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[山口二郎コラム]日本の防衛政策の変化、民意はどこへ行くのか

登録:2023-01-16 07:03 修正:2023-01-16 07:22
山口二郎|法政大学法学科教授
昨年12月16日、岸田文雄首相が「敵基地攻撃能力(反撃能力)」を明示した国家安全保障戦略を閣議決定した後、東京の首相官邸で記者会見をしている=東京/聯合ニュース

 ロシアによるウクライナ侵攻の終わりが見えないまま新しい年を迎えた。新年の挨拶では、今年はよいことがあるように祈るというのが定番だが、多くの日本人は2023年を安全保障と経済の両面で大きな不安を抱える中で迎えることとなった。ロシアがウクライナに侵攻したのと同じように、中国が台湾を攻撃する可能性があるという認識が日本における防衛力増強の根拠となっている。そして、昨年12月に岸田文雄政権はこれからの5年間で防衛費を倍増し、GDP比2%にすること、敵国の基地を攻撃する能力を保持することを柱とする新しい安全保障戦略を決定した。

 防衛力強化自体には、国民の支持が存在する。岸田政権の政策転換を受けて日本経済新聞が昨年12月末に行った世論調査では、防衛力強化について支持が55%、不支持が36%だった。倍増させる防衛費でどのような装備をそろえ、自衛隊の編成をどのように変えていくかという具体的な議論は、まだない。東アジアにおける緊張の高まりに漠然とした不安を抱く国民にとって、巨額の防衛費はお守りのようなものだろう。

 国民が本気で日本の安全保障について憂慮し、防衛力強化を自分の問題として受け止めるならば、そのための費用負担についても国民的合意ができるはずである。しかし、現実に防衛費の財源探しを始めると、国民の反応は複雑となる。民間放送のTBSが1月初めに行った世論調査によれば、防衛費増額について、賛成が39%、反対が48%と、先に紹介した日本経済新聞の調査に比べて反対論が急増している。その理由は、昨年末の政府、与党の政策論議の中で、防衛費の財源として近い将来に1兆円の増税を行うことが決定されたことへの反発が考えられる。TBSの調査では、防衛費増額のための増税について、71%が反対と答え、賛成はわずか22%だった。

 防衛政策をめぐる民意の動揺を見ると、日本国民が直面している政策課題について冷静な議論を行うことが難しいと感じる。政治とは国民に共通する困難や課題を協力して解決するという活動である。今の日本人にとって、人口の急速な減少、経済的停滞と科学技術の遅れ、安全保障環境の険悪化など難問が山積している。他方、日本の財政赤字はGDPの2倍を超え、先進国で最悪である。また、昨年末以来、国債の金利が上昇し始め、日本銀行による国債購入と低金利誘導という政策が限界に突き当たっている兆候が表れている。いくらでも国債を発行できる時代はもうすぐ終わるのだろう。

 この時代、未来に不安を持つことは自然な心理だと思う。課題についてイメージだけで受け止め、漠然とした不安を抱くという思考停止状態が続けば、日本の凋落が続くばかりである。人口減少であれ、経済的停滞であれ、問題には原因がある。不安を招いている原因を正確に認識し、その上で対策について費用・効果の両面から吟味し、合意された政策に限りある資金を投入するという意思決定が今の日本には必要である。

 日本の古い俳句に、「幽霊の正体見たり枯れ尾花(枯れ尾花とは枯れたススキのこと)」というものがある。我々を怖がらせているものの正体を見据えるには知性が必要である。知や文化を軽んじる日本の政策は根拠のない恐怖を蔓延させ、政府は不安な気分に乗じて効果不明の政策を進めようとしている。

 民主主義の歴史をさかのぼれば、増税によって懐を痛められることに対する反発が民主主義拡大の契機であった。防衛増税への反発が大きいことは、とりあえず健全な民意ということはできる。しかし、それが民主主義を進化するための突破口になるのかどうかは不明である。私たちが若者や子供たちにどのような社会を残したいのか、そのためにどれだけのコストを払う決意があるのかが問われている。

//ハンギョレ新聞社

山口二郎|法政大学法学科教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1075768.html韓国語記事入力:2023-01-16 02:35

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