昨年2月末のロシアによるウクライナ侵攻後に発生した世界の食糧価格の急騰現象は、再び起こり得るのだろうか。
最近、インドから心配なニュースが聞こえてきた。インド政府は先月20日、自国のコメ輸出の45%ほどを占める品種(バスマティ品種ではない白い米)の輸出を禁止すると発表した。インドがこのような措置を取ったのは、このところ自国のコメ価格が高騰しているからだ。インド商務省は輸出禁止措置を発表した際に「6月のコメの小売価格は1カ月前に比べ3%、1年前に比べ11.5%上がった」と明らかにしている。
インドでは気候変動による豪雨などにより、コメをはじめとする多くの食料の価格が大幅に上昇している。野菜は6月に対前月比12%上昇し、特にトマトは500%上昇した。インド国内でも、コメの備蓄量は4100万トンで必要備蓄量の3倍に達するため、輸出禁止は行き過ぎた決定だという声があがっている。だが来年4~5月に総選挙を控えているナレンドラ・モディ政権は、国内の食糧価格の安定に神経をとがらせている。
インドは世界のコメ輸出量の40.5%を占める最大のコメ輸出国だ。インドのコメ輸出禁止は世界食糧危機の引き金になる恐れがあるとの懸念まで示されている。米国の国際食糧政策研究所(IFPRI)によると、世界42カ国がインドから輸入されるコメに依存しており、ベトナムやタイのような他のコメ輸出大国からの輸入で完全に代替するのは難しい。特に一部のアフリカ諸国は、昨年のインド産のコメへの輸入依存度が80%を超えるという。しかもコメは他の主要穀物より生産国での消費が多く、輸出は多くない作物であるため、輸出大国の輸出制限が国際市場に及ぼす影響は大きい。総生産量に対する輸出量の比率は小麦27%、大豆42%、トウモロコシ16%だが、コメは11%にとどまる。
英「エコノミスト」の見通しによると、インド産のコメの輸出禁止により、世界のコメ輸出は10%ほど減る。ロイター通信の最近の報道によると、インド産のコメの輸出禁止措置後、世界のコメ輸出2位のタイと3位のベトナムの輸出業者はコメ輸出価格を引き上げるため輸入業者に再交渉を要求している。インドに続いてタイとベトナムが輸出制限に乗り出す可能性も排除できない。実際に、2007年6月にベトナムがコメ輸出制限を行うと、同年10月にはインドが、そして翌年の2008年4月にはパキスタンとタイが続き、コメ価格が大きく変動したという前例がある。
インドのコメ輸出禁止はロシアが黒海穀物協定から離脱した時点で行われたことから、なおさら懸念される。ロシアは先月17日、ウクライナ産の小麦などの穀物を黒海沿岸の港から輸出できるようにする黒海穀物協定の満了を翌日に控え、協定を延長しないことを宣言した。その後、ロシアはウクライナの穀物輸出の主要港であるオデーサなどを空爆している。ウクライナはドナウ川を通じた輸出を増やす方向へと向かっているが、ロシアはドナウ川沿いの港もドローン(無人機)で攻撃している。
国連によると、黒海穀物協定が効力を発揮していた時期にも、世界人口の10人に1人が食糧不足に苦しんでいた。インドのコメ輸出禁止の影響は、輸出禁止期間と他国の同調によってその大きさが変わりうる。世界は戦争と気候変動によって再び食糧危機が懸念される暗い状況にある。
チョ・ギウォン|国際ニュースチーム長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )