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[コラム]尹大統領の「判断ミス」と歴史の重さ

登録:2024-02-15 06:45 修正:2024-02-15 08:21
2022年4月29日、米国デラウェア州のドーバー空軍基地で米空軍がウクライナに向かう155ミリ砲弾を点検している=ドーバー/AP・聯合ニュース

 あまりに怪しい時代だからか、朝鮮が日本の植民地に転落していった旧韓末・大韓帝国の歴史にどうしても目が向く。その時代を振り返るたびに思い知らされることは、ささいにみえる「判断ミス」が複雑な連鎖反応を起こし、国家の運命を決めたという事実だ。

 もしも1881~1882年に高宗・閔氏政権が旧式軍隊に給与を支払っていたならば、1894年春に東学農民軍の鎮圧に失敗した高宗が清に援軍を要請するかわりに政治的妥協を選んでいたならば、1898年に独立協会が主導した「立憲君主制」改革が少しずつ施行されていたならば、35年にわたる恥ずべき日帝の植民地支配と、今なお続く悲しい分断の苦しみに悩まされることはなかったかもしれない。

 それから1世紀を超える時間が流れたが、国は相変らず二つに分かれた状態であり、朝鮮半島が世界列強の力と力が衝突する激しい角逐の場であるという事実も変わっていない。むしろ、米中戦略競争、そしてウクライナと中東で進行中の「二つの戦争」の余波で、朝鮮半島をめぐる国際情勢は旧韓末・大韓帝国の時代と同じぐらい殺伐としている。

 2024年の大韓民国は当時のような弱小国ではないが、世界最強の大国である米国と2位の経済力を誇る中国、巨大な領土を持つ「核大国」であり国連安全保障理事会の常任理事国であるロシア、かつて朝鮮を植民地にした伝統ある強国の日本が真っ向からぶつかる朝鮮半島の地政学は変わっていない。ただでさえ気の休まることのない「基本構図」のなかで、韓国とロシアの関係悪化、北朝鮮とロシアの戦略的接近、南北関係の破綻(北朝鮮の金正恩国務委員長は1月15日、最高人民会議の施政演説で、南との和解と統一を放棄すると述べた)という非常に憂える変化が目下進行中だ。

 なぜ状況はこのようになったのか。原因は「非常に」(!)単純だ。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が2023年春~夏、ロシアと戦争中のウクライナに米国を通じて155ミリ砲弾を「迂回支援」したからだ。尹大統領がその年4月19日のロイター通信のインタビューで兵器提供の可能性に言及すると、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は翌日、これを「敵対行為と受けとめる」とし「朝鮮半島に対するロシアのアプローチ」を変えると警告した。そしてロシアは警告どおり、1990年の韓国・ソ連国交正常化以降30年あまりの間続けてきた朝鮮半島に対するアプローチを変えようとしている。

 これに先立ち、盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の「外交策士」だったイ・ジョンソク元統一部長官は、2014年に出版した回顧録『刃の上の平和』で、彼を苦しめた現実のひとつとして、韓国と米国にある「認識の非対称性」を挙げた。すなわち、韓国にとっては生死に関わる重大な問題が、米国にとっては「せいぜい東アジア太平洋担当の国防総省副次官補の所管」であり、数多くのオプションのうちの一つだったということだ。

 この非対称性は、韓国がウクライナに砲弾を迂回支援する過程でも同じように作動したものとみられる。ワシントン・ポストは昨年12月4日、当時の米国の悩みを示す長文の記事を公開した。2023年2月3日、ホワイトハウスのジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)の主導で、ウクライナの反撃計画に関する重要な会議が開かれた。作戦進行における最大の難題にあがったのはウクライナの砲弾不足だった。これを解決するために米国が選ぶことができるオプションは二つあった。一つ目は同盟国である韓国に提供を要求すること、二つ目は米国が持っている「クラスター爆弾」を提供することだった。

 議論の過程でアントニー・ブリンケン国務長官は「戦争倫理」問題を指摘し、民間人にも大きな被害をもたらし国際法上その使用が禁止されているクラスター爆弾の提供に強く反対した。結局、サリバン補佐官がその意見を受け入れ、尹錫悦政権に対する米国の砲弾提供の要求が本格化したものとみられる。興味深いのは、米国が5カ月後の同年7月にウクライナへのクラスター爆弾の提供を決めたという事実だ。もし米国の砲弾提供の要求を韓国政府がもうしばらく受け入れずに粘ったならば、同盟国同士で少々摩擦が生じるくらいで終わった問題だったのではないだろうか。

 ブリンケン長官の倫理意識で始まった韓国の砲弾支援は、尹錫悦政権の無謀さと結びつき、朝鮮半島に取り返しのつかない陰惨な変化を作りだした。今ではむしろ米国で北朝鮮とロシアの戦略的接近を懸念する声が高まっている。尹錫悦政権は今からでもきわめて慎重にならなければならない。場合によっては、100年後の教科書に分断を修復不可能なものにした「歴史の罪人」として名前が載るかもしれない。

//ハンギョレ新聞社

キル・ユンヒョン|国際部長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1128109.html韓国語原文入力:2024-02-14 08:46
訳M.S

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