英国ロンドンの東部、テムズ川沿いを辿っていくと、グリニッジ天文台が出てくる。グリニッジ天文台は、世界標準時と経度の基準となる本初子午線がある場所であるため、多くの観光客が訪れる。天文台の下にある公園へ降りると海洋博物館があり、かつて英国を「太陽の沈まない帝国」として君臨させた歴史を振り返ることができる。
海洋博物館1階には「商人たち:東インド会社とアジア」という常設展示室があり、インドを支配した英国帝国主義の先鋒である東インド会社が紹介されている。現在の世界経済を左右する半導体よりも注目を集めていた「香辛料」を手に入れるため、英国王室から独占的な貿易権を認められ、1600年に設立された株式会社だ。彼らはアフリカを回りインド洋に進出したが、オランダ東インド会社との競争で後れを取ったことを受け、インドに目を向けた。フランス勢力を追い出した後、東インド会社はヨーロッパの軍事技術、または賄賂と策略を用いて、当時1億5000万人余りが暮らしていたインド大陸を占領した。これらすべては、ロンドンのある建物に集まった取締役たちによって決定された。
香辛料や織物は、今や半導体に取って代わられた。人工知能(AI)開発競争が激化した2020年代、AI開発企業や半導体企業の株価は天井知らずに高騰した。AIを稼働させるデータセンターに搭載されるチップ(GPU)を製造するエヌディビア(NVIDIA)は、世界時価総額1位の企業となった。エヌビディアのジェンスン・フアン代表は、黒いレザージャケットがトレードマークの「ロックスター」となった。
韓国企業もこの流れに乗っている。エヌビディアにHBMを納入するSKハイニックスと、メモリ半導体業界1位のサムスン電子の株価も急騰した。SKグループのチェ・テウォン会長とサムスン電子のイ・ジェヨン会長に対する世間の反応も熱い。韓国ギャラップが2024年に実施した「韓国人が好きな企業人」の調査結果によると、2位はイ・ジェヨン(21%)会長、7位はチェ・テウォン(2%)会長だった。2019年の結果と比べると、それぞれ15ポイント、1ポイント上昇しており、ジェンスン・フアンと「親友」になった現在の順位はさらに高いだろう。
サムスン電子(2655兆ウォン)、SKハイニックス(2100兆ウォン)による数千兆ウォン規模の投資計画は、政府や政治家を魅了した。企業は競争を口実に、水や電気、道路を早急に供給するよう要求している。重複上場など、無理な手段も厭わない勢いだ。政府は企業の顔色をうかがいつつ、労働保護規制さえも撤廃する構えだ。計画された投資を中断させることは、危険な発想とみなされる。投資地域の水や電気の状況はどうか、その地域の人々の生活にどのような影響を与えるかについては、深く考えようとしない。半導体工場の建設が中核的な産業政策として定着するにつれ、企業人はまるで「無制限の支援特許」まで与えられたかのようだ。彼らがすでに恩赦を受けているという事実は、とっくに忘れ去られている。
バイデン前米大統領は2025年に行った退任演説で、民主主義が「技術・産業複合体」という新たな脅威に直面していると警告した。バイデン氏は「巨大テクノロジー企業の利益のために、民主主義の基盤や国民の権利を侵害してはならない」と強調した。最近浮上したAI開発ペース調整論は、それゆえに一層虚しい。社会全体の省察ではなく、もっぱら個々の企業の経営陣にのみペース調整の議論が委ねられているからだ。
ロンドンの路地裏にある建物の奥深くの部屋を思い浮かべたのは、『略奪の帝国 東インド会社の興亡』の著者である歴史学者ウィリアム・デリンプル氏がニューヨーク・タイムズ紙に寄稿したコラムを読んだためだった。デリンプル氏は、英国の東インド会社の事例をもとに、企業が一定以上に巨大化すると国家がその企業のために法律を作ることになり、請求書が届いた際、その費用を株主ではなく、結局は国家が負担することになると指摘した。
東インド会社の取締役たちは、結局、米国ではボストン茶会事件を、中国ではアヘン戦争の原因を作り出した。博物館の片隅に、東インド会社が残したものは次のように記されている。「多国籍企業をいかに奨励し、統制するかという問題は、今日に至るまで政府や個人に問いを投げかけている」