判断して排除した」とされている。 しかし、アン博士は「まだ残っている2次大戦時の機雷も爆発する可能性がある」と話した。

 もちろん合調団は報告書でMK-6爆雷は爆発しても爆薬量が小さく(136㎏) 47mの深い水深では船体を切断できるだけの爆発力がないと明らかにしている。 しかしロシア側専門家たちは天安艦下部の同軸シャフトに網が引っかかっているように天安艦が網と共にこの海底にあった機雷を引き上げた可能性を提起した。 魚雷が天安艦の下部6~9mで爆発するように天安艦にとても近接して機雷が爆発した可能性があるということだ。

←天安艦下部の同軸シャフトに網が引っかかっている。

魚雷の攻撃成功率? 現実とは距離がある

 アン博士は 「人間には五感があるが、魚雷は音波と磁場という2つのセンサーのみに依存する」と話す。 しかし海中という条件では音響特性上、探知がかなり難しい。 音波は水中ではエネルギーを奪われる。 そのために伝達距離が短くなる。 また、水中の温度差により音波を下へ屈折させたり、水面で反射させる。 海中には各種船舶の音、波や潮流の音、鯨や海老など水中生物の音が混在する。 近隣に島がある場合、海流の流れはより一層複雑だ。 ペクリョン島のような西海近海の条件では探知音波 対 騒音(Signal to Noise ratio)の差が分からないので音響による水中探知や追跡はほとんど(数学的に)不可能だということだ。 天安艦事件当時、近隣の束草(ソクチョ)艦はレーダー上の鳥の群れを北韓戦闘機と誤認して発射した。 水中では標的を識別する確率がそれより低くならざるをえない。

 アン博士はよく2次大戦当時、ドイツのUボートが英国海峡で連合軍側商船を攻撃するのを映画で多く見たので魚雷の攻撃成功率が高いと勘違いしがちだが現実とは距離があると話した。

 合調団は天安艦が真っ二つに切断されたのは天安艦の下方3~6m(水深6~9m),ガスタービン室下(フレーム75),天安艦中央(竜骨)付近約3m地点で魚雷がバブルジェット爆発をしたため可能だったと分析した。 天安艦の船幅(横)は10m、魚雷の速度を30ノット(kts)と見れば毎秒15.3mだ。 魚雷が天安艦船体に留まれる時間は約0.6秒であるわけだ。 その瞬間に合調団が把握したバブル地点に行き爆発しなければならないということだ。 西海(ソヘ)海という現実の条件と潜水艇の攻撃能力、魚雷が目標物を探知して行く音響信号処理の観点から見れば、その確率は小数点がいくらつこうが0.0000001%水準であり、ほとんどゼロに近いと見なければならないということだ。 その上、魚雷の音響探知方式は手動式なので音響探知速度が遅い。 これに伴い潜水艇が魚雷を発射する時は敵艦の速度と方向、魚雷の速度などを正確に計算して発射しなければならない。

カン・テホ記者 kankan1@hani.co.kr

←アン・スミョン博士

アン・スミョン(69)。ソウル大電気科. ジョージア テック修士. バークレー大学で電気・コンピュータ工学博士. 現在、米国サンディエゴ在住. 経歴30年の対潜水艦戦専門家。 ロッキードとゼネラル ダイナミックスなど米軍需産業体で巡航ミサイルなど誘導兵器の開発に参加し、1984年米国防総省秘密取扱許可を受けたアンテック(www.ahntech.com)を設立し、対潜水艦戦プロジェクト関連1千件余りの技術報告書を作成. 潜水艦と魚雷など誘導兵器分野の最高専門家. 韓国人としては唯一米電機電子学会と航空宇宙学会2団体の正会員に選出されている。

原文: https://www.hani.co.kr/arti/politics/defense/539133.html 訳J.S