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[コラム]北朝鮮の「別れる決心」を認めよう

登録:2024-02-06 05:48 修正:2024-02-06 08:04
韓国と北朝鮮の国家関係を認める現実主義に立脚し、朝鮮半島とその周辺の勢力均衡に焦点を合わせなければならない。南北の和解や統一をあきらめるということではない。むしろ、韓国と北朝鮮の共存とその後を見据えた現実主義だ。
北朝鮮の金正恩国務委員長が南浦造船所を訪問して軍艦建造の実態を調べたと、朝鮮中央通信が2日に報道した/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 昨年7月、朝鮮労働党のキム・ヨジョン副部長が南側を「大韓民国」と呼んで以来、北朝鮮の韓国に対する「別れる決心」が固まっている。金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長は1月15日、「大韓民国」が「徹頭徹尾第一の敵対国、不変の主敵」であることを憲法に反映し、「共和国の民族の歴史から『統一』『和解』『同族』という概念自体を完全に除去しなければならない」と述べた。

 パク・チャヌク監督の映画『別れる決心』とこれをパロディにした「戦争する決心」という言葉が、南北関係でミームのように飛び交っている。金委員長は「我々は決して朝鮮半島で圧倒的な力による大事変を一方的に決行することはないが、戦争を避けるつもりもまったくない」(1月8~9日、軍需工場での現地指導)、「敵が仕掛けない限り、決して一方的に戦争を決行することはない」(最高人民会議演説)と述べた。

 韓米の当局者も北朝鮮の「別れる決心」を強調する。米国の対北朝鮮政策を総括するジョン・パク北朝鮮担当特別代表は2日、聯合ニュースのインタビューで、「北朝鮮が直接的な軍事行動を行おうとする兆候はみられない」とし、「以前と異なる点はあるが、最も大きな違いは北朝鮮とロシアの関係」だと指摘した。パク特別代表は、ウクライナ戦争をきっかけとする北朝鮮とロシアの戦略的関係の形成によって、「北朝鮮問題はインド太平洋地域だけでなく、全世界的にきわめて重要になった」と説明した。

 北朝鮮が、南北関係を一つの民族として統一される関係から敵対的な国家の関係に変えるという「別れる決心」をし、これを妨害するのであれば「戦争する決心」も辞さないということだ。ジョン・パク特別代表の指摘のとおり、北朝鮮の別れる決心は、ウクライナ戦争をきっかけとする国際情勢の変化が背景にある。

 北朝鮮は、1990年代初頭の社会主義圏の崩壊によって、中国・ロシアとの連帯と支援が途絶え、核開発をてこに米国との関係を改善して孤立から脱却しようとした。過去30年以上にわたり断続的に進められた北朝鮮の核開発をめぐる朝米交渉の頂点は、2018年の金正恩国務委員長とドナルド・トランプ大統領による朝米首脳会談だった。しかし、この首脳会談の失敗以降、北朝鮮は核武力だけを手にしたまま、大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの各種ミサイルの試験発射に終始した。朝米首脳会談を仲裁した文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対して「茹でた牛の頭」と極言するなど、韓国と米国に対する未練を完全に捨てた。

 米中の戦略的対決が激しくなるなかで勃発した2022年のウクライナ戦争は、北朝鮮に新たな空間を開いた。ロシアに対する米国の制裁は、むしろ中国とロシアが追求した多極化体制に火をつけた。制裁は無力化され、米国の覇権に頼る「自由主義的国際秩序」に亀裂が生じ、中国とロシアはグローバルサウス諸国とともに、多極化体制の空間を拡張している。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権発足後、韓国は米日同盟側に向かって一方的に傾いているが、これは中国とロシアに北朝鮮の戦略的価値を新たに向上させるきっかけにもなった。韓国がウクライナに兵器を迂回支援したことも、ロシアを刺激した。

 昨年9月の金正恩国務委員のロシア訪問と両国首脳の会談は、1990年代以降の北朝鮮・中国・ロシアの北方三角関係において、最も重要な変曲点だった。北朝鮮はロシアとの戦略的関係の再構築によって、軍事的にだけでなく、経済的にも新たな空間を切り開いた。北朝鮮は、中国とロシアが追求する多極化体制において重要な一員に浮上した。北朝鮮は、米国や日本などに関係改善を泣訴した蚊帳の外の境遇から抜け出した。北朝鮮が韓国と別れる決心をし、米国との対話にこだわらなくなったのは、このような背景からだ。

 韓国と北朝鮮は、事実国際社会における厳然たる主権国家だ。韓国も北朝鮮も1972年の7・4共同声明以降、互いを国家として認定し、共存を追求してきた。ただし、統一されることもありうるという特殊な関係として相互を規定した。北朝鮮は、すでに韓国や米国と取引をする利点はないと判断し、実際にそのような状況でもある。北朝鮮が韓国と戦争する決心ではなく別れる決心をするのであれば、もはやこれを認めるしかない。

 北朝鮮の別れる決心は、詳細に見てみると、2つのコリアという現実を公式化しただけのことだ。進歩陣営の民族統一論や保守陣営の反共統一はいずれも、いつからか現実味に欠けた理想主義にすぎないものとなった。北朝鮮は生存のためにもがく国家であり、韓国はそのような北朝鮮という国家といかなる関係を結ぶべきかを熟考しなければならない。

 その答えは、韓国と北朝鮮の国家関係を認める現実主義に立脚し、朝鮮半島とその周辺の勢力均衡に焦点を合わせなければならないということだ。これは、南北の和解や統一をあきらめるということではない。むしろ、韓国と北朝鮮の共存とその後を見据える現実主義だ。

//ハンギョレ新聞社

チョン・ウィギル|国際部先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1127300.html韓国語原文入力:2024-02-05 18:54
訳M.S

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