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ソウル大学の「マルクス経済学」講義の廃止が意味するもの【寄稿】

登録:2025-05-13 23:56 修正:2025-05-14 08:53
ユン・テウ|北海道大学博士課程・日本学術振興会特別研究員
ソウル大学=資料写真//ハンギョレ新聞社

 ソウル大学経済学部がマルクス経済学の講義を今後開設しないことを決め、波紋を広げている。経済学部の学生たちは、資本主義経済体制を理解するにはマルクス経済学は欠かせないとして、講義の開設を要求している。2008年にキム・スヘン教授が定年退職して以降、マルクス経済学の講義を担当する専任教員が採用されず、講師がその講義を担ってきたというから、今回の決定は予見されたものだったのかもしれない。

 今回浮き彫りになった問題は、単なる特定の講義の問題ではない。ソウル大学の長年の奇異な構造と文化がさらに固定化していく過程の一段階だ。ソウル大学多様性委員会が発行した報告書によると、2023年10月の時点で2215人いるソウル大学の韓国人専任教員の中で、ソウル大学の学部出身者は78.4%(1737人)にのぼる。ソウル大学経済学部の場合は、ウェブサイトにプロフィールを公開している36人の教員のうち、32人が米国の大学で博士号を取得しており、出身学部を公開している21人の教員のうち18人(85.7%)がソウル大の出身者だ。外国人教員は2人で、いずれも白人だ。ソウル大学経済学部の教授陣は、ソウル大学の学部を卒業後、米国で博士号を取得した人で構成されていると言っても過言ではない。世界には数多くの国や大学があり、国内にも多くの大学があることを考えれば、まさに奇異だと言えるだろう。

 このようなソウル大学の教員の奇異な人的構成については、以前から「同種交配」、「純血主義」だとの批判があった。教員公務員任用令第4条3項は、大学教員の新規採用の際、特定大学の出身者(学士)が個別募集単位の採用人員の3分の2を超過してはならないと規定している。にもかかわらず、ソウル大学は社会の要求に沿って変化してはいない。

 ソウル大学経済学部の教授たちが立派な人材だったとしても、問題は多様性だ。教授とはいえ、生涯教育の観点からみると、彼らも依然として成長中の研究者だ。「ソウル大学学士-米国博士」という履歴は、特定の経済学思潮の中で教育を受けたという疑いをぬぐい去るのが難しい。キム・スヘン教授が退任した2008年以降だけをみても、20年以上ソウル大学経済学部という画一的な研究環境の中で、かなりの数の教授が多様性の刺激を受けることなく学問研究をしてきたのかもしれない。そのような環境の中で学生たちの無限の可能性が花開くかは疑問だ。今回の決定に対し問題提起の声を上げているのは、ソウル大学の構成員としては新参者にあたる人々(学生)であるということは注目すべきだ。

 ソウル大学は、韓国の100以上の私立大学に投入される予算に匹敵する予算が投資されることで、韓国を代表する大学へと成長した。全国民と韓国社会の構成員が納めた税金のかなりの部分がソウル大学に投入された結果だ。その投資は、カルテルを構成して特定の個人と集団の栄達と利益を追求せよというものではなく、よりよい社会を作って貢献しろという願いだ 。ソウル大学経済学部は、学部開設を1910年代だとみなすと110年あまりの歴史を有しており、解放後、ソウル大学に編入されてからも80年がたっている。これまでに莫大な金額が投資されてきたにもかかわらず、ノーベル賞受賞者を1人も輩出していないという事実は、主流経済学の視点からみれば「金食い虫」、「非効率的要素」なのかもしれない。

 韓国社会は画一性を要求する軍事独裁政権を倒し、「多元社会」となった。学校の教科書はそう教えているが、韓国社会はソウル大学をあの時代に置き去りにしてきてしまったようだ。ソウル大学は、自分たちの社会的責任とはいかなるものかを振り返るとともに、社会の変化に従う義務がある。奇異な人事構成の中で奇異な教育環境を作っていることに対する批判の声が聞こえる今、ソウル大学は前に進むのか、それともそこにとどまって学生たちの足すら引っ張るのか、選択の時を迎えている。

//ハンギョレ新聞社

ユン・テウ|北海道大学博士課程・日本学術振興会特別研究員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/because/1197127.html韓国語原文入力:2025-05-13 08:00
訳D.K

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