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チョコパイ裁判と韓国の最高裁長官、「司法への鬱憤」の時代【コラム】

登録:2025-09-26 06:39 修正:2025-09-27 07:19
チョ・ヒデ最高裁長官が22日、ソウル中区新羅ホテルで開かれた「2025世宗国際コンファレンス」開会式に出席している/聯合ニュース

 フランスの歴史には、司法に対する怒りと不信感がその根底に流れている。大革命の時、民衆の怒りが王より先に向かったのは、アンシアンレジームの象徴である裁判官たちだった。その後、皇帝の即位と王政復古、共和政、再び皇帝統治が進む混乱期の末に成立した第3共和国(1870年)でも、司法官に対する敵愾心が表出した。旧体制を擁護し、共和主義を揺さぶろうとする司法官たちを懲らしめるために、裁判官懲戒機構である「最高裁判官会議」が作られた。この機構は現在まで形を変えて維持され、裁判官人事と懲戒権限を行使している。

 司法府の行動は韓国でも変わらなかった。朴正煕(パク・チョンヒ)独裁時代、民主化運動を弾圧しようと捏造された人革党再建委事件で、最高裁判所は1975年4月8日、8人の死刑を確定し、彼らは翌日未明に処刑された。「司法殺人」だった。ところが、司法府がいくら独裁権力の手下となり、「有銭無罪無銭有罪」の不都合な判決を繰り返しても、多くの市民は裁判官に対する敬意と欽慕を捨てなかった。驚くべき寛容さだった。それに対する司法府の応答が「さらに容赦ない裏切り」だったという点で、不憫ともいえる忍耐だった。

 今話題になっている「チョコパイ裁判」は、市民の暮らしに対する司法の態度を改めて示している。明け方勤務中に事務室の冷蔵庫から1050ウォン(約111円)相当のチョコパイとカスタードを取り出して食べたとして、窃盗犯という烙印を押すのが法の正道なのか。2011年には、バス料金800ウォンを横領(!)したとして、運転手を解雇した会社側に軍配を上げた判決があった。解雇されたバス運転手は日雇い労働で5人家族を養わなければならなかった。会社側の弁護士が裁判長の高校後輩という事実まで加われば、これ以上残忍な裏切りはない。この判決を下したオ・ソクチュン判事は今や最高裁判事だ。そして2025年5月1日、最高裁全員合議体は李在明(イ・ジェミョン)大統領の候補資格を剥奪できる「超高速判決」を強行することで、「大統領選挙の結果を判事らが決める」と宣言した。チ・グィヨン判事は、市民の血を犠牲にして独裁者になろうとした内乱首謀者を釈放した。そこに動員された法論理は、もはや法律に対する信頼をなくすものだった。日常の小さな、しかし個人にとって致命的な裁判から、憲法秩序を揺るがす巨大な裁判に至るまで、国民を見下す司法府の獰猛な素顔が明らかになった。

 今や市民たちは堪忍袋の緒を緩めている。「チョ・ヒデ最高裁長官の辞任」51.4%(メディアトマト)、「辞任・弾劾」45.4%(韓国社会世論研究所)という世論調査の数値は、司法府に向かって沸き立つ鬱憤をすべてを表わすことはできない。

 この鬱憤の正体は何だろうか。司法府が自分の正義と権利を守るどころか、むしろ踏みにじって略奪するのに、自分にできることが何もないのは喪失感だろう。大統領であれ国会議員であれ、市民の手で入れ替えられるのに、少なくとも一票は与えられるのに、なぜ裁判官だけは懲らしめる何の方法もないのかという制度的絶望だろう。

 同じ鬱憤を感じていたはずのフランス市民たちは、最高司法官会議を開いた。名前と違って、15人の構成員のうち裁判官は6人だけで(彼らも裁判官が投票で選ぶ)残りは外部の人物で占められる。司法の独立が彼らだけの「同業主義」に変質することを防ぐためだ。また、外部人物のうち6人は大統領と議会によって指名される。裁判官の人事と懲戒に民主的意思が反映される道を作ったのだ。2008年には憲法改正で判事に対する懲戒を一般市民も請求できるようにした。フランスだけではない。ドイツは行政府と立法府で構成される裁判官選出委員会が裁判官任用権を持つ。英国は2006年、独立した裁判官人事委員会を創設した。委員長は非法曹人であり、15人の委員のうち5人も一般市民から選ばれる。現職判事は6人だけが参加する。米国は22州で判事を選挙で選ぶ。残りの州でも政府と議会が任命権を持つ。

 裁判は外部の干渉なしに担当裁判官だけに任せるというのが司法の独立だ。その代わり、裁判官がこのような全権を委任されるほどの人格と素養を備えているのか、どの裁判官を重用するのか判断することまで裁判官に任せることはできないというのが、先に見た制度に染み込んでいる民主主義の原理だ。裁判官に主権者を尊重させるのが狙いだ。

 韓国のように最高裁判所長官1人が司法府を掌握し、裁判官はその顔色だけをうかがう構造では、むしろ個別判事の独立性が崩れる。牽制を受けない司法府は、主権者が消えた裁判官たちの王国、チョ・ヒデの王国以上でも以下でもない。この異常を正さない限り、司法の独立の本領に進むことはできない。

//ハンギョレ新聞社
パク・ヨンヒョン論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1220696.html韓国語原文入力:2025-09-25 18:38
訳H.J

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