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[記者手帳]市場に任せてきた医療の裏切り…尹政権の選択は?

登録:2024-03-13 01:10 修正:2024-03-13 07:46
パク・ヒョンジョン|人口・福祉チーム長
3日午後、ソウル永登浦区の汝矣島公園前で、政府の医学部増員政策に反対する医師が集まり、全国医師総決起集会が行われている。大韓医師協会の発表によると、この日の参加人数は3万人だった=キム・ヨンウォン記者//ハンギョレ新聞社

 「医療現場の混乱が逆説的に医師数の不足を立証している。専攻医の離脱によって国家的な非常医療システムを稼動しなければならないというこの現実が、どれほど異常であることか」

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は6日、医師集団行動中央災害安全対策本部の会議を主宰した際に「非正常の正常化」を力説した。尹大統領が指摘した非正常は、政府が長いあいだ放置してきた現実だ。市場の論理に則ってコストを削るために、各病院は専門医ではなく、低賃金で週80時間まで働かせることのできる専攻医(インターン、レジデント)に依存してきた。

 非正常な現実は、専攻医たちの力を「非正常に」強めた。1万3千人あまり存在する専攻医のうち2740人あまり(約21%)がソウルの「5大病院」(ソウル大学病院、セブランス病院、サムスンソウル病院、ソウル峨山(アサン)病院、ソウル聖母病院)にいる。大韓専攻医協議会は、医学部の入学定員2千人増員の白紙撤回を要求する集団行動をはじめるにあたって、波及力の大きい「5大病院」の専攻医全員の辞職を予告した。

 すでに4年前には兆しがあった。文在寅(ムン・ジェイン)政権の推進していた医学部定員400人拡大(それを10年続けて4千人の医師を追加養成)と公共医学部設立の推進を阻止した際の求心点も、専攻医だった。当時は専攻医の70~80%が集団休診を2週間以上もおこなった。若い医師たちを前面に立て、大韓医師協会(医協)は政府与党から「新型コロナウイルス禍が安定するまで医学部増員と公共医学部を原点から見直し」(9・4医政合意)を約束された。

 2020年の医政対立は一段落したが、韓国社会に残された傷はまだ癒えていない。コロナ感染に対する不安が高まっていたにもかかわらず、政府の政策に反発して病院を出ていってしまった医師に対する市民の怒りと不信は膨らんだ。医協医療政策研究所がSNSにアップした「毎年全校1位を逃さないために学習にまい進した医師」と「成績はかなり低いが、医師になりたくて推薦で入学した公共医学部の医師」のうち、どちらを選択したいか、という投稿であらわになった特権意識は、成績競争で勝利した学生を医師として養成する現実に対する懐疑へとつながった。

 4年が過ぎた今、高い所得と社会的地位を期待して医師になろうという熱はさらに高まっている。一方、医療脆弱地や忌避科目の医師不足問題はいっそう深刻化している。コロナがあらわにした公共医療の必要性についての議論は跡形もない。医師も農漁村より都会、非首都圏より首都圏、あまり大変でないか、より多く稼げる分野へと集中する。医療サービスの核となる資源である医師の分配を市場のみに任せてきたからだ。

 こうした中、政府は地域・必須医療の崩壊を防ぐための政策の出発点として、医学部の定員拡大に乗り出した。急激に進んだのは、尹大統領が昨年10月19日に自ら2025学年度の医学部の定員拡大を公式に発表してからだ。ソウル江西(カンソ)区長補欠選挙で与党「国民の力」が惨敗してから8日後のことだった。総選挙を2カ月あまり後に控えた2月6日に突如、年に3058人だった全国40の医学部の定員を来年から2千人増やし、5058人を選抜すると発表された。政府の政治的狙いを市民が知らないはずはない。しかし、わずか2週間後に手術室と救急室すら空けた専攻医に対する怒り、27年間も定員が増えていないという事実、医学部に向けられる熱望がすべて錯綜した世論は、政府側に傾いた。

 2024年の医政対立は、政府が長いあいだ放置してきた非正常な医療システムの素顔をあらわにした。専攻医への依存構造だけではない。居住地域や症状の重さとは関係なしに、患者と医療スタッフがソウルの「5大病院」に集中する。遅ればせながら政府は、専攻医の離脱した大病院には重症患者や救急患者の治療のみに集中させるとともに、専門医中心の構造を作ると述べた。コストのかかる仕事だ。地元の医院(1次)→総合病院(2次)→上級総合病院(3次)のように機能ごとに患者の診療を分担することで医療費支出を効率化しつつも健康を守る「医療伝達システム」の正常化も急務だ。積極的な政策介入なしには難しいことだ。これまで自由市場を強調してきた尹錫悦政権が、この逆説を果たしてどのように解決していくのか、見守っていきたい。

//ハンギョレ新聞社

パク・ヒョンジョン|人口・福祉チーム長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1131976.html韓国語原文入力:2024-03-12 17:17
訳D.K

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