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[コラム]日本のマスコミに心配される尹錫悦大統領

登録:2023-03-21 06:22 修正:2023-03-21 08:24
韓国の大統領が日本の首相に要求でもすべきだったのではないか。会談を台無しにしろと言っているわけではない。譲歩せざるを得なかったのなら、せめて被害者と国民にきちんと説明すべきだったのではないか。読売新聞とは9面にわたるインタビューを行ったのに、その誠意の半分でも国内に注ぐべきだったのではないか。ホテルの職員数人に拍手を送られた程度を「歓待」と言い張るのを見ると、哀れとしか言いようがない。
尹錫悦大統領と岸田文雄首相が16日、韓日首脳会談が終わった後、東京銀座の老舗洋食店で、生ビールで乾杯している=東京/聯合ニュース

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は岸田文雄首相との16日の東京首脳会談に「第三者弁済案」を持って行った。キム・テヒョ国家安保室第1次長がメディアとのインタビューで語ったところによると、日本側は「驚いた。韓国の国内政治において問題にならないかどうかは分からないが、我々(日本)としては待ちわびていた解決策だ」という反応を示したという。これに先立ち、尹大統領は読売新聞とのインタビューで、「求償権の行使を想定していない」として、2018年の最高裁(大法院)の判決を否定した。係留中の訴訟についても、今後確定判決が出ても「第三者弁済」を進めるつもりだから、日本の「心配には及ばない」と語った。行政府の首長が未来の司法府の判決を無視したのだ。これが尹大統領の言う「未来」なのか。

 「国内政治における波紋」を甘んじて受け入れてまで期待したのは「最小限の謝罪」と「加害企業の韓日・日韓未来パートナーシップ基金への参加」だった。しかし岸田首相は「歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいることを確認する」と曖昧に述べた。「金大中(キム・デジュン)-小渕共同宣言(日韓パートナーシップ宣言)」の代わりに「1998年10月に発表した日韓共同声明」という言葉を使った。「強制動員」も「旧朝鮮半島出身労働者問題」と表現した。「痛惜の念」(1990年、訪日した盧泰愚大統領を歓迎する夕食会で明仁天皇が述べた言葉)のレベルだ。キム次長は、日本の公式謝罪が20回を超えると語った。とりあえず謝罪して後に翻すのなら、前の謝罪が有効といえるだろうか。

 韓国は世界貿易機関(WTO)への提訴を撤回した。2018年10月の最高裁確定判決が出たことを受け、日本は2019年7月、フッ化水素など3品目を対象に輸出規制に乗り出し、8月にはホワイト国(輸出審査優待国・現グループA)から韓国を除外した。これに対し韓国は9月、WTOに提訴した。今回、日本は輸出規制を緩和しただけで、グループAへの復帰は「これから協議」すると発表した。韓国政府は今回の首脳会談を機に、日本が執拗に求めてきた韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)も完全正常化すると発表した。これが「国益」なのか。

 首脳会談後、共同通信など日本メディアは「当局者」の話として、首脳会談で韓日「慰安婦」合意の履行、竹島(独島)問題なども取り上げられたと報じた。もし事実ではないのなら、韓国政府は「議題として議論されたことはない」などと言葉を濁さず、韓国でそうしたように、日本メディアを相手取り訴訟を起こせばよいではないか。

 さらに佐渡鉱山(「佐渡島の金山」)の世界遺産登録、福島原発汚染水の海洋放出、福島産の海産物の輸入規制、2018年海上自衛隊哨戒機をめぐる対立など、様々な請求書が尹政権を待っている。低姿勢だからこそ、高圧的な態度を取られるのだ。これを俗に「カモ」という。日本のマスコミまでも尹大統領を心配し、日本政府にあまり窮地に追い込まないで「呼応」するよう促しているほどだ。

 冷え込んだ韓日関係を改善しなければならないという尹大統領の考えに同意しない国民はいないだろう。いつまでも日本を敵対視するわけにはいかない。しかし、だからといって、このようなやり方で関係改善を進めてはならない。なぜこんなに急いだのだろうか。おそらく、4月26日の訪米前に決着をつけて米国に称賛され、5月の広島主要7カ国首脳会議(G7サミット)にも招待されたかったのではないかと推察するだけだ。時間に追われると交渉力は低下するものだ。

 今回の「解決策」は、韓国社会の激しい反発に遭い、機能不全状態に陥った2015年12月の朴槿恵(パク・クネ)政権の韓日「慰安婦」合意よりもさらにひどい。当時、日本は「謝罪」し(「日本政府は責任を痛感している」、「安倍内閣総理大臣は~心からおわびと反省の気持ちを表明する」)、10億円の基金を拠出しており、当時外相だった岸田氏が韓国を訪れた。

 日本が今回、心から謝罪し賠償を行う意向を示すと期待した韓国人はほとんどいなかった。しかし、韓国の大統領ならば、日本の首相に要求でもすべきだったのではないか。協議を台無しにしろと言っているわけではない。譲歩せざるを得なかったのなら、せめて被害者と国民に説明でもきちんと行うべきだったのではないか。読売新聞と9面にわたる長いインタビューに応じたが、その誠意の半分でも国内に注ぐべきではなかったのか。首脳会談直前まで日本側の動きも予測できず、ただ「日本の誠意」に期待していただけなのに、今になってホテル職員数人に拍手されたことを「歓待」と言い張るのを見ていると、哀れとしか言いようがない。なぜ被害者である私たちが「日本人の心」を掴もうとやきもきしなければならないのか。

 高い「地位」に就くと、「力」と「情報」が集まる。すると、自分が下すすべての決定が正しいという錯覚に陥る。「地位」と「能力」を混同するためだ。ましてや権威的である人なら、周りが口を閉ざしてしまう。だから、傲慢な姿勢を捨て、専門家や自分に反対する人々の話に耳を傾けてこそ過ちを減らすことができる。尹大統領は13日、与党「国民の力」指導部との夕食会で、「誰かは負担を背負ってでも整理していかなければならない。非難を恐れて何もしなければ国益に役立たない」と述べた。このような発言は拍手する準備ができている与党幹部の前ではあえて言う必要もないだろう。「負担」ははっきりしているのに、いかなる「国益」を手に入れたのかは見えてこない。だから、少なくとも今回の事態を「成果」と言い張るのはやめてほしい。

//ハンギョレ新聞社
クォン・テホ | 論説委員室長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1084395.html韓国語原文入力:2023-03-21 02:42
訳H.J

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