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「内乱終息」の本質は腐敗したエリートカルテルの打破【寄稿】

登録:2025-10-23 01:58 修正:2025-10-25 07:14
シン・ジヌク|中央大学社会学科教授
尹錫悦即時退陣・社会大改革非常行動(非常行動)が今年4月5日午後、ソウル景福宮の東十字閣で開催した「勝利の日汎市民大行進」で、参加者たちが民主主義勝利を叫んでいる=キム・ギョンホ先任記者//ハンギョレ新聞社

 10月18日に米国では、トランプ政権に抗議して「王はいらない」を意味する「ノー・キングス」デモが2600あまりの都市で起き、700万人を超える市民が民主主義の回復を求めて行進した。しかしトランプ政権は市民を共産主義者、テロリスト、暴力犯罪者、米国を憎悪する反国家勢力と決めつけ、極度の敵意を示した。

 今、米国の状況は深刻にみえる。単にドナルド・トランプという一人の独裁者が問題なのではなく、白人至上主義で一丸となった反民主的、反人権的な極右勢力が米国の政治、軍事、宗教、経済権力に対する統制権を掌握しているからだ。しかも、トランプの支持率は近ごろ大きく下がっているものの、階級、人種、ジェンダーなどの様々な課題で社会が分裂しており、民主勢力は圧倒的多数になれずにいる。その結果、「独裁対市民」という構図が形成されず、「独裁か内戦か」という絶望的な選択肢を前にして不安が広がっている。

 そのため、今回の「ノー・キングス」デモのような市民の行動が果たして民主主義を守り抜けるのか、懐疑的な見方が強い。そのような中、米国の最も影響力のあるニュースキャスターの一人であるレイチェル・マドーは、デモ前日の放送でこのように語った。「平和的抵抗に効果があるのか、大きな変化が起こせるのか疑っている人は、韓国人に聞いてみてください。彼らは市民の非暴力デモで戒厳を終わらせ、それを試みた大統領を弾劾しました」

 実際に、近ごろは米国の政治家、知識人、ジャーナリストが文章や放送で「韓国を見ろ」と発言するのに接することは珍しくない。独裁の阻止に成功した市民の行動の例を想起することは、米国市民に勇気と希望を与えるだろう。世界の多くの社会科学者は、韓国市民の勇気ある成熟した行動が民主主義を守る強い力を発揮したことに大きな意味を見出している。韓国市民の「光の革命」は、民主主義が脅かされている世界の多くの場所で光となっている。

 しかし国内に目を向けると、韓国に存在するのは民主的市民の結集力だけではない。また、どの先進国にも見られないほどの非民主的な国家エリートたちが、この国には存在する。極右がはびこる時代だといわれるが、政府と軍部の指導者たちが自国民を物のように「収拾」して監禁、殺りくする計画を立てる国はどこにもない。数十年間にわたって蓄積されてきた民主的市民の力と、克服されていない非民主的な国家エリートが共存するこの極端な二重性こそ、韓国民主主義のぜい弱さと回復力を同時に説明する構造的基礎だ。

 このような対照は、先の憲政危機局面であらわになった。戒厳直後に5万人を超える青少年が実名で民主主義と人権を守るための時局宣言を発表し、また数万人の労働者、数万人の大学生、そして研究者、聖職者、ジャーナリストが自らの名前をさらして時局宣言を発表した。尹錫悦(ユン・ソクヨル)が戻ってきて再び戒厳を宣布するかもしれないという極度の不安の中で、多くの人が危険を冒して民主主義を守る闘争の先頭に立った。

 しかし長官は誰一人として、大統領に激怒され処罰される危険を冒して戒厳令は絶対にだめだとは言わなかった。判事も誰一人として、憲政と法治を守るための公的行為に手をつけなかった。将軍も誰一人として、戒厳の実行を阻むために軍人の名誉をかけて立ち上がることはなかった。大韓民国の国家エリートたちのこのようなひきょうさ、非民主性、日和見主義、公的責任感の不在こそ、韓国民主主義の最大の弱点だ。

 弾劾と大統領選挙を経て、韓国社会は少しずつ安定を取り戻しつつある。しかし政府、軍、検察、裁判所の高位にある者たちが先の内乱にどれほど広範に関与し、どれほど安易に対処したかが明らかになり続けているのを見ていると、韓国民主主義が依然として危険な状態にあることを改めて自覚することになる。戒厳の衝撃が消え去っていない今はまだ暴力的な力に対する社会のけん制力が働いているが、これから先、国家が再び民主主義と市民を攻撃する武器へと急変する可能性はいくらでもあるのだ。

 そのような脈絡でみると、「内乱終息」の目的や意味について改めて考えさせられる。よく「厳罰か包摂か」、「改革か協同統治か」が問われるが、それらは誤った選択肢だ。重要なのは、あらゆる行為の目的を私たちの政治共同体の根本価値に照らして規定することだ。その根本価値とは選挙、法治、憲法、普遍的人権を含む広義の民主主義のことだ。民主主義を強固にして二度と独裁、クーデター、軍の政治介入、国家の私有化、人権破壊の凶悪な計画を不可能にすることこそ、内乱の終息だ。

 現在進行中の様々な捜査、聴聞会、裁判、社会的討論の意義は、単なる内乱に関与した者に相応の罰を受けさせるという応報的な正義の具現化にとどまらない。さらに、それは民主主義と人権、憲法が韓国社会の神聖な不可侵の約束であり、それを攻撃したりその攻撃に同調したりすることは絶対に許されないということを明確にする過程でなければならない。またそれは、国家エリートがどのように内乱を準備し、実行したのかを究明することで、国家の民主化のための代案を具体化することを可能にする過程でなければならない。

 クーデターという途方もない事件は、尹錫悦という1人の人間によっては起きえない。キム・ヨンヒョン前国防部長官は司令官を指揮して軍を動かした。ハン・ドクス前首相とイ・サンミン前行政安全部長官は和気あいあいと戒厳会議をしていた。パク・ソンジェ前法務部長官は戒厳が違法であることに知らぬふりをした。チ・グィヨン部長判事は、たった1人に対してのみ拘束日数を時間で計算して尹錫悦の拘束を取り消した。シム・ウジョン前検察総長は意外にも即時抗告を放棄して尹錫悦を釈放した。チョ・ヒデ最高裁長官は大統領選挙を前にして異例の速さで李在明(イ・ジェミョン)裁判を破棄差し戻しした。

 なんと美しいオーケストラだろうか。各自の成功を夢見たこれら多くの演奏者の協業がなかったら、亡国の鎮魂曲が鳴り響くことはなかっただろう。法規と慣行、例外と偶然が複雑に語られるが、問題の本質は、自らの特権と安寧のために憲政じゅうりん、人権じゅうりんに同調した、腐敗したエリートたちのカルテルだ。理念や党派を問わず、この構造を打破し、新たな枠組みを作ることこそ、民主主義の回復への道である。

//ハンギョレ新聞社

シン・ジヌク|中央大学社会学科教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1224668.html韓国語原文入力:2025-10-21 19:20
訳D.K

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