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[コラム]保守自らが仕掛けたわな、韓国右派ポピュリズムの出現

登録:2024-02-05 08:28 修正:2024-02-05 08:59
イ・ジェソン|論説委員
尹錫悦大統領が1月17日、ソウル汝矣島の韓国取引所で開催された「国民と共にする民生討論会」で発言している=大統領室提供//ハンギョレ新聞社

 「ポピュリズム」ほど混乱していて恣意的に乱用される政治用語も珍しいだろう。19世紀の米国の人民党(People's Party)の党員たちが反エリート主義者だという意味で自らを「ポピュリスト(人民主義者または大衆主義者)」と呼んだことに由来するポピュリズムは、100年以上の歴史の分だけ多彩な変遷を経て、今や米国においてさえ人気迎合主義という侮蔑的な意味で通用している。

 特に韓国では保守が進歩を非難する際に、ここぞという時に用いられた。進歩の福祉強化論を批判する際、「財政を考慮することなしに」ばら撒くだけの政治的傾向を批判する「憂国の情」の言葉だった。14年前、当時のソウルのオ・セフン市長が無償給食条例の撤回を要求しつつ、「亡国的ポピュリズム」と叫んだ場面は歴史に残った。しかしオ市長の辞任と無償給食の全面導入後も国は滅びず、それとは関係なしに経済はさらに発展したが、保守による進歩に対するポピュリズムだとの攻撃はやまなかった。

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が候補時代に続き、大統領になってからもポピュリズム批判を愛用する脈絡も、その歴史的磁場の中にある。彼によると、コロナ克服のための防疫予算も、安全なエネルギーの確保のための脱原発も、食糧安保と農家の再生産の安定のための糧穀管理法も、すべてポピュリズムだ。しかし本人が推進している富裕層減税はすべて民生だ。自分(ネ)がしているのは民生で他人(ナム)がしているのはポピュリズム、「ネ民ナムポ」だ。

 逆説的に、尹大統領が韓国社会に貢献したことが一つあるとすれば、進歩と保守が合意しうるポピュリズムについての正義の積集合を確認させてくれたことだ。「財政に対する考慮」がそれだ。保守メディアすら尹錫悦政権の総選挙のための減税を消極的ではあれ批判しているのは、最悪の税収減少にもかかわらず減税案を並べたてるだけで、財政に対する対策がまったくないからだ。尹大統領は進歩と保守の双方から批判される右派ポピュリズムの創始者として、歴史の1ページを飾ることになるだろう。

 左派ポピュリズムが庶民に金を使うばら撒きなら、右派ポピュリズムは金持ち減税をおこなうばら撒きだ。どちらにしても持続不可能であるという点でポピュリズムは望ましくないが、功利主義の観点からみれば、多数に恩恵が行きわたる前者の方がより正義だと言える。歴史的にも左派ポピュリズムは貧富の差を縮めた。アルゼンチンのフアン・ペロンやベネズエラのウゴ・チャベスの政権がそうだった。よくアルゼンチンとベネズエラの経済が崩壊したのはポピュリズムのせいだとされるが、そうではない。アルゼンチンはペロンの死後、右派政権による新自由主義政策の導入に伴って経済が本格的に崩壊しはじめた。ベネズエラの衰退は米国による経済制裁と原油価格の暴落がより大きな原因だった。両国のポピュリズムが批判される点は産業を育てる努力をしなかったということだが、その点では研究開発(R&D)予算を大幅に削った尹錫悦政権も同じだ。

 財政に対する考慮はポピュリズムかどうかを分ける試金石ではあるが、その基準は絶対的なものではない。荒唐無稽なポピュリズムとからかわれたホ・ギョンヨン氏(大統領選、総選挙の常連候補)の出産公約がいくつかの自治体で現実化しはじめているのが良い例だ。基本所得(ベーシックインカム)が韓国社会の過度な競争圧力を弱め、それの作り出すもう少し余裕のある環境は創意あふれる産業や文化を花咲かせるだろうというアイデアも、時間がたてばたつほど光を放つようになると思う。

 韓国では左派ポピュリズムが実行されたことがない。無償給食ですら「亡国的ポピュリズム」と非難される保守ヘゲモニー国家においては、左派ポピュリズムは可能なはずがなかった。金大中(キム・デジュン)政権と盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権はむしろ新自由主義だとの批判を浴びたし、「強金持ち政権」という別名を付けられた李明博(イ・ミョンバク)政権の初期を除けば朴槿恵(パク・クネ)、文在寅(ムン・ジェイン)両政権を通じて増税が進んだ。尹錫悦政権の減税一辺倒の政策が災厄的なのは、増税の「ぞ」の字も言い出せない雰囲気を作ったからだ。

 常識的な保守なら内心当惑するだろう。大韓民国史上初めて出現した右派ポピュリズムは、実は保守メディアと政党が製造販売した「税金爆弾論」が生んだからだ。総合不動産税をはじめとする税金を罪悪視して進歩派を非難する際によく用いられたポピュリズムだが、減税が経済を再生すると心から信じて疑わない尹錫悦という新自由主義原理主義者による右派ポピュリズムの誕生を目撃することになったのだ。新自由主義的ポピュリズムという形容矛盾が実際に存在しうるということを、私たちはみな初めて知った。財政を壊して経済を破壊したうえ、貧富の差まで広げる右派ポピュリズムこそ、亡国への近道だ。「亡国」こそ、保守の最も恐れる単語ではなかったか。

//ハンギョレ新聞社

イ・ジェソン|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1127173.html韓国語原文入力:2024-02-04 15:19
訳D.K

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