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[寄稿]気候危機への対応がインフレを助長?…恐怖マーケティングがつく嘘

登録:2023-11-29 06:31 修正:2023-11-29 08:24
サイモン・スティル|国連気候変動枠組条約事務局長
昨年11月18日、第27回気候変動枠組条約締約国会議(COP27)が開かれたエジプトのシャルム・エル・シェイクで気候問題関連の運動家たちが化石燃料廃止を求めるデモを行っている/聯合ニュース

 この数年間続くインフレによって、全世界の各地で生活費が高騰した。すると、こうした危機を機会として利用し、「気候変動を止めようという行動は無理があり、一般の人たちの利益に反する」と恐怖をあおるレトリックをまき散らす者たちが現れた。しかし、これは全く事実に合わない主張だ。

 「環境にやさしい」(Green)と「貧困」(Poor)を対立させる議論は分裂を助長し、時には特定の集団の近視眼的な利益だけを求める利害関係を隠す手段になることもある。安定的かつ経済的に持続可能な未来は、エネルギー安全保障と気候災害に対する回復力を備え、最終的に気温上昇を(産業化開始前と比較し)1.5度以内に抑えた場合のみ可能だ。

 現在の全世界の数十億の人口を限界状況に追い込んだ生活費の高騰の主な原因は、石炭や石油、ガスのような化石燃料だ。頻繁に上下する化石燃料の価格は、交通費や食費、電気料金、基本的な生活必需品の価格上昇につながる。そのため、化石燃料への依存度が高い国のなかには、燃料費の上昇によって2022年の家計支出が前年より1000ドル以上増えたケースもあった。

 米国財務省やインド準備銀行、欧州中央銀行(ECB)などによると、気候変動が及ぼす影響が大きくなればなるほど、消費者が負担する費用は増加し、経済成長は鈍化する。高いエネルギー価格は、企業の収益性と成長の勢いをさまたげる。また、全世界の市民のエネルギー利用に障害をもたらす。そして何より、こうしたインフレの最大の打撃は、貧困階層が受けることになる。

 今年は過去12万5000年間で最も暑い年と記録される見込みだ。破壊的な嵐、予測できない洪水、猛暑、日照りは、すでに莫大な経済的損失を招き、全世界の数億人の生命と生計に大きな損失を与えた。

 私たちは一朝一夕ですべての化石燃料の使用をやめることはできない。しかし、すぐに取れる行動は多い。たとえば、2022年に各国政府は、化石燃料への補助金に7兆ドル以上を支出したが、これは、税金や政府借入で調達した資金だ。化石燃料への補助金に使用されなかったとすれば、低所得階層の実質所得を補填したり、開発途上国の借金を減らして医療サービスを改善することに使われたであろう資金だ。もしかしたら、再生可能エネルギーや電力網のインフラを構築したり、貧困緩和プログラムを拡大することに使われたかもしれない。各国政府がこうした化石燃料への補助金を廃止すれば、貧困階層を支援し、国家経済を改善することができるはずだ。

 今年の国連気候変動枠組み条約締約国(COP28)の開催を控え、私たちは、パリ協定からこれまでに進められた各国の気候に対する行動を評価する時間を設けた。その結果、協定の履行がきわめて遅いという点が明確にあらわれた。しかし、よりしっかりとした経済を構築しつつ、同時に気候行動の速度を上げる手段は多様だという事実も明確になった。

 数十億人の人たちに必要なことは、政府による意志を持った行動だ。こうした行動には、新規の化石燃料生産に投入した数十億ドルを、再生可能エネルギーへの投資に切り替えることも含まれる。政府は、明かりをつけるエネルギーが必要な人たちに、クリーンなエネルギー源で生産した電気を選択できるようにして、地域社会に投資する財政的な余裕と変化する世界に適応するための能力を備えなければならない。

 各国政府が協力と解決策に集中するという姿勢で、11月末にドバイで開かれるCOP28に臨むのであれば、未来を楽観視できるはずだ。私たちは今回の会議で、全世界の再生可能エネルギーの容量を現在の3倍に拡大し、エネルギー効率も2倍に引き上げることで合意することができる。各国が気候変動の影響に適応することを政策的な中心にして、関連財政を2倍に増やすこともできる。さらに、気候変動による損失と被害に対する基金を現実化し、気候正義を実現することもできる。財源の準備に関する長期にわたる約束を守る一方、次の段階の財源の確保の輪郭を描くのだ。

 1回の会議ですべてを変えることはできない。しかし、今年の会議では、私たちは設定した方向にある未来を予想し、2025年には国ごとにどのような約束ができるのか、その下書きを共有できるはずだ。今こそ、恐怖を助長する人たちの話に目を曇らされることなく、堅固たる意志で行動しなければならない時だ。

//ハンギョレ新聞社

サイモン・スティル|国連気候変動枠組み条約事務局長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/because/1118079.html韓国語原文入力:2023-11-28 02:39
訳M.S

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