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「尹錫悦の1000日」に大韓民国は耐えられるか【コラム】

登録:2024-08-07 06:38 修正:2024-08-07 08:50
ソン・ウォンジェ|論説委員
中央アジア3国を国賓訪問した尹錫悦大統領と夫人のキム・ゴンヒ女史が6月10日(現地時間)、最初の訪問先であるトルクメニスタンのアシガバート国際空港に到着して挨拶している=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領の任期が残り33カ月となった。日数としては1000日間だ。「3年は長すぎる」と言われているが、その通りかもしれない。総選挙後、ようやく4カ月が経ったが、まだ折り返し時点も過ぎていない。

 「速度より重要なのは方向」という言葉もある。尹大統領の過去120日を振り返ると、これまたまさしくその通りだ。前回の総選挙の民意は、尹大統領の無能さと専横さに対し審判を下した。その一方で、いわゆる「絶対議席」(200議席)を汎野党圏に許したわけではなかった。尹大統領には、自分の至らなさを痛感し、生まれ変わることを前提に国政運営の時間が与えられたのだ。

 残念なことに、尹大統領はこのような方向に全く動いていない。国民が尹政権の国政全般について厳しい審判を下したにもかかわらず、尹大統領は国政運営の基調を変える気配すら見せない。政治と経済、外交・安保といった国政の3本柱すべてにおいてむしろ「守旧」の色を強めている。

 だからといって、意地と密室政治の国政運営を変えたわけでもない。1年9カ月ぶりに開いた記者会見では、国民が最も関心を持っている「(海兵隊員)C上等兵殉職事件をめぐる激怒説」について、的外れな説明を長々と並べて具体的な答弁を避けた。民意を聴取するために民情首席室を新設したものの、真っ先に行ったのは、キム・ゴンヒ女史の出頭聴取の必要性を主張してきた検察の指揮系統の人たちを完全に排除したことだった。尹錫悦大統領が検察総長だった当時に報道官を務めていた後任のソウル中央地検長は、検事の携帯電話を警護室に提出した状態で出張聴取を行う「検察恥辱の日」を演出した。「例外も、聖域もないように取り調べよ」という現検察総長の指示は完全に無視された。キム女史の法律代理人は「検事の携帯電話に爆発物が設置される可能性もあるため、提出はやむを得なかった」と語った。苦笑せざるを得ない詭弁だ。

 イ・ジンスク放送通信委員長の任命など人事では末期的症状がさらに明らかになった。イ委員長は大田文化放送(MBC)の社長時代に辞表を提出した当日、ソウル江南区(カンナムグ)の行きつけのパン屋で、法人カードで44万ウォン(約4万6千円)を使い、2時間30分後には大田官舎近くのパン屋で53万ウォン(約5万5千円)を再び使った。「会社の清掃員たちに配った」と釈明したが、実際に配ったかどうかは定かではない。何よりも大田の従業員たちにあげるパンをなぜソウルの自宅近くのパン屋で買うのか。一部では、退職後に会社のお金でこれから食べる分を前払いしておいたのではないかという疑念の声もあがっている。こういうことが一つや二つではない。この程度の疑惑にも納得できる釈明ができない場合は、過去の保守政権でも国民に対する最小限の礼儀として、たいてい任命を撤回してきた。だが、尹大統領はさらに頑として押し通している。

 キム・ムンス雇用労働部長官候補指名とミン・ヨンサムKOBACO(韓国放送広告振興公社)社長任命も同じだ。二人ともユーチューブで行き過ぎた暴言を並べて立ててきたという共通点がある。保守層でも「尹大統領は極右ユーチューブチャンネルをもう見ないでほしい」と言われているのに、どこ吹く風だ。総選挙惨敗後、「民意」と「国民」を掲げたのはやはり空言に過ぎなかった。

 聞く耳を持たない国政運営を毎日見守るのも苦痛だが、さらに大きな問題は、このままでは本当に国がどうなるかわからないという不吉な懸念が高まっていることだ。下半期の世界経済は明らかに本格的な低迷の道へと向かっている。ただでさえ低調な国内株価はその直撃を受け、乱高下している。ウクライナ戦争で厳しいのに、第5次中東戦争勃発の可能性も高い。

 昨年、すでに最多廃業新記録を塗り替えた自営業者を皮切りに、国民の大多数の暮らしが揺らぎかねない危機だ。このような時に国民が頼れるのは政府しかない。ところが「金持ち減税」と研究・開発(R&D)予算削減を除けば何も見せたことのない尹大統領が、この嵐を乗り越える能力とリーダーシップを発揮できるだろうか。保守層でさえそれを信じている人の割合は極めて低いだろう。

 国家存亡の根幹である外交・安保分野の激動の可能性は「千日の尹」に対する不安をより一層増幅させる。米大統領選挙でドナルド・トランプ候補が当選すれば、同盟外交は破局を迎える恐れがある。カマラ・ハリス候補が大統領になれば、米日傾倒と従属はさらに深まるだろう。いつになくイルカのような柔軟な身のこなしが求められる。しかし、尹大統領は朝鮮後期の「崇明事大」のドグマを彷彿とさせる原理主義「価値観外交」に捉えられている。

 今「朴槿恵(パク・クネ)弾劾」のトラウマを抱える保守は「尹錫悦保衛」にこだわっている。保守の本当の価値に背き、「C上等兵捜査への外圧」疑惑にさえ目をつぶっている。今からでも何を優先すべきなのかを真剣に考えなければならない。無能な大統領なのか、国の未来なのか。果たして残りの「尹錫悦の千日」に耐えられるかを。

//ハンギョレ新聞社
ソン・ウォンジェ|論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1152469.html韓国語原文入力:2024-08-06 18:35
訳H.J

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