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[寄稿]装甲車ではなく性平等を=韓国

登録:2023-09-12 10:36 修正:2023-09-13 10:57
キム・ヘジョン|韓国性暴力相談所所長
韓国性暴力相談所、韓国女性の電話などのメンバー、市民が先月24日午前、ソウル冠岳区新林洞の公園で「公園女性殺害事件被害者追悼および女性に対する暴力放置国家糾弾緊急行動」を行い、公園の遊歩道を事件現場まで歩いている=キム・ジョンヒョ記者//ハンギョレ新聞社

 住宅街に低く速い戦闘機のごう音が響いた。次々に事務所のあちこちから同僚たちが出てきた。何事? 不安にかられた問いはSNSでも多く見られた。検索してみると「10月の国軍の日に向けソウル上空で予行演習」を行なったという。状況は分かったが、寒気が止まらない。軍隊は戦争「抑止」力として存在するというが、記念日には最高の戦闘力と武器をひけらかす。立派な戦闘機と兵力があるから心配するなということだろうが、戦闘飛行団の予行演習の音で高まったのは安心ではなく不安だ。

 このところ繰り返されている殺人、傷害事件に「装甲車」と「武装特攻隊」が登場した。現状をテロとみなすとして公権力が打ち出した対応だ。何がテロなのか? 場所を特定し、その空間で多数の人に暴力を加えること? しかし近ごろ起きている事件は、予告があるときもあればないときもあり、暴力の対象も特定の人であることもあれば、不特定多数だったりもする。むしろあらわになる点があるとすれば、自分の境遇を正当化する語りの構造、自分の感情を他人に噴出するヘイト犯罪の性格、凶器まで動員して暴力を行使する壁のない実行といったものだ。これと似たようなことは、女性に対する暴力で多い。「韓国女性の電話」の分析によると、2022年の1年間で、夫や恋人などの親密な関係にある男性パートナーによって殺害された女性は少なくとも86人、殺人未遂などで生き残った女性は少なくとも225人だった。

 女性に対する脅し、傷害、殺人は毎年数え切れないほど起きている。だが女性が装甲車、武装特攻隊、対テロ鎮圧を要求したことがあったろうか。ない。その理由を考えてみよう。一つ目、暴力の行為者をより大きな武器と物理的な力で制圧するより、その行為がなぜ問題なのかを社会全体が声を一つにしてはっきりと語ることの方が必要だからだ。ときに制圧はするが、なぜ問題なのかを正確に語れない公権力は、威嚇力(刑罰で威嚇し、一般人を犯罪から遠ざける力)とはなりえない。二つ目、暴力の行為者を制圧することを理由にさらに大きな力を行使する人が別の暴力の加害者になるのを、数え切れないほど見てきたからだ。省察せず競争する力は、力の持続的拡大を目的とする。三つ目、力の強い加害者とより力の強い制圧者の戦いになってしまえば、肝心な被害者の意思と決定は消え去り、「君はさがっていろ!」といった状況になるからだ。被害者の扱いと地位は高めずに、制圧する者に判断の全権と資源を握らせてしまった時、私たちは何かが変化したと言えようか。

 新林洞(シルリムドン)の公園で出勤途中に見知らぬ者に性暴力、暴行を受けた被害者は、重体で病院に運ばれ、2日後に死亡した。加害者はナックルを装着し、監視カメラ(CCTV)がない場所で被害者を標的にし、「強姦したかった」と述べ、自身の境遇を正当化する語りを展開した。彼は女性に力を示し、制圧することを欲した。加害者が用いたやり方に多くの人が恐れおののいた。「道では絶えず辺りを見回すようになってしまう」、「ずっと電話がかかってきます。大丈夫かって。私も大丈夫かと聞くようになりました」。恐怖が突如として日常に入り込んでくる。だが、この恐怖を胸に抱いてどこへ行くのか。被害生存者のAさんは、被害者が亡くなった日も漢江(ハンガン)を歩いた。友達と電話しながら泣いた。被害者のことを思って涙が止まらず、毎日歩いていた漢江は恐ろしくも感じられた。周囲の心配通り、一人ではもう歩くべきではないかとも思ったが、決してそうはするまいと誓った。「最後まで私は夜の散歩を続けるつもりだ」

 被害者が死亡した翌週の8月24日木曜日には、現場の公園で集会と行進が行われた。平日の午前にもかかわらず約300人が集まった。公園の入口で開かれた追悼式では、被害者が生前に所属していたスポーツチームの会長と仲間たちが故人を追悼した。「いつも真っ先に苦労を買って出て、率先して模範を示す人でした」、「被害者はおそらく最後まであきらめずに死闘しただろうと思います」、「被害者についてよく知りもしないのに非難するコメントこそ2次加害です」。被害者が出勤途中に歩いた森の道を、列をなして歩く。木々は青々と生い茂り、土の道は乾いている。加害の現場、被害者が最後まで自らの人生を守った現場で、献花と黙祷をした。そして新林駅まで行進した。「一人でも、森の道でも、安全な国を作れ」、「国が勧める自己責任社会、どういうことだ」、「性平等と尊厳で人間らしく生きたい」。武装しない女性たちがプラカードを手に叫んだ。「装甲車ではなく性平等を!」

//ハンギョレ新聞社

キム・ヘジョン|韓国性暴力相談所所長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1108090.html韓国語原文入力:2023-09-11 18:58
訳D.K

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