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[コラム]米CIAが確認させた「尹錫悦リスク」

登録:2023-04-12 06:23 修正:2023-04-12 07:46
キム・ソンハン国家安保室長が辞任した翌日の3月30日、尹錫悦大統領が大統領室庁舎でチョ・テヨン新国家安保室長(中央)に任命状を授与した後、キム・テヒョ国家安保室第1次長と共に記念撮影を行っている=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社

 現実はスパイ映画よりも冷酷で劇的だ。米中央情報局(CIA)が、韓国の外交・安保の最高位当局者らが米国のウクライナへの武器支援要請にどのように対応するかを盗聴し、米国防総省に報告していた。誰かがこの機密文書をこっそり撮った写真ファイルをオンラインで流出させ、全世界が韓国国家安保室の対話を生々しく「盗み聞き」することになった。

 3月初め、当時のイ・ムンヒ外交秘書官がキム・ソンハン国家安保室長に「米国に提供する砲弾がウクライナに送られる可能性がある」として「韓国が明確な立場を決めていない状態で、ジョー・バイデン米大統領が尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領に直接電話してこの問題について圧力をかけることが懸念される」と発言した内容が文書に登場する。ニューヨーク・タイムズなどが報じた。

 彼らはなぜ韓米首脳の電話会談について懸念を抱いていたのだろうか。尹大統領が「ウクライナに殺傷能力のある武器を支援しない」という韓国の原則を表明し続けるなら、問題になることはない。しかし、米国の国賓訪問を大いに期待している尹大統領がバイデン大統領に「ウクライナに砲弾を支援する。責任は私が取る」といきなり約束してしまう状況を予想したのではないだろうか。日帝強制動員被害と韓日関係に対して、外交安保当局者たちが「性急な解決策」を示すべきではないと引き止めたにもかかわらず、尹大統領が「決断」の名のもとに押し通したことを思い出してみよう。尹大統領の独断はもはや韓国外交の「主なリスク」だ。

 「慎重論」を展開したキム・ソンハン室長とイ・ムンヒ秘書官などは先月末「BLACKPINKの公演」をめぐり釈然としない理由でいずれも大統領室から退いた。もはや国家安保室の真の実力者はキム・テヒョ第1次長だ。外交街では「尹錫悦大統領は1日に5、6回、キム氏と単独面談する」という噂が広まっている。

 李明博(イ・ミョンバク)政権時代、韓日安保協力を勇み足で推進したことで辞任に追い込まれたキム氏は、今度はさらに遠くへと進んでいる。韓日首脳会談後の3月18日、キム次長はYTNに出演し、「日本と何かを取引する交渉は望んでいない」とし、日本が「待ちわびていた解決策」を先に提案したことを何の躊躇もなく明らかにした。それと共に「米国を含めグローバル社会が、2018年度(には)『韓国が過去とは違う態度を見せている』というふうに捉えていたならば、今度は韓国が道徳的に、そして大義名分においても『国際社会で生まれ変わった』という印象を与えたい」と述べた。

 キム氏の示す「尹錫悦-キム・テヒョ外交ドクトリン」は次のようなものだ。第一に、文在寅(ムン・ジェイン)政権の外交政策なら何でも反対する(ABM:Anything But Moon)のが重要な基準だ。第二に、キム氏が韓国世論を説得するために出てきた場所でもずっと日本と米国に向けて話しているという点だ。文在寅政権は米国や日本と歩調を合わせない外交を展開したが、「生まれ変わった」尹錫悦政権は米日が信頼できる外交を進めるという約束だ。第三に、「慎重論」が排除され、キム次長の強硬論を大統領が「私が責任を取る」として推し進めたことで、韓国外交の安全装置が崩れている。第四に、米日はもはや他人ではないので、熾烈な駆け引きを通じて「取引する」外交の代わりに、大統領夫妻の儀典と行事が中心となる「外交の私有化」が繰り広げられる。

 米日の国益に韓国の国益を一体化させた反作用で、対中外交が姿を消し、(外交政策における不均衡が)深刻さを増している。ロシアのウクライナ侵攻によって現れた帝国主義的脅威を目撃した多くの国々が、米国と安保協力を強化すると同時に、米国の保護主義と一方主義を警戒しながら複合的外交を展開するのとはかけ離れた流れだ。

 最近の日本の外交を見てみよう。今月1日から2日まで日本の林芳正外相が中国を訪問し、中国が台湾海峡と東シナ海で緊張を高めているとして批判するとともに、中国がスパイ容疑で逮捕している日本人の釈放を求めた。表面的には具体的な成果もなく、隔たりを確認しただけだった。しかし、李強首相、王毅中央政治局委員、秦剛外交部長ら中国外交の最高位関係者が全員林外相に会って長時間意見を交わした。経済回復のために対外環境の改善を目指す中国の動きを利用し、日本は中国との関係を管理し機会を拡大しようとしている。日本は米国の主要な同盟として国際的地位を強化しながらも、様々な方向で外交活動を展開している。

 北朝鮮の核・ミサイル問題が深刻であればあるほど、韓国も中国が朝鮮半島の非核化政策を完全に放棄したのか、中国を通じて北朝鮮を動かす余地はあるのかについて、戦略的探索を放棄してはならない。対中国貿易赤字の急増は、自給自足を強調する中国の政策変化が主な原因だが、韓中関係の管理を通じてその衝撃を緩和しなければならない。台湾海峡危機の可能性も自らの目でしっかり判断し、備えなければならない。なのに現在、韓国外交において戦略はあるのか。米国や日本と歩調を合わせれば、韓国の難題が解決されるというのは国家戦略にはなり得ない。

 キム・テヒョ第1次長は11日、米国を訪問し、韓米首脳会談の議題を最終調整する。今回も「取引する交渉」を排除し、半導体をはじめとする敏感な事案で米国が「待ちわびていた」果敢な譲歩をするならば、韓国の未来はどうなるだろうか。

パク・ミンヒ|論説委員(お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1087402.html韓国語原文入力:2023-04-11 21:26
訳H.J

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