本文に移動

民主主義の土台を揺さぶる「ジェンダー投票格差」【寄稿】

ハンネス・モスラー(カン・ミノ)|デュースブルク・エッセン大学(ドイツ)政治学科教授
韓国で地方選挙が実施された先月3日、ソウル市冠岳区のソウル大学体育館に設けられた開票所で開票事務員が事前投票の投票箱を開けている/聯合ニュース

 最近、「ドイツのための選択肢」(AfD)の党大会で、アリス・ワイデル党首が再任された。連邦憲法擁護庁が「右翼過激派団体」に指定したAfDは、伝統的な家族観や性役割観から各種の人種差別的政策に至るまでを綱領に掲げており、支持層の10人中6人が男性だ。この政党の頂点に、スリランカ生まれのスイス人女性パートナーとともに2人の男児を養子に迎えて育てる女性指導者が立っている。一見すると矛盾しているようだが、これは本質を覆い隠す巧妙な見せかけに近い。女性指導者の顔をした過激な男性アイデンティティ政治。これこそが現在、ドイツをはじめ欧州全域に広がっている現象の縮図だ。

 この現状の背景には、はるかに大きな構造的な流れ、いわゆる「ジェンダー投票格差」がある。ドイツ政治史をみると、この格差の方向はかつてとは正反対になっている。1950~70年代のアデナウアー時代は、教会や伝統的な家族制度を重んじる女性がキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)の安定的な支持基盤であり、左派政党は男性の支持を得ており、これが伝統的なジェンダー格差だった。1980~90年代の女性の社会進出と教育レベルの向上によって、両党間の支持格差は一時的に縮小したが、遅くとも2020年には流れは完全に逆転した。いまでは、女性は特に左派政党を中心とする進歩陣営に、男性はAfDを軸に極右スペクトルに結集するという、現代的なジェンダー格差が形成されている。

 2021年の総選挙では、18~24歳の若年層におけるジェンダー投票格差は12~14ポイント程度にとどまり、比較的小さかったが、わずか4年で大幅に拡大した。昨年の総選挙では、中道・左派陣営(社会民主党(SPD)・緑の党・左派党)に対する女性の支持率は男性より21.1ポイント高く、保守・右派陣営(CDU・CSU・自由民主党(FDP)・AfD)に対する支持率は男性のほうが女性より21.4ポイント高かったことで、性別による政治的二極化がみられた。

 この亀裂が民主主義にもたらす脅威はあなどれない。性別が世界観を分ける最も強力な予測変数の一つになる瞬間、妥協という民主主義の基本的な前提が崩れるからだ。政治的な意見の相違が政策をめぐる論争の域を越え、和解が不可能なアイデンティティの対立に飛び火し、男女の青年が社会問題を論じるための共通の言葉を失えば、社会的合意の土台そのものが崩れてしまう。さらに懸念されるのは、関連研究がこれを単なる「若き日の逸脱」とはみていないことだ。格差が加齢とともに薄れることなく、世代自体に刻み込まれたまま固定化していけば、亀裂は若年層を越えて中高年層まで蚕食し、有権者全体の政治的構図を二分する構造的な定数として固定化し、その規模も手に負えなくなるほど拡大する。

 最近では韓国も、世界で最も極端なかたちで、現代的なジェンダー投票格差があらわれる国になった。今年の地方選挙では、20代以下における進歩陣営に対する支持率は、女性が男性より33.0ポイント高く、反対に保守陣営に対する支持率は、男性が女性より30.0ポイント高いという圧倒的な格差が現れた。この亀裂は30代まで変わることなく続いている。

 多党制のドイツとは異なり、二大政党間の対決が中心の韓国では、二つの特徴がみられる。一つは格差がドイツより10ポイントほど大きいという点だ。もう一つは、急進左派から極右まで幅広い政党スペクトルを有するドイツとは異なり、韓国では男性青年層にとって投票先の選択肢がなく、ほぼ全面的に一つの政党に偏るという点だ。これは結果的に、最近急速に急進化し一部には極右的な振る舞いさえみられる最大野党「国民の力」を温存し、むしろ勢力を拡大しているという逆説につながっている。

 ドイツと韓国、さらには世界各地でみられるジェンダー投票格差が投げかける真の問いは、若者票の行方ではない。性別によって分断された有権者が互いを説得するための言葉さえ失った社会において、次世代が受け継ぐ民主主義は、はたして何によって支えられるのだろうか。

//ハンギョレ新聞社

ハンネス・モスラー(カン・ミノ)|デュースブルク・エッセン大学(ドイツ)政治学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1267897.html韓国語原文入力:2026-07-12 19:39
訳M.S

関連記事