尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が国家情報院の持つ対共捜査権の警察への移管について「海外捜査とつながっているため、国内にいる警察が捜査を専門に担当する部分については検討の余地がある」と述べた。与党「国民の力」が連日強調している国情院の対共捜査権存置論を擁護した格好だ。国情院改革の趣旨に真っ向から反するという点で、深刻に受け止めざるを得ない。
尹大統領と国民の力指導部は26日の昼食会で、来年の対共捜査権移譲を明示した改正国情院法について、補完検討が必要だということで意見が一致したという。北朝鮮との接触は主に国外で行われるため、警察が対共捜査を担うには限界があるというのがその理由だ。ただし、多数党である野党「共に民主党」が国情院法の再改正に反対しているため、当面は警察・検察・国情院の合同捜査チームを設置することになるとみられる。「支援」のかたちを取ることになるとしても、国情院が捜査に実質的に介入する公算は大きい。
国情院の対共捜査権を警察に移管することは、国内情報の収集の廃止とともに、国情院改革の最も重要な部分だ。国情院は軍部独裁政権時代から捜査権を悪用し、多くのスパイ事件をでっち上げてきた。民間人に対する違法査察、国内政治への関与などに手を染めてきたことも本質的に同じだ。それほど昔のことでもない。2013年にはソウル市公務員のユ・ウソンさんをスパイに仕立て上げるために証拠をでっち上げていたことが明らかになり、指弾の対象となった。この事件によって国情院改革が時代的課題として浮上し、2020年の国情院法改正を通じて、国内情報収集権限の廃止および警察への捜査権移管が確定した。ただし、捜査権移管は安保捜査の空白などを理由に3年間猶予され、来年1月1日に実施される予定となっている。
与党は連日、警察の対共捜査力が足りず国外情報の収集に限界があると強調している。しかし国情院法上は国情院の捜査権がなくなるだけで、内偵の段階における必要な情報収集や調査の権限はそのまま残っていることを、わざと無視する主張だ。国情院が国外諜報網を通じて収集した情報を警察と共有するというやり方が可能なのだ。
法施行を1年後に控えて全方位的なスパイ捜査が物々しく進められ、国情院の職員が「国家情報院」と明示されたジャンパーを着て家宅捜索を行ったことは、国情院の存在感を誇示する示威と映る。そのうえ尹錫悦政権発足後、国情院は身元調査の強化など権限拡大を着実に推進している。政権勢力による国情院の捜査権存置の試みは、情報機関をまたしても国内政治に利用しようとしているという疑念につながるだろう。