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マスク対MAGA…トランプの不可能な連合【寄稿】

登録:2025-01-13 04:38 修正:2025-01-13 09:07
スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授
米国のドナルド・トランプ次期大統領とEV製造会社「テスラ」創業者のイーロン・マスクCEOが2024年11月19日、テキサス州ブラウンズビルのスペースXの発射場でロケット発射の様子を見守っている/ロイター・聯合ニュース

 昨年、米国ではTikTokやユーチューブで「コストコ・ガイズ」を名乗る親子が、スーパーマーケット企業「コストコ」の店舗内で製品を評価する動画が人気だった。コストコの宣伝のように見えるがコストコは関与していない動画で、時にはこの親子はコストコの売り場から追い出されたりもする。これは、使用者による企業の無料広報というこんにちの新しいトレンドをよく示している。特定のブランドの化粧品を自発的に広報する10代女性たちの多くのSNS動画もその一例だ。資本主義者の夢が叶ったかのようにみえるこの現象は、新たに到来した経済的新封建主義の断面を示している。

 このような傾向は、フェイスブック、インスタグラム、X、TikTokのような新しいデジタル空間をその物的基盤とする。これらは、当初はコンテンツの生産者と使用者の境界を薄め、われわれ全員を「プロシューマー」(producer+consumer)に昇格させるという点で、大きな歓呼を浴びた。誰もが規制や制限を加える中心のない空間で、相互に直接コミュニケーションを取るようになったかのようにみえる。しかし、皮肉なことに、結局われわれが到達した役割は、巨大企業が領主の役割を果たす新封建主義下での農奴だ。

 ドナルド・トランプ政権では歴代のどの政権よりも多くの億万長者が要職を占める。自称「労働者の味方」というトランプは、口では巨大企業が米国の労働者を搾取していると批判するが、実際には、イーロン・マスクのような「デジタル封建主義」の領主らに圧倒的な自由を贈り、政府高官を任せている。

 しかし、このようなビッグテックのリーダーたち(イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、マーク・ザッカーバーグ、ピーター・ティール)と、一般労働者を代弁するふりをするMAGA(Make America Great Again)の勢力間の対立が深まり、トランプ陣営に亀裂が生じている。マスクとともに政府効率化省の共同代表に指名されたビベック・ラマスワミは、米国内の人材不足を指摘し、テクノロジー企業が熟練度の高い外国人労働者を誘致することを擁護している。一方、トランプの「米国第一主義」に従うMAGA勢力は、これに激しく反発する。この陣営の軸は、第1次トランプ政権でホワイトハウスの首席戦略官を務めたスティーブン・バノンだ。彼は、シリコンバレーが米国人の雇用を減らしたことについて「賠償」を要求する一方、外国人への専門職ビザの発行は米国の中産階級を追い出すものだと批判している。

 トランプはデジタル封建領主たちとMAGA勢力の間の「不可能な」連合を達成しなければならない苦境に陥っている。ひとまずマスクに軍配を上げた状態だが、長期的には妥協しなければならない。トランプが選べる妥協案は、人種主義をよりいっそう強化し、高学歴で専門職の外国人のような「模範」移民と、犯罪者などで構成される「不良」移民を区別することだ。しかし、この戦略は成功しないだろう。熟練人材の移民が高い賃金を得て、米国の富裕層をさらに裕福にする間、低賃金の米国人は未登録外国人が果たしていた役割を担うよう追い込まれ、MAGA勢力の不満がさらに高まるからだ。未登録外国人の労働に強く依存する米国の中間層からも反発されるだろうし、貧しい白人の米国人が未登録外国人の担っていた仕事を占有することになるという仮定も非現実的だ。

 しかも、イデオロギー的にも両者は緊張関係にある。デジタル封建領主は自由主義的な指向であり、国家の制限がないデジタル・メディア空間の使用を擁護する(もちろん、これはデジタル領主がデジタル封建領地を統制する自由だ)。一方、MAGA勢力は権威主義的であるため、政治と文化に対する国家の強い統制を擁護する。

 この緊張はどのような結末になるだろうか。自動的な解決策はない。結果は必ずそうなるという社会経済的な過程ではなく、政治的闘争に応じて変わるだろう。上記で説明した緊張によって、トランプ政治が破滅するとは確信できない。その都度試みられる新たな妥協によって、トランプ式政治の没落ははるかに遅れる可能性が高いためだ。しかし、トランプ式政治が長く続くほど、その長期的な結果は破局的であることだけは確かだ。

//ハンギョレ新聞社

スラヴォイ・ジジェク|リュブリャナ大学(スロベニア)、慶煕大学ES教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1177521.html韓国語原文入力:2025-01-12 18:57
訳M.S

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