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[寄稿]「朝鮮半島の非核化」でなければならない理由

登録:2023-11-29 00:26 修正:2023-11-29 08:33
パン・ヘリン|元軍人権センター活動家・予備役大尉
尹錫悦大統領が今年7月19日、釜山南区の海軍作戦司令部釜山作戦基地に入港した米国のオハイオ級弾道ミサイル搭載原子力潜水艦「ケンタッキー」(SSBN-737)の内部を視察した際に、潜望鏡をのぞき込んでいる=米海軍提供//ハンギョレ新聞社

 20日の社長交代以降、混乱の真っ只中にある韓国放送(KBS)の報道本部が記者に対し、「朝米」という表記を「米朝」にするよう、そして「朝鮮半島の非核化」という表現を自制するよう指示したという記事に接した。2018年のシンガポール朝米首脳会談当時、外国メディアも「US-North Korea Summit」、「North Korea-US Summit」、あるいは「Singapore Summit」などの様々な表記を使用しているので、この問題はKBSが公営性を侵害されない範囲で決めればよい話だろう。

 しかし「朝鮮半島の非核化」はそうではない。この表現は1991年の「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」の採択を機として公式に使われはじめた。朝鮮半島非核化共同宣言は、北朝鮮を冷戦終結後の国際秩序と不拡散体制の規範へと引き込むことで、朝鮮半島全体の非核化を達成するための、南北初の合意された核軍備規制の試みだった。もちろんその後、北朝鮮による核開発が続いたことで、この宣言は有名無実となったが、その後の北朝鮮の核廃棄の試みはすべて「朝鮮半島の非核化」という名で進められてきた。米国務省も北朝鮮問題の目標を説明する際、「Denuclearization of Korean Peninsula」という朝鮮半島の非核化を英語に直訳した表現を最近まで使用してきた。

 では、KBSはなぜ朝鮮半島の非核化という表現を自制せよと言ったのか。この問題を扱った記事を読んでも詳しくは分からないが、推測すると、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の発足後に統一部が発行した「2023統一白書」で「北朝鮮の非核化」という表現を使っていることと一脈相通じるのではないか。北朝鮮の非核化という表現は、保守陣営の一部による「韓国核武装」主張と通じる。朝鮮半島の非核化は、現在は核兵器を保有していない韓国には合わない表現であるうえ、さらには韓国の核武装を制約して北朝鮮の核にまともに対応できないようにするから、「北朝鮮の非核化」の方が適切だというのだ。一部からは、これまでの非核化の試みはすべて失敗したのだから、今や現実を直視し、核兵器にはより多くの核兵器で対応するという「韓国版相互確証破壊戦略(MAD)」を実現すべきだ、という主張すらなされている。

 北朝鮮の動きを傍観している間に問題は大きくなり、結局は危機を招くのではないかという懸念はありうる。しかし、だからといって核には核で対応すべきだとするMADを考慮するのは、次元の異なる問題だ。核不拡散体制(NPT)から脱して核兵器を開発するという構想の実現可能性もないだけでなく、核は核で対応するのが最も効果的だというのは、あくまで理論の領域に存在する概念であるからだ。冷戦時代にMADを選択した米国とソ連との間では、全面戦争が発生しなかっただけで、両国が介入した局地的な戦争は世界各地で続発した。核兵器で安保の脅威を抑制できると主張されているにもかかわらず、核保有国であるイスラエルがアラブ諸国に奇襲攻撃を受けたヨム・キプール戦争のような反例もある。また、相手より優位に立つために果てしない核兵器競争を招くという点で、MADは「狂った(mad)戦略」とも呼ばれる。

 朝鮮半島の非核化という表現がまるで韓国に不利なように見えたとしても、これ以上の核兵器と戦争を防ぐためには、朝鮮半島という地域概念を放棄してはならない。かつて旧ソ連の解体過程で行われた核廃棄、欧州の軍備規制は、特定の国を名指しして成し遂げられたのではなく、地域レベルの協力と譲歩によって得た結果だった。相次ぐ国際安保危機の中で、軍備規制の約束が意味のないようにみえたとしても、平和への希望を捨ててはならない。私たちは譲歩と放棄に向けた努力で得た平和はまだ経験していないが、相手の絶滅のために互いが努力した時に起きる結果は70年前に骨身にしみるほど経験しているからだ。朝鮮半島の非核化が単なる宣言的な修辞に過ぎないとしても、問題を共に考え、協力した結果を残し続けておくべき理由はここにある。

//ハンギョレ新聞社

パン・ヘリン|元軍人権センター活動家・予備役大尉 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1118118.html韓国語原文入力:2023-11-28 07:00
訳D.K

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